第33話 友情
ギラギラと太陽の日差しが地面をジリジリと焼き付けている。木陰のベンチに座っているだけでもじっとりと気持ちの悪い汗がにじみ出てくる。空調の効いた病室で長く過ごしたせいか暑さに対する耐性が完全に落ちてしまっていた。
退院早々、花火大会の後に呼び出された公園に足を運んでいた。
「水無瀬……?」
「よ、久しぶりだな」
今度はオレが勉を呼び出した。勉は、オレの頭から足の先まで何度も視線を上下させていた。
「どうしたんだよ、その怪我! 事故にでもあったのか⁉」
「そうとも言えるし……違うとも言える。ま、平気だって! ほら、もう全然うごかせるし……いっ⁉」
「バカ! ギプスってことは骨折してるんだろ! 動かすな」
「へへ、悪い」
大丈夫ってことを示したくて右腕を振り回すと激痛に襲われた。頭をかいて笑って見せると勉も呆れたように頬を緩ませ、オレの隣に腰を下ろした。
「勉、柳原の様子はどうだ」
「…………少しずつ明るさは取り戻しつつあるよ。けど、やっぱり一人で外出は怖いみたいでな。俺が付き添ってる」
「そっか」
「もうそろそろ学校も始まる。お前たちにも会いたがってるよ」
順調に立ち直れているようで安心した。勉の顔色も良くなっているし、二人とも確実に前に進んでいる。
「勉、柳原に伝えてやってくれ。誘拐犯は刑務所の中だって」
「……は? 刑務所?」
「おう」
「お前……まさか、その怪我って……」
オレに向ける視線から『信じられない』という思いが伝わってくる。
「あぁ、誘拐犯とやり合った。そんときに少しヘマしちまった」
「おまえってやつは本当に馬鹿だな⁉ 俺は、お前に仇を打ってほしくて話した訳じゃ無いって言ったろ⁉」
「あぁ、わかってる。情けない話、千織も誘拐事件に巻き込まれた。千織を取り戻すために戦っただけだ。お前たちのためじゃない」
「東雲が……? いや、取り乱して悪かった。お前たちもつらい目にあったんだな」
「そうでもない。俺ら……いや、俺も事件の加害者みたいなもんだしな」
「は……?」
頭の切れる勉でも、さすがに理解しきれなかったみたいで、口を開けて唖然としていた。そんな勉に向き直って深く頭を下げる。
「ごめんな、勉。今回の一件は俺自身の過去の因縁が招いたものだ。柳原は……それに巻き込まれた。俺が傷つけたと言っても過言じゃない」
『はぁ』と、隣から小さなため息が聞こえた。それだけで心臓がキュッと萎縮する。
「謝って済むものじゃないってわかってる。罵ってくれて構わないし、これからはなるべく関わらないようにする」
「顔を上げてくれ水無瀬」
「だめだ。上げられない」
「じゃあ、そのままで聞いてくれ。俺はお前が綺良々を傷つけたとは思ってない。悪いのは犯人で水無瀬じゃない」
勉の穏やかな口調が罪悪感に苛まれたオレの心に優しく触れる。
「水無瀬は綺良々のために怒ってくれたろ? すごくうれしかったんだ。怒る資格が無い俺の代わりに怒ってくれた。それだけで、俺は救われたんだよ」
オレの左肩にポンと手が置かれる。
「どんな因縁かは聞かない。けど、水無瀬が犯人と戦ったことで、東雲だけじゃなく俺たちのことも助けてくれたんだ。お前が何と言おうとも俺たちは水無瀬に救われた」
心の中に染み込んでくる優しい言葉の数々。
「お前が関わらないようにするのは勝手だが、俺はお前に関わるぞ」
「俺には因縁がたくさんある。また、傷つけるかもしれない」
「それでもだ。きっと綺良々も同じことを言う」
「お前たちがまた苦しむかもしれない」
「その時は助けてくれ。水無瀬が手の届かないところは俺たちが支える。友達ってそういうものだろ」
こいつ……人生何周目なんだよ。観念して顔を上げると勉と目が合った。眼鏡越しに友情と言うものを見た気がした。
「お前って……やっぱクールキャラ似合わねーな」
「俺はそんなキャラを作った覚えはない」
「なら、夏休み明けは熱血キャラで通せよ?」
「中村がいるだろ。それに、水無瀬の容姿が変わりすぎて霞むことは目に見えてる」
「そんなにかなぁ」
治療の邪魔になるからと短く切られた髪を指で弄る。確かに、過去最高レベルの短さだ。
まぁ、そんなことより——
「サンキュな、勉」
「それは、こっちのセリフだ」
互いに声をかけ、ベンチから立ち上がる。友情の熱を感じたせいか、気温がさらに高くなったように感じた。
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