かみがかり!

猫月日暮

プロローグ

「起きて……ねぇ、起きてよ……」


 何度呼びかけても、彼は起きることは無い。

 ワンルームのマンションの一室、窓から差し込む日光は、彼の柔らかな白い髪を照らしている。

 いつも通りの日常なのに、ベッドに横たわる彼は違った。


 齢20にしてこの世を去った青年・桃宮モモミヤ ココロ

 その遺体を囲うは、数百年、下手したら数千年の時を生きた、少年の姿をした獣の神様たちであった。


 人間の命の儚さを知る彼らも、魅入った青年との別れは惜しく涙を流す。

 死因は、突然死であった。


「……魂は、黄泉よみの国にある」


 狐耳の少年が語る。


 死後の魂は黄泉に還り、人間は転生か、黄泉の国で暮らすかを選択することになる。

 神の中では常識中の常識である。


「なら、まだ会えるよね……!」


 犬耳の少年が反応する。


 神は下界の人間とは基本的には関わらない存在。

 黄泉の国を管轄する神でもない限り、よっぽどの事がなければ黄泉の国へと出向くことは無い。


「……アイツなら、迷子になってる、きっとそうだ」


 猫耳の少年が続ける。


「それか、入口で立ち尽くしてたりしてな」


「それなら……!」




 ■




「という訳で来ちゃいました!」


「ええ……?」


 ココロは困惑した。

 今まさに迷子になっていた彼は、見知った顔をした少年たちに発見され、囲まれたのだ。


 橋の上にて川を眺めながら、ゆったりと談笑する。


「どうして君たちがここに?変な夢だね」


「夢なんかじゃないよ」


 今朝起こってしまった惨劇を話す少年達、ココロは受け入れられずにいたが、ずっと覚めない夢と、神の説明に納得せざるを得なかった。


「そっかー、僕死んだんだ……」


「そっかー、じゃないよ!僕すっごい悲しかったんだからね!」


 狐耳の少年が涙を流しながら言った。


「まぁ、その、いつかこうなるって分かってたよ。

 健康的じゃあなかったし。

 でも……楽しかったよ、君たちとの日常は。

 ありがとう、今まで」


「行っちゃうの?……転生、するの?」


「……ああ、それでもまた、人間として暮らしたいなって。

 辛いこともあるけど、それでもきっと今度こそは」


 ガシッ


 ココロの腕を強く掴んだのは、蛇の少年だ。


「離さないよ」


「どうしてさ?」


「君を見つけるのに、僕らがどれだけ苦労したか分からないのかい?もう離さないよ」


「……でも、行かなきゃいけないんでしょ?

 転生しないにしたって、黄泉の国で暮らすにしたってさ。

 君たちとは離れ離れだよ?」


「そうさ、普通なら。だけど……」


 シュルル、と二股に分かれた舌が音を鳴らす。

 ここで、黄泉をも揺るがすひとつの提案がなされるのだ。


「君は僕たちの中から一人選んで、魂のある限り生涯を共にする。言わば…… 」


「神の婿入り」


 竜の角を生やした少年が、割って入る。


「……君、僕が喋ってる途中だと言うのに」


「知らないね」


 そう、この瞬間は。


「もちろん、この僕だよね!」


「い、いやいや!ご主人は僕を選んでくれるに決まってる!」


「……僕は、ご主人が選んでくれるなら……」


 青年に虜にされた少年達の奪い合いの成果が実を結ぶ瞬間なのである─── !


「僕たちの中から、選んでよ!お嫁さん!」


「選べないよ─── !」


 青年の頭の中には、かつての日々がフラッシュバックしていた。

 それは、ひとつの出会いから始まる日常。

 かけがえの無い、輝かしい日々だった。

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