第5話 元勇者、決意表明します!

「ち、違うんだよくぅちゃん!これは本当にただの生理現象ってやつなんだ!久しぶりに会ったもんだからつい…本当に…本当に会いたかったんだよおおおお」

「ぎいニャああああ来ないでえええ!それ以上近づいたら引っ掻くんだからっ!!」

「ごめん!すぐに抑えるからっ!ふんっ、こんのおおお引っ込めええええ!」


 俺は懸命に異世界で習得した股間を一瞬で収納する特技(以前説明した)をするが、一向にアレが静まる気配が無い。


 くそぅ…何故だ…ッ。久しぶりに最愛の人に会ったからだろうか。俺の特技が全然発動しやがらない。一番大事な時だろうが…ッ!


 その間にもどんどんくぅちゃんは猫耳を逆立たせながら、尻尾までピーンと伸ばして威嚇を強めていく。今にもシャアシャア言って飛びつかれそうな勢いである。


「キモい!超超キモい!最っ低っ!会って早々何て事してくれてんのよ!」

「そんな…お願いだからせめてもう少し俺に優しくしてくれええ!ずっと会いたかったんだよおおお」

「イヤ!!!離れて!!!」


 涙が止まらない。いやあ、今俺がキモくて悪いのは百も承知なんだけど流石に心が折れちまうって。


「そんな事言わずにさ。ほら、いつも仲良しだったじゃん!甘えてきてくれたじゃん!いつも一緒にいてくれたじゃん!」

「…知らないっ!奏多がしつこいから仕方なくしていただけよ!本当はずっと馴れ馴れしくされてイヤだったんだからっ!」

「そんな…マジかよ…」


 グサグサと言葉のナイフが俺の心臓をこれでもかと貫いていく。


 俺、この子とラブラブしたいが為にものすご〜く頑張って頑張って魔王倒してきたんだぜ?一応世界も救ったんだよ?その仕打ちがこれかよ!


 そんな俺の気も知らず、くぅちゃんの次の一言が俺にトドメを刺す。


「もう奏多なんて嫌いニャ!大っ嫌いっ!」

「ひで◯(ポキッ)」


 俺は真っ白な灰になってその場で崩れ落ちた。


 ははは。今なんと?嫌い?大嫌い?ああ、ヴィネラの言ってた事は本当だったんだな。


 ダメだもうコレ。心が折れた。


「………終わった」

「……奏多?」

「………」

「奏多!」

「………」

「……え?奏多!?奏多ぁ!イ――」

「まだだ!まだ終わってなあああああい!」

「ニャ!?」

「ふふふ。ふはははははははははは」

「ど、どうしちゃったのよいきなり…」


 終わりだと?否ッ!これは始まりにすぎない。


 そうだ。終わってなんかない。こんなんで心なんか折れてたまるかよ。何のためにあのイかれた世界で頑張ってきたというのか。


 俺は仮にも元勇者だぞ?魔力を持たないと蔑まれ、童貞だ何だ言われても死ぬ気で努力してきたんだ。それは何のためか思い出せ。


 全てくぅちゃんとラブラブになる為だろうが。一回嫌いと言われたくらい何だ?


 今は俺が嫌いでもいい。人間にして貰っただけで十分だ。人間と猫という超えられない壁を突破出来ただけでお釣りがくるぜ。


 エロインから童貞守り抜いた童貞勇者の根性舐めんなコラぁぁぁぁ!


「くぅちゃん!!」

「ひゃい!?」

「俺は必ず君に俺の事を好きにさせてみせるよ。必ずな。震えて待て。ふはははははははは!」


 俺は高笑いしながらそう宣言してみせた。


「……ッ。変な事言ってないで早くそのいやらしいモノをしまいなさい!」


 おっと、こりゃ失敬。ったくこれじゃあ格好が付かないぜ。力を全集中する事で、今度こそ簡単に引っ込める事に成功する。


 我ながらこんなんじゃ先が思いやられる。でも俺の目的は最初からずっと変わらない。必ずくぅちゃんを手に入れて見せるんだ。そしてラブラブするんだいっ!


 そう、俺自身の魅力で!!



 俺は拳にグッと力を込めた。





 …あー、でも一応明日はお医者さんにくぅちゃんを診てもらいに行ってもいいスか?あまり予想と違ったもんで、もしかしてもしかすると俺との記憶を忘れちゃってたりするかもしれないんで。ええ。

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