第6話 リリア視点

異世界の訪問者 ー リリアの視点


村の中心にある広場で、私は村の人々と一緒に作業をしていた。


今日の仕事は、収穫した作物の仕分けだ。

太陽が傾き始め、空が赤く染まり始めたころ、警備を担当するガルドが慌ただしく村へ戻ってきた。


「リリア!」


ガルドの険しい表情を見て、私はすぐに彼のもとへ駆け寄った。


「どうしたの?」


「森で変な男を見つけた。記憶がないらしい。とりあえず村長のところに連れてきたが……お前、案内を頼めるか?」


私は一瞬驚いたが、すぐに好奇心が湧いた。

森で迷い込んだというだけならまだしも、記憶がないとは――まるで物語の主人公みたい。


「うん、わかった!」


私は頷き、家へと急いだ。



---


家に着くと、父はいつもの厳格な表情で座っていた。

その前に立っているのは、黒髪で少し頼りなさそうな青年。服装もこの村のものとは違い、異国の者かとも思えた。


「これが、森で見つかった人間か?」


父の低い声が部屋に響く。


「はい、村長。彼は記憶が曖昧で、どうしてここにいるのか分からないと言っています」


ガルドの言葉を聞いた青年は、困惑したような顔をしていた。彼の瞳は不安を映していたが、どこか芯の強さも感じられる。


「お前の名前は?」


父の問いに、青年は一瞬戸惑った。そして、申し訳なさそうに言った。


「……分からないです」


私は驚き、思わず彼の顔を見つめた。

本当に何も覚えていないの?

それとも、何か隠しているの?


父は少し考え込んだ後、ため息をつきながら言った。


「……まあ、とりあえずここに留まってもらおう。ただし、村のルールを守ること。もし何か問題を起こせば、容赦はしない」


青年はすぐに頭を下げた。その姿を見て、私は少し安心した。悪い人ではなさそう。


「じゃあ、私が案内するわ!」


私は前に出て、青年に向かって手を差し出した。


「こんにちは! 私は村長の娘、リリアよ。あなたが珍しい人ね?」


青年は少し驚いたように私の手を見つめ、それからぎこちなく握り返してきた。


「えっと……おれは……名前を覚えていないんです……。」


「そうなの? じゃあ、私が名前をつけてあげる!」


私は青年をじっと見つめ、彼の雰囲気に合う名前を考えた。そして、ふと口をついて出た言葉があった。


「『ルカ』はどう?」


「ルカ……?」


彼はその名前を何度か口の中で転がし、やがて頷いた。


「いい名前だと思います。ありがとう、リリアさん」


「よかった! じゃあ、ルカ、これから村を案内するわね」


こうして、私はルカと一緒に村を歩き始めた。



---


村を歩きながら、ルカは興味深そうに周囲を見渡していた。


「ここは鍛冶屋よ。武器や道具を作っているの。あそこは織物屋で、服を作っているわ。そして、あの建物は集会所で、村の人たちが集まって話し合いをする場所よ」


ルカは熱心に聞いていた。知らない土地に迷い込んだからか、何もかもが新鮮に見えるのかもしれない。


「この村には魔物がいるの?」


ルカの問いに、私は少し真剣な表情になった。


「そうなの。村の外には魔物がいて、時々村を襲ってくるの。だから、村の人たちはいつも警戒しているわ」


ルカは驚いた顔をした。

彼の故郷には魔物がいないのかもしれない。


「魔物って、どんなものなんですか?」


「いろいろいるわ。大きな獣のようなものや、空を飛ぶもの、魔法を使うものもいるの。でも、村の人たちは強いから、魔物に負けないわ」


私は胸を張って言った。

ルカは少し考え込んだ様子だったが、やがて真剣な目で頷いた。


「ありがとう、リリアさん。これからよろしくお願いします」



彼の目には、少しずつ希望が宿り始めているようだった。



---


村の案内が終わり、日が暮れ始めるころ、ルカはふと気まずそうに尋ねてきた。


「あの……リリアさん、今夜はどこに泊まればいいんでしょうか?」


「あら、そうね。じゃあ、私の家に泊まっていいか聞いてみましょ。父はきっと了解してくれると思うから」


私はルカを自分の家へ連れて行った。


「おお、リリアか。そして……名無し君だな」


父が少し困ったような顔をして言うのを聞いて、私はすかさず訂正した。


「ルカだよ。名前覚えてないなら、思い出すまでの間はルカって呼ぶの」


父は少し驚いたが、すぐに納得したようだった。


「まあ、そういうことなら、ルカよ。ここでゆるりとするがいい。妻が夕ご飯を作ってくれてるから、一緒に食べなさい」


ルカは安堵した表情を浮かべ、素直に感謝を述べた。

私は彼が少しずつこの村に馴染もうとしているのを感じた。



---


その夜、私は父から魔物が発生したことを聞いた。


男たちは調査に駆り出されることになり、年配の方や子供は家の中。


外は誰もいなく、家の光も消え、廃村かのようだった。

私も内心どうしていいかわからなかったのだろう。ふと大事なことを思い出した。


「しまった! ルカに説明し忘れてた!」


私は急いで部屋を飛び出し、ルカの部屋へと向かった。

彼が眠りにつく前に、伝えなくてはいけない。


ドアを勢いよく開けると、ルカは驚いたように私を見つめた。


「ルカさん、ごめんなさい! 説明を忘れていました!」


私は息を切らしながら続けた。


「急いで来てください! 父が皆を集めています!」


ルカはすぐに布団から飛び起き、私の方を真剣な目で見た。


「……何があったんですか?」


「村の外で、魔物が目撃されたの!」


ルカは息をのんだ。そして、私たちはすぐに広場へ向かったのだった。


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