第5話
俺は奴らのアドバイスについて真剣に考えた。
役に立つ上でなにが肝要なのか、俺はテストステロンを沸き立たせながら、小さな片割れたちと討論した。俺はいつだってつながりを大切にしてきた。失われた俺の局部は他人との接点だった。なるほど、俺は思えばつながりを大切にしてきた男だった。ポリシーだ。
接続だ。俺はだれかと、何かと、つながることで『役に立つ』ことができる。
世間でも馬鹿みたいに喧伝しているではないか。広告でしたり顔の経営コンサルタントが、先輩面のビジネスマンが、成功者のインタビューが、口うるさくひととのつながり、コネクションですよ、と。問題は俺の役立たずをどうやったら、役に立たせることができるか。
忘れっぽくなった俺は、他人がどうやって接続しているのかを観察した。
まずは挨拶だ。会話が重要らしい。よくくっちゃべっている。それとシェイクハンド。
意味を与える。サプライズも必要らしい。
俺は接続詞を体に取り入れることを思いついた。なんせISO規格だ。なんにでも合うはずだ。
だが、接続詞単体では文章に内容を持たせることができない。つまり、接続詞のあとに続く俺自身の味付けが試されるのだ。とにかく、やってみなければわからない。まず、他人にくっついてみて出たとこ勝負だ。
「いい天気だ。いつまでも同じ場所のアスファルトを剥がして塗り直して、また剥がして塗って。景気が良いな」
そして、俺は道路工事の交通整理の旗振りに接続した。
「工事車両が通ります。お気をつけください」
だが、旗振りは無機質に台詞を繰り返し、赤、白、赤、白のパターンを切り替える。どうやら、こいつには俺が煩わしいらしい。おそらく、歩行者などいないほうがいいと考えているに違いない。
挨拶も返さんとは、なんて失礼なやつだ。俺はすぐさま繋がりを絶った。
次に、目をつけたのは角のパン屋の店員だ。要するに、日中の女だ。
「ご機嫌よう。最高のモーニングにふさわしい焼き立てをくれ。お前達のフランスパンはどんな最高を挟むんだ?」
そして、俺は通路に立ちはだかり、カウンターに戻ろうとする女に接続詞を押し当てた。
「ごめんなさい、モーニングのサービスは終わったんです。もう、お昼でしょう?」
つまり、何だ? つまり、女が俺を邪険にしていることがありありと伝わってきた。
俺は女の方から突き飛ばされ、つながりを断ち切られた。なんてことだ。まだ十一時だぞ。俺はポジティブに捉えることにした。サプライズが過ぎたのかもしれない。もっと良質な接続が必要だ。行き当たりばったりでうまくいきっこないのはギャンブルと同じ。周到に重ねたゲンが運気を引き寄せるのだ。接続先との親和性も重要だ。昼職の女と水が合わないのは、考えてみれば至極まっとうな結論だ。
それから、夜更けを待って目をつけたのは、小刻みにシェイクする酔いどれ女だった。つまり、頭に埋め込んだスイッチがバカになって、中毒者よろしくジッターを引き起こしている。まさしく、俺にお似合いの女と言うわけだ。そうして、女の小刻みなステップに合わせ、ソケットに備え付けた接続端子をゆらゆらす。
俺は慇懃なまでの礼を尽くした。目の前の女を最高のパートナーだと言い聞かせた。
女の腰に手をまわす。ジッターに合わせて、俺の端子も小刻みにステップを踏む。ワン・ツー、ほら、息があってきた。素晴らしいペアだ。この調子ならリフトだってできるだろう。
そして、俺は女に端子を接続した。
途端、恐ろしいまでも耳鳴りに襲われる。
A/N/D
殴りつけ/吐き気と酩酊/波打つ壁/
A/N/D
流れこむ/妖怪バターの悪夢/思い出の濁流/
A/N/D
わずかな俺/鼻お疲れ/サイケなネオンで/
A/N/D
痛みと快感/は/表裏一体/殴られた鼻/おっ立てられた俺/鼻折れ/
A/N/D
誰だ/
繋がっている/君と/ひび/われる/Give me/
A/N/D
支離滅裂の光線と/痛みと/吐き気と/這い回る毛虫と/路地のゲロと/おやじのアスホールと/ビッチの腰振りと/警官の暴力と/宙を舞う紙幣と/借金と/男と/女と/性と/生と/あのときの生徒/詩と/死と/安堵/死とA/N/D真理と/きみと/
つながるA/N/DつながるA/N/D俺と/
A/N/D
つながるA/N/D女と/
A/N/D
理由が手に入りそうな/気がしたA/N/D
身勝手の雨A/N/D
スパークする/細切れにチョップされた意識に/誰?A/N/D
呑み込むA/N/D混ざるA/N/D崩れるA/N/DグルーヴA/N/D
混ざっているA/N/D
俺/と/俺
混ざっているA/N/D挟まる女の/嘲笑A/N/D
初心にA/N/D躍動A/N/DボールA/N/D泳ぐA/N/D
A/N/D
俺は俺のなかに俺をみつけた/
俺をみた/
だれかが/
A/N/D
俺A/N/D俺
俺の中には俺がいる/
E/N/D
俺はトランスした女からはじき出された。
あれ程ねじれていた矛盾はほどけた。いいや、俺がねじれているように感じていただけだ。俺が統一された俺であるはずだというおごり。俺は俺以外の俺を知るはずがないという思い込み。
女はぶっ倒れていた。口から泡を吹き、四肢を痙攣させていた。ジッターのリズムだ。
俺は接続端子を引きちぎった。
ポケットの中には家の鍵が。
俺の向かうべき家の鍵がある。
俺は駆け出した。俺のつながるべき場所へと。
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