第15話 夜の湖岸に集う者

「話を聞かせてもらうわ。」




「帆世さん…ありがとうございます。私は、この邂逅に招かれた人類の代表の1人です。私以外の世界の代表者についても知っています。」




仲間ってこと?—そう問う私に、巫さんは首を振って否定する。




「私たち代表に選ばれた人間は、様々な条件はあるのですが、世界に関する情報を見ることができるようになるのです。お二人がよろしければ、私と≪共有≫することが可能です。」




慣れるまでは、少しつらいですが、と付け足す。今更拒否する気はない。むしろ最も不足していた情報アドバンテージが取れる可能性があるなら、何かを犠牲にしても構わないとさえ思う。




「ぜひお願いするわ。」




では——。  ≪共有≫




巫さんの声が聞こえた瞬間、浮遊感が全身を襲う。続いて、脳の奥底に巨大な塊を埋め込まれたような気がした。




「これ、俺には荷が重いっス…ちょっとタンマ…」


こもじが早速断念している。慌てた様子で、巫さんがこもじの方に向かうのが見えた。こもじには、私から情報を渡せばいい。




想像以上の苦痛のさなか、ようやくシステムウィンドウの役目が理解できた。これは情報をせき止めて、任意の情報のみ扱うための外付け装置だったのね。私は、目を瞑っていても見ることができるウィンドウを操り、情報を脳内から隔離していく。




「巫さん、状況はだいたい分かったわ。」


膨大な情報の海から、今すぐに必要なものだけ並べて整理する。残りは後回しだ。




まず、この邂逅という試練に招かれた人物の詳細。


5つの分岐世界。無数の世界線は、因果律に基づき最終的に5つの世界線へと合流する。




【宗教世界】


代表:“ヴァチカン枢機卿” エゼキエル・ディ・サンティス


宗教による世界統一の成功。全人類による祈りが、本物の神を生み出した。




【魔法世界】


代表:森に棲まうリアーナ


知識欲の果てに、上位存在である情報体へ到達した一人の魔女とその弟子。摂理を捻じ曲げる摂理、魔法が使える世界。




【巫女世界】


代表:巫 唯依


もともとは別の男が代表だったらしい。数多の土着神と交信ができる巫女が世界を守っているが、すでに滅亡が決定している。




【鬼世界】


代表:孤傲鬼こごうき 冥月めいげつ


名前は巫さんがそう呼んでいるだけ、とのこと。もっとも古く分岐する世界であり、その世界のホモサピエンスは、鬼族により淘汰されている。あらゆる生物に対して暴力で挑み、ついには同族で戦い続ける種。その中でも単独で最強とされるのが、冥月。




【幽世界】


代表:ハラフニルド


死者蘇生の禁に触れた世界。その術を封じられた代わりに、魂が知覚できる摂理が芽生えた。






そして、滅亡が決まってる【巫女世界】の代わりに派生してしまったと考えられるのが、私たちの世界ということらしい。なんの特殊な摂理を追加されず、皮肉にも人類が最も栄えた世界である。


【源流世界】と仮称しておく。








「私たち、【巫女世界】は定期的に出現する試練の討伐を諦めてしまいました。最も神の集っていた日本列島を最後の生存圏として、世界に無視される結界を構築したのです。たまたま日本内に化物が生まれる時だけ、なんとか対処するに至っていますが……海を隔てた土地には、考えられないほどの化け物が跋扈している、もう終わった世界なのです。」




それでも——。




「私が居なくなってしまっては、結界すら機能しなくなってしまうでしょう。だから、なるべく早く帰らないといけません。」




「私を殺していただければ、その方には多少の恩恵があると思います。そして、私の命の対価に、…いえ、本当にずうずうしい話で情けないです。…ですが、いつか戦う術のない私たちの世界を助けてほしいのです。」


希望があるだけで、人は生きていられますから…弱弱しく巫さんが苦笑する。この人が、その世界で人類の希望なんだと何となく思った。




私は、巫さんに返事をしようとした、その時。耳元で声が囁く。










『唯依ちゃん、それは無理だと思うヨ。だってみんな、まだこの世界にいるんだもノ。』

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