第5話 隣の里野くん
「なんだコレ」
痛いくらいに視線を集める想定だったのが、いい意味で裏切られた。
「おおー良いぞ君たち。流石は理系早進度クラス。では、続いての問題はなんと!!10000000000ポイント!!正解者には先生が適当に買ってきたお菓子1週間相当をプレゼントだぁ〜!!」
「おぉ〜!!!!」
なんか、盛り上がってる。
黒板に刻まれたあの相合傘はしれっと消されており、かわりにおびただしい数の化学クイズの痕跡が見られる。
「有機化学って…めっちゃ先の内容じゃん。高2なのに」
どうやら白井先生がここ数分のあれこれを上書きして揉み消すために、色々手を施してくれたようだ。
神だ!まさに救世主。あの人のおかげで、しばらくは退学せずに済みそう。
生徒の大半は立ち上がって黒板の前に群がっており、こちらに目もくれない。
ただ一人の、例外を除いては。
「おかえりなさい。どう?スッキリした?」
さも当然のように放たれるセクハラ発言はもう無視して、まずは自分の席探しだ。
「一番うしろの、一番窓側。一般的には当たりとされる席だけど…一番大切なのは隣に誰が居るか、だよね」
誰も何も言っていないのに自分の席の話をする里野を尻目に、前から順に目を通していく。廊下側かつ前列から順に、席を見ていく。
「1列目1番前。
見落としがないよう、名前をつぶやきながら丁寧に数えていく。
違う。
違う。
違う。
違う。
…
全6列、計36席で構成されるうち24個は該当せず。
あれ?もしかして、もしかするのか。
落ち着け。平常心を保つんだ。最悪に今から備えろ。
「例えば登校したときに一悶着起きた人が、隣だったりしたら…それって、運命的だと思わない?」
あれぇ〜。里野のこの台詞の感じ。もう、駄目っぽいぞぉ?
…いや。あきらめるな、前振りに抗え円月エミ!
5列目1番前。違う。2番目。違う。
「誰にも気づかれない教室の隅で、あんな事やこんな事、したいよね」
うるせぇ、なにがあんなこんなだ!今俺は、全財産突っ込んだ宝くじの当選結果を見ているくらい集中してるんだよ!
というのは口にするだけ疲れるので口にせず、ゆっくりと、名前を確かめる。
3番目。違う。4番目。違う。
「5番目……
「ねぇ。気が付いてるよね。早く座って」
5列目。一番後ろ。張り紙に刻まれた名前は、一字一句違わず、テストで書き慣れたあの名前。
「円月……エミ………」
「運命の導きってヤツだねエミ。おめでとう」
「ふっ………あっ………」
なんか、フラッとした。
俺、里野、と……隣?
あぁ…
「え…エミ?ちょっ、ホントに大丈夫っ!?」
意識………
遠
く……
「エミ?エミぃいいい!!!!!」
最高潮を迎えたクイズの盛り上がりが、里野もけの叫びを掻き消す。
円月エミの高校2年生最初の1日は……
こうして、幕を閉じた。
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