第38話 そんな世界何が楽しいの?

「魔族…分かりづらいね、何か同じ匂いが感じられなかったし」


 正体を明かした魔族の男グレーゴル、彼が魔族だとはコリンからすれば感じ取れなかった。


「当然だ、身を隠し欺く事に感じて俺の右に出る者はいない!そのはずだったんだが」


 するとグレーゴルの視線はコリンから後ろに控えるカリーノへ向けられる。


「人間どころか魔族にも俺の正体は分からないはずだったんだが…小僧エルフだな?」


「っ…!」


 自分の正体を見破ったという事はそれぐらいしかあり得ない、カリーノがグレーゴルを魔族と見破ったように、向こうからもエルフである事がバレてしまう。


「ふん、まあどうでもいい。それよりも魔王コリン…貴様は魔族の頂点に立つ身でありながら平和を求めるのが好きみたいだな」


 興味が薄かったせいか、グレーゴルはカリーノから視線を外し再びコリンに、その目を向けていた。


「そういう君は違うみたいだね?何をしたか知らないけど女王に戦を仕掛けるようにしたっぽいし」


 目の前にいる魔族の目をコリンは真っ直ぐ、彼の企みを見透かすかのように見据える。


「ああ、この女王は俺の操り人形と化している。俺が裏から操ってベッラ帝国に侵攻するようにしたのさ」


「黒幕っぽいかと思えばマジの黒幕じゃんー!(というか頼んでもいないのにペラペラ喋ってくれたりと、この世界の悪人は案外良い奴?)」


 アマンダを侵略国の女王にさせたのは魔族のグレーゴル、彼が黒幕と知ってアリナは驚くと共に、色々喋ってくれるんだと、向こうから教えてくれる情報を逃さず聞いていく。


「グレーゴルだっけか?何でそんな多くの者が巻き添えに遭うような事を企んだの?」


 一体何故こんな事をやったのか、グレーゴルの目的についてコリンは尋ねる。

 多くの者が傷つき、悲劇に嘆き苦しみ、誰も幸せにならないような事を、彼は何故アマンダを操ってやったのか。


 するとグレーゴルは見下すような笑みを浮かべた。



「決まってるだろうが、この世界で絶えず争いをやってもらう為さ」


「それって戦が終わらず皆でずーっと戦い続けさせる…?」


「ああ、帝国が敗れても争いの火種は生まれてエノルム王国に刃を向ける国がまた出て来て争い繰り返す。その歴史を繰り返させてこの世界は混沌と化して堕ちていく」


 争わせ、そこから火種を生んで戦を絶やさずまた争わせる。


 アリナの問いに対して答えながら、グレーゴルは語り続ける。


「その繰り返しで混沌に満ちた世界、血と殺戮に満ちた素晴らしい世界になるだろう!」


「…」


 コリンは心底理解出来なかった。


 彼の語る世界は誰も幸せにならず、誰もそんな世界を喜びはしない。

 それなのに何故目の前の魔族はそこまで喜んでいるのかが。


「君は血と殺戮…それが好きなのかな?」


「ああ!人間に近いとはいえお前も魔族なら分かるはずだ!絶望、苦しみ、怒り、悲しみ、憎しみ、それが我々魔族の力の源なんだとな!」


 同じ魔族でもコリンとは全く違う、グレーゴルは人々の不幸を己の餌としており求めていた。


 世界が争えば争う程に自分の力となって満たされる、それの為に彼は動き世界を戦いに巻き込もうとしているのだ。


「魔族の力にする為にそんな事…!」


「珍しくもねぇな、魔族の中にはそういう奴も居る。あいつ1人が特別な思考って訳じゃねぇんだ」


 あまりにも勝手だと、恐怖よりも怒りの方が勝りつつあるカリーノ、睨むような目で高笑いするグレーゴルを見た。


 一方のマルシャは冷静で、珍しいタイプの魔族ではないと怒りを抱く事もなく、カリーノと同じ方向を向く。



「そんな事辞めろって言っても辞めてくれないかな?」


「当たり前だ、これからが素晴らしい時だと言うのに何故わざわざ辞める必要がある?」


 コリンの言葉をグレーゴルは鼻で笑う。


 世界を混沌に陥れる第一歩がこれから起こる今、わざわざ辞める理由が彼には無かった。


 アマンダの時以上に、話し合いでの解決は出来そうには無い。



「悪いけど全く理解出来ないよ、それの何が楽しいの?血と殺戮に満ちた世界で喜ぶ…あり得ない」


 グレーゴルの描く世界とコリンの描く世界、それらは全く異なり、コリンは彼の語る混沌の何が楽しいのか分からない。


 同じ魔族でも全く違う。


「ふん…俺からすれば争わずに皆で暮らそうとする魔族の方が理解出来ん。平和を望み目指す魔族など聞いた事が無い!それも魔王程の者が!」


 コリンが受け入れられないように、グレーゴルもまたコリンの考えを受け入れる事が出来なかった。


 魔族にとって全く糧にならない平和、そんな世界を実現させてはグレーゴルにとって住心地の良くない場所が増えてしまう。


 同時にコリンのような者が魔王を務めている事が疑問であり、気に食わないと思った。


 そこからグレーゴルの行動は早く、常人離れのスピードで玉座に座るアマンダの側まで移動する。



「え?何?まさかその女王を盾にして逃げる気とか!?」


 アリナは身構えると、グレーゴルのやりそうな行動を予測して言葉に出す。


「逃げる?盾?ほざけ人間の女が!」


 吠えると共にグレーゴルの体に変化が起こる。


 自らの体が消えかかる、と思ったらアマンダへ飛びかかり彼はそのまま姿を消してしまったのだ。



 すると次の瞬間、アマンダが玉座から立ち上がり右手に持っていた扇をコリン達に向けて勢い良く扇ぐ。


「っ!」


「うわぁ!?」


 突風が吹き荒れ、コリンとアリナの2人は吹き飛ばされないように踏み留まる中、カリーノが頭にかぶっていたキャスケットは風によって飛ばされ、特徴であるエルフの長い耳が露わとなった。



 扇を持ち、怪しい笑みを向けるアマンダは先程と違う雰囲気を纏い、そこから高い魔力を発している。


 グレーゴルが乗り移り彼女を意のままに操って、文字通りの操り人形と化してしまう…。




 ーーーーーーーーーーーーーーー


 此処まで見ていただきありがとうございます。


 私事ではありますが、本日3月28日…


 誕生日を迎えました♪あまり関係無い報告すみません!


 誕生日おめでとう!と祝ってくれたり、この作品を応援したいとなったら作品フォローをしたり、♡や☆☆☆の横にある+のマークを押して応援いただけると執筆の力となって嬉しいです。



 コリン「結構緊迫な展開だけど、まあおめでとうって事でー」


 マルシャ「とりあえずこれぐらいで良いよな、作者に対しては」


 アリナ「間の悪い時に誕生日迎えちゃったねぇー」

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