第22話 果たして

 朝7時半、第二塔一階廊下。ああ、激烈に眠い。眠いんだが、目はギンギンにさえ渡っている。


 大半の生徒は来ないこの時間に教室でスタンバイし、彼に話しかける機会を伺いたい所。


「さて。円月エミはほぼ黒として、アイツ学校に来るのか?」


 昨日あれほどのことがあった訳だし、たしか保健室で1日倒れてたとかなんとか。


 あ〜、現場に駆けつけておけば、正体を明かしていたかも知れないのに!


「お。おはよう神室」


「おはようございます白井先生。あの!」


「なんでしょう」


 教室に上がる階段の途中、担任の先生にあう。


 この人、ホントに四六時中黒ジャージに白衣なんだな…というのは置いといて。


「あの、円月くんって大丈夫なんです?昨日先生が保健室に連れて行ってましたよね」


「それについては問題ない。命に別状もないし、今日から元気に登校してくるはず」


「そうですかぁ!良かったです」


「おや。キミたちってともだちだったかな?」


「いや。1ミリも知りませんが、やっぱり心配じゃないですか」


「ふふ。そうですか。いい心がけですね…ああ、神室くん」


「なんでしょう」


「できることなら今日みたいに、毎日早めに来てくださいね。遅刻ギリギリはこちらも困ります」


「へへ…あー。気をつけます」


 ひらひらと手を振った先生は、ふらふらと職員室の方向へ消えていく。


「珍しく早起きしたんだ。彼に会わなきゃ損だろ。おや…?」


 踊り場に留まり次の回に行こうとしたその時、一階の方向から、騒がしい声が聞こえてくる。


「おっはよーう!高校生活2日目、張り切っていこうねー!」


「うっわ!!こっちがどんだけ早起きしたと思ってんだ?ってかいつからいた?」


「可及的速やかに登校して下駄箱で待ってたんだよ。最初に出勤してくる先生の後ろについて、正面玄関じゃないトコから入った」


「ぐっ……!こうなったらもう学校に泊まるしかないか」


「いいねそれ!2人きりの巣をどこかに作ろうよ」


「ひぇええええ!!嫌だよぅ、だっ、誰かタスケテ……」


 ほう。ターゲットの円月エミはもう登校してきたか。で、もう一人…ここからじゃ声しか聞こえないがおおかた里野もけだろう。


「円月エミが狐であるという仮定が正しければ、精神的な揺さぶりがかかれば耳や尻尾を出すはず。まさか。あの転校生…」


 転校初日から告白。まとわりつき、意識を喪失させる。ここから導き出される結論はただ一つ。


「彼もまた。オレと同じ目的で接触を?ぐぬぬ、おのれ許せん。お狐様に対し、激しい精神的な揺さぶりをかけるとはっ!!」


「いや、違うと思うけどね…」


「どひゃっ!!先生、職員室に帰ったはずでは!?」


「私の歩く方向なんて私の好きでしょう。それより神室くん」


「アッハイ!なんでしょう」


 突如背後を取られた。ヘラヘラ、ふらふらしてる人なのに─


 なんだか、優しいのに圧力のあるヒトだ。


「キミ。狐《かれを狙ってるんだろ」


「…何故それを」


「おお。ビンゴね!やっぱりそうか。まぁ神室んとこの子供だしね」


「プライバシー侵害っすか?ってか先生、なんでそこまで知ってるんです」


「私にも色々あってね。さて、天災の予言って知ってるかな?」


「おっと。段階を飛ばさず丁寧に話してくれませんかね。意味が分からないです」


「……確かに。まだ朝も早いし理科室に来なさい。そこなら誰も居ないだろう」


 片手で手をパタパタ動かし、ついてきなさい、のジェスチャーをした先生はこちらの答えを聞くこともなく白衣を翻す。


「ちょ!ちょっとぉ、先生待ってくださいよ!」


「時間は幾らでもある。が、時間は有限なので」


 悠々と歩いているように見えるのに、廊下の奥に消える速度が物凄くはやい。


 オレだってだいぶ高身長なのに、あの人はそれをこえる脚の長さだからな…


 とにかく意味深気なことを言うだけ言うあの人をとり逃がすわけには行かない。


「待ってくださいよ、行きます!」


 小走りで追い付いて、先生の背中につく。理科室のある第四塔の方向へ、オレたちは向かった。


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