ドリームコアとバックルームと三人の終わらない夢。

きよみ。

プロローグ。

 タイルで出来た壁と床。左右には大小様々なプール。赤、青、紫──カラフルな滑り台が壁から生えている。革靴がタイルの上を跳ねて、乾いた音が響く。それに続くようにスニーカーとサンダルの軽い足音が続く。


 自分の大好きな空間に足取りが軽くなる。


 冷たい風があやの肩を撫でる。肩を震わせる絢とそれを見下ろすかなめの冷たい目。絢の肩に暖かい物が被せられた。見れば要のジャンパーだ。ぶっきらぼうに言い放つ要とからかう千弦ちずるの笑い声。


 少し大きいジャンパーに腕を通す。ゴワゴワしてて──暖かかった。



 黄緑色の床。木々と青空が描かれた壁には落書きがされている。等間隔に設置されたパステルカラーの扉。要が開け放って放置されていて、中の様子が見える。


 ベッドだけが並ぶ部屋。食堂らしき場所。高い本棚が並ぶ部屋。中庭のようなドーム状の部屋──。まるで子供の為の施設牢獄だ。ここだけで生きていける。安心できるはずなのに、牢獄のようで背筋が凍る。


 要に腕を引かれながら歩く千弦の姿に少しクスッとくる。さっきの恐怖心を隠すように少し深く息を吸い込む。鼻の奥が刺激された。どこからからか甘ったるい消毒液の匂いが隙間風に乗って運ばれる。



 四方を扉に囲まれた薄暗い空間。扉はどれもくすんだ色をしている。枠だけが白を保ち、目立つ。上を見上げればパステルカラーの風船がいくつも浮いている。


 絢は扉を開ける。その先にも扉。また扉。いくつもの扉を開けるとどの扉より明るい扉。その扉にはダイアル式の南京錠。

 目の前に表示されるウィンドウ。


【最後の謎を解け】


 頬に暖かい物が飛び散る。手で触れればドロっとした感触が広がる。空間を包む鉄の匂い。震える手で手に着いたものを見る。


 ──血だ。



 座り込む絢を包んだのは柔らかい花の匂い。周囲にあるのは小さな花畑。空は雲ひとつない晴天だ。目の前に居るのは黒いワンピースを着た少女。肩にかかるほどの黒髪が垂れ、そよ風に揺らている。少女は小さな手で器用に花冠を編む。


「あや! これあげるわ!」


 優しくて甘い声。子供らしい無邪気な笑顔で大きな花冠を差し出す。水色や紫、赤と色鮮やかな花冠。少女は絢の頭に花冠を被せ、満足そうに微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る