第45話 謎の男との遭遇と目的
「はい、通行証返すね♪」
エノルム城で一晩過ごした翌日、コリンはマルシャンの町へ1人移動魔法で来ると真っ先に酒場を訪れた。
「ああいやいや、それはもう良いんだ」
「え?」
通行証を返そうとするコリンだが、マスターは受け取ろうとしなかった。
「女王が急に関所を廃止してね、もう自由にエノルム王国へ行き来が可能になったんだよ」
「へぇ~、もうそんな事になってたんだ…」
昨日アマンダが自軍の侵攻を静め、民にも謝罪をして重税を取り止めたばかりだった。
彼女はいつの間にか関所にまで手を回して、誰でも通行可能にしたのだ。
「本当何が起こってるのかサッパリ分かんないもんだね。まぁ何か良い方向に行ってくれて皆喜んでいるみたいだし?あたしらの店に来るお客さん増えて来たから良い事だけどね!」
料理長の妻は豪快に笑っていた。
皆が当然知らない、目の前の子供は魔王で彼がエノルム王国を変えた事を。
だがこれで良い。
事実を告げて驚かせるよりも、幸せそうに笑ってくれる方が良いのだから。
コリンは改めて礼を言うと酒場を後にする。
「(さ、戻ろうかな…)」
この町でするべき事は終えた、エノルム城に留まったままの皆を迎えに行こうと移動魔法の準備に入るコリン。
「やあ、魔王にして国を救った英雄君」
「…!」
そこに背後から声がして、背中に寒気を感じながらもコリンが振り返ると、彼が微笑んで立っていた。
忘れられない桃髪の男、グランは再びコリンの前に現れる。
「1日で戦を止めて国のルールも変えさせた。それで東の大陸に平穏がやってくる…素晴らしいね」
「何でそれを…見てた?」
「いや?そんな芸当が出来るとしたら反則級の力を持つ魔王の君とあの赤髪の彼女だろうなと思っただけさ」
その場で見ていたかの如く、今回の騒動を静めたのはコリンだとグランが言い当ててみせた。
「争いは多くの悲しみを生んでしまう。それでも人は…いや、生物は争い戦ってしまう…どうしてか分かるかな?」
突然グランは何故争うのか魔王に問う。
「手に入れたいという欲があるから?」
「そうだね、欲の為に色々動いてそれが原因となって大規模な戦にまで発展してしまう事だってある。明確な答えかは分からないけど案外君の言う事が正解に近いかもしれないね」
争う理由としてコリンは様々な欲望があるから、彼の目を見上げて答える。
手に入れたい、支配したい、上に立ちたい等の欲望が根本にあるんじゃないかと。
「それをしているのは自分の事しか考えない愚か者だけ。そういう奴は正そうとしても分かってくれないか、分かったフリをして逃げるものだよ」
語っている間にグランの表情から笑みは消えていた、彼の言う愚か者について話す彼からは、憎しみのような感情がコリンから見える。
「グラン…一体何が言いたいの?グレーゴルとかそれこそ欲の塊みたいだったし、彼は君の言う愚か者じゃない?」
「人も魔族も使いようさ。彼の性格が好きという訳じゃないけど彼の能力は使えると思ったんだ」
今の会話でグランがグレーゴルに対して、使える駒としか見ていないように思えた。
ピンチの所を救った仲間のはずだが、彼らの間にそれほど強い絆は無いと見て良さそうだ。
「魔王コリン、君は何を目指している?」
グランはコリンの目を真っ直ぐ見て問いかける。
「目指すのは…皆がのんびりまったり暮らせる世界だよ。それが1番楽しい世界だと思うからさ」
「やはり面白いな君は」
問いかけにコリンは見つめ返すと、迷いの無い目でハッキリと答えていた。
グランの笑みは再び戻り、可笑しそうに笑う。
「魔王という存在は世界征服を目指し、世界を混沌に陥れていくものだけどコリンは例外らしい」
「今までの魔王がそうだからって僕まで同じにやる必要は無いでしょ?」
「それはそうだ、全くその通り」
これまでの魔王と同じにはならない、コリンはそんな世界よりも自分の思い描く世界の方がずっと楽しいと思っている。
世界征服という点では同じでも、平和な方を望む。
この点が歴代の魔王と致命的な違いだった。
「というかグラン?僕が答えて自分の答えを誤魔化してない?」
話をずらされているような気がして、コリンの目はグランの姿を捉えて離さない。
「ああ…何だったかな?」
分かっているのか、本当に忘れているのかグランは再び尋ねる。
「欲にまみれたのが嫌いそうなのにグレーゴルが仲間だったりと、君が一体何がしたいのかだよ」
改めてコリンが企みについて問う。
「この世の愚かな悪を残らず消す為さ」
「悪を…?」
グランの考え、それを聞いてどういう事だと再び聞こうとするも、グランは移動魔法を使用して姿を消してしまう。
「(愚かな悪を消す…どういう意味…?)」
彼の真意がいくら考えても分からない。
本当にこの世の愚かな悪を消したいのか、それとも本当の目的を隠す為の嘘か。
男が去った後の吹く風は気の所為か冷たく感じて来る。
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