6−5. 落し穴の次は釣天井
無骨な金属の甲殻。六本の脚部で素早く這い寄る姿は、昆虫と工作機械を合わせたような異形。目に当たる箇所は複数の光源が点滅しており、俺たちを捉えた瞬間、警告音のような電子音が空間を満たした。
『落下芸また来たwww』
『マジでフラグ回収するスタイル』
『この配信、地形が敵だな』
俺はカービンを引き抜いて構える。連射モードに切り替え、標的の関節部――稼働フレームの狭間に照準を定め、引き金を引いた。
【ダダダッ!】
反動に身を沈めながら、30口径の弾丸を三発連射。バースト射撃がついてるのが意外だが、
小型動物の狩猟にも使われる30カービン弾が、金属の外殻をかすめて凹ませるだけでなく、可動部の一つに突き刺さる。バチンという音と共に火花が散り、機体の動きが一瞬鈍った。
同時に、右側からパールのスコーピオンが唸る。
【バババッ!】
二丁のサブマシンガンが軽快な音を響かせ、相手のセンサー部に連射を浴びせる。
なんだかんだんで、それでも3発ずつ引き金を弛めるあたり、既に身体の一部として馴染んでいるのだろう。
蛍光色の視覚装置が一つ、二つと破壊され、敵が軸を狂わせてきしんだ。
「お祓い仕様どこいったよ!」
「なぎ払いますから、って言ったでしょう?」
パールの涼しげな返答に、思わず笑いそうになるが、敵の残りはまだ三体。崩れた天井を背に、奴らが跳躍した。
「っ、避けろ!」
俺はカービン銃を片手に前転、飛びかかってきた一体をぎりぎりで躱し、そのままカービンの銃床部分で払うと、くるりと回し銃を構える。
【ダダダッ!】
カービン弾が装甲の厚い腹部へと打ち込まれると、貫通こそしないが腹にめり込んだ。
「やっぱ硬ぇな……!」
だがその一瞬の隙をついて、ナイフを引き抜く。敵の脚部に飛びつき、油の滲む関節に刃を突き立てた。
「これで、動きを……!」
ガリッと骨伝導のような不快音。敵の動きが一瞬止まる。
その間に、弾倉を交換したパールが接近していた。
「こっちはお返しです」
再装填したスコーピオンの短く強い一連射――ちょうど制御装置に該当する箇所へと弾が吸い込まれ、機体は内部から閃光を放ちながら爆ぜた。
残りの個体も足を損傷して動きが鈍くなっていたところを、俺とパールがそれぞれの側面から挟み込む。
「パール、シンクロ行くぞ」
「はい、“斉射”ですね」
【バババ!バババ!】
【ダダダッ!】
互いに位置を調整しつつ、正面装甲を避けての同時射撃。見事に頭部センサーを貫いた。
残った一体が逃げようとした瞬間――
「逃がすかよッ!」
フォールディングナイフを逆手に持ち直して跳び込み、センサー部を突き刺すようにして斬り裂いた。硬い感触の奥にある脆い構造体を断ち切る。
金属の響きが、ダンジョンに反響する。
【……目標、全機沈黙】
『ナイフキルかっけえええ』
『斉射熱い!』
『パールの火力エグいな』
『これはぶらダンじゃないwwwガチ戦www』
コメント欄も沸騰気味だ。だが俺たちは、そのテンションとは裏腹に、自然と拳を軽く合わせた。
「お疲れ、パール」
「こちらこそ、イーブンさん。無事で何よりです」
俺たちは再び、暗いダンジョンの奥へと目を向けた。戦いは終わった。だが、探索はこれからだ――。
☆ ◆ △ ◆ ☆
中ボスを撃破した直後、辺りに不穏な唸りが広がった。
空間が、軋むように歪みはじめる。
「っ、これ……ヤバいやつじゃないですか!?」
パールが後ずさりながら声を上げる。その声には、明らかな動揺が滲んでいた。
俺は彼女の手をとる。
「落ち着け、こっち見ろ。深呼吸しろ、な?」
彼女の瞳が一瞬だけ俺を見る。
「……うん」
だが次の瞬間、空間の歪みが限界に達し、光と音のない衝撃が俺たちを包み込んだ。
【キィィィン……ッ!】
視界が反転し、足元の感覚が消える。次に気づいたとき、俺たちは別の空間に立っていた。
『繋がった?』
『転位?』
『心配した…』
『生きてたwww』
「……転移、か」
空間の中心――そこには禍々しく、そして不気味なシルエットが沈座していた。
異形。無数の触腕と、脈打つように蠢く肉塊。明らかにこのダンジョンの"ボス"とは異なる構造と存在感。
『なにあれマジで!?』
『クトゥルフ系きたぁ』
『公式が病気ダンジョン』
「確認する暇ねぇな……来るぞ!」
触腕が一斉に伸びる。俺たちは互いに左右に散開しながら応戦を開始した。
【ババババッ!】
パールのスコーピオンが火を噴き、俺はカービンで対抗。
奴の外皮自体はさっきの中ボス程では無いのだが、明らかに硬い部分を盾のように巧みに操ってくる。さらに、動きが読みにくく、装甲の隙を狙うタイミングが限られていた。
「連戦で……弾数、厳しいです!」
「だから撃ちすぎなんだよっ!」
俺はホルスターからベレッタを抜いたあと、ベルトポーチからプラスチックケースを取り出し、パールへ放った。
「32ACP、20発詰めてある。互換あるだろ!」
「受け取りました! ……って、え、ダンジョンでプラスチック!?」
「三回くらい使ったら使い捨てだから気にすんな!」
『使い捨てwww』
『エコじゃないw』
『戦場に優しさは要らないw』
パールは敵の間隙を縫って少し離れた遮蔽の陰に身を潜め、プラスチックケースから素早くマガジンに弾を込め始める。
時々「あー、チャージャー持ってくれば良かった」と言っているのは気にしない事にする。
その間、俺は接近してきた触腕の一本を回避しつつ、カービンの連射でカバー。
「持つか……これ!」
敵の動きに翻弄されつつも、俺たちは互いに補完しながら戦線を維持していた。
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