第20話 意思と因縁
「あれ、こんなところで何してるの?」
とある裏路地で俺は溜息をついているところに後ろから声をかけられた。
俺が振り返るとそこには見慣れた着物に身を包んだ少女がいた。
「ちょっとな…」
「あ、そう…」
少女は俺のすぐ近くで転がっているものを見て、なんともいえない表情で返す。
それでも少女自身、見慣れていないとか、それは絶対ダメだとかの認識は無いようで、何も言ってこなかった。
「お前も何してるんだ?
いつも神社にいると思ったんだがな」
俺は少女に対してそう言うと少女は少し頰を膨らませる。
「失敬な、私とて好きであそこにいる訳じゃないの。
あと、今回はちょっとした仕事が…と思ったけどもう終りみたい」
「うん?
どうしたんだ?」
先程から転がっているもの…いや、男達を見て少女は溜息を吐く。
俺はどうしたんだ?とアイコンタクトを送る。
「今回の仕事は密輸などをして兵器を持つ殺し屋などの武装集団の抹殺なの」
俺は少し考えてあっという間に答えに辿り着く…。
ここに転がっている男達が密輸などをしている集団なのだろう。
「悪いな、仕事を奪っちまって」
「いや、いいよ。
とりあえず、いつもの神社に行こう」
そうして俺達はいつものように神社へ歩き出す…
*************
ふと目を覚ますとそこは教室だった。
どうやらまた眠ってしまったらしい。
丁度、昼休みに入る前の授業でもうすでに今日の授業の締めくくりに入っていた。
「んじゃ、今日はこれで終わりだ。
ちゃんと復讐しろよ、特にこの文法はこれからも出るからな」
英語の担当であるジャックはそう言って授業の時にしている眼鏡を外す。
キンコンカンコン
と丁度いいタイミングで四限目終了のチャイムが響く。
それを合図に先程まで静かだった廊下や教室が騒がしくなる。
今日は奈那に技法を教える約束をしていたから行かないとな…。
「おい、北条。
少し面貸せや」
俺が席を立つタイミングでひとりの男子生徒が声をかけてくる。
確か、初日に声を掛けてきたいじめっ子のリーダーだっけ?
タイミングもいいから今日のうちに引導を渡しておこう。
約束に遅れるのは少し不安で罪悪感があるが、これから先こいつに突っかかられる方が迷惑をかけるかもしれない。
俺は溜息を吐き、大人しくついて行くことにした。
その際に雪菜達が遠巻きで見ていた。
他にも、またかと言った表情で見ている人も複数確認できた。
しかし、おそらく今回はそういった連中の想像を裏切ることになるであろう。
ほんの少しだが俺は空を見上げた。
この時の俺はおそらくバツの悪そうな顔をしていたのだろうか?
それとも、無表情で貫くことができたのだろうか?
多分、この答えは人によって変わると思う。
******奈那*******
「遅いなぁ」
勇君を待っているのだが、普段は来ているはずなのに未だに来ていなかった。
お弁当を食べ終えて、ソワソワしていたがいい加減我慢の限界が来て一度勇君の教室に行くことにした。
三限目と四限目の間の時は寝ていたので、まだ寝ているのでは?と思い来て見たのだが…。
「いないなぁ」
普段いる机を見てみるが、見事なまでに居なかった。
周りを見てみるがやはりどこにもいない。
「寺等院だったか?
勇馬なら何だか雰囲気悪そうな奴らに連れて行かれていたぞ」
ふと、声をかけられてその人を向く。
そこには長身の男の人がいた。
しかし、今はそこを気にするポイントではない。
この男の人は今、なんて言った?
今の言葉は心当たりが一つだけある。
「えっと、誰だか知らないけどありがとう」
そう言って私は駆け出す。
そして、下駄箱で靴に履き替えて…。
ドン
と人にぶつかる。
「す、すいません」
「いや、こちらこそ悪い。
急いでいたからな」
私が謝ると聞き覚えのある声で謝られた。
声の本人の姿を捉えるとそこには
「勇君!」
「奈那?」
その言葉は同時に放たれていた。
勇君としては私がここにいるのが意外だったのだろう。
「すまない、ちょっと事情があって来れなくて…」
「あ、うんうん。
いいの、こっちも丁度用があったから明日お願いしていい?」
私は謝られるが、咄嗟に取り繕い勇君に負担がかからないようにする。
「そ、そうか?」
「うん、んじゃちょっと行ってくるね」
疑わしそうな目で見てくるが、私はそれに逃げるように外に出た。
その時、私はふと疑問に思ったことがあった。
勇君にどこか違和感が感じたのだ。
「まぁ、多分申し訳なさかな?
別にあいつらが悪いからいいのに…えっ?」
一体何が勇君にあったのか少しでも知るためにあいつらの溜まり場である体育館裏を覗いた瞬間だった。
その異様な光景に目が奪われた。
そこには何人もの男子生徒が倒れており、そのいずれもいじめを行ってきた男子だった。
更に気絶こそしているが傷はそこまで深く無く、命にどころか下手な障害にならないレベルである。
「これを勇君が?」
その光景に私はどこかデジャヴを感じた。
やはりダメだ。
早くその癖を直さないと…。
自分の思考でほんの少しだけ冷静を取り戻して誰かが起きる前に私はその場から退散した。
******勇馬*******
「…だから何度も言ってますが関係ありません」
放課後、俺はうんざりするような時間を過ごしていた。
昼間のアレが問題になったから俺が呼び出された訳だが、俺はしらを切ることにしていた。
「だからね、君しかいないんだよ。
何であんなことをしたのかな?」
明らかにこの人は俺が悪いと言った表情で諭しかけてくる。
「第一、その人達は普段からの素行が悪かったんですよね?
なら、仲間内の喧嘩で俺に責任を押し付けてきた可能性があるじゃないですか?
証拠すら出揃っていないのに俺と断定するのは無理があるのでは?」
「でも、全員が全員だよ。
おまけにその日、君は彼らと一緒にいた。
それだけで証拠としては充分だと思うのだが?」
「分からないじゃないですか。
口裏を合わせている可能性もありますし。
考えてみても下さい。
もし、俺がやったとしても俺が無傷な訳ないじゃないですか」
実際問題から見てもそれは気にしない訳にいかないことだ。
年の差や圧倒的な実力差がない限り多対一の一の無傷での勝利はほぼ不可能である。
そこを突かれては何も言えないのか先生は黙る。
「それに、もし犯人が俺だとして彼らに小学生の時にいじめを受けたんですよ。
それの報復だと考えれば当然では?」
「でも、昔は昔、今は今だぞ」
「そうですね。
でも、幾ら何でも大人数で相手はいるんですよ。
そんなことを考えていたらまたいじめられる可能性があるんですよ。
先生とあろう方がいじめを許容すると?」
何か反論しようとするが何も言わない。
おそらく、この先生は諦めたのだろう。
説教が始まってから二時間。
この調子で取りつく島もない。
その時点でいくら怒っても意味はないと判断するのが普通である。
「もう、何もありませんね?」
俺はそう言って席を立ち出て行く。
そうして、昇降口のところでジャックが立っていた。
「ジャックもお説教かい?」
俺が軽口気味にそれを言うとジャックは首を横に振る。
「お説教なんて必要ないだろ?
そもそも、俺達は必要とあらば、この手が血に濡れるようなことだってするのだから。
俺が言いたいのはその癖を直せ」
俺はジャックが何を言いたいのかすぐに分かり、苦笑いをする。
おそらく、これに関しては雪菜達も同じことを思っているのだろう。
「そんな顔をしたら俺達が余計な心配までしてしまう。
それはお前にとって困るだろう?」
「すまない」
俺は頭を下げて謝る。
「謝って欲しいわけではない。
そこもお前の良いところだからな」
そう言ってジャックは職員室の方まで戻る。
俺は溜息を吐いて、帰路につくことにした。
明日から少しずつ陰陽師について調べることにしよう。
そんなことを考えながら俺は家への帰り道を歩いていた。
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