星詠みのアニマ

成瀬。

一節:天井に描いた魔法

アイロニー

 そこにあったのは、一人残された小さな命であった。


 鳴き声をえんえんと響かせながら、それは小さな鼓動を続けている。命を続けるための最低限度の活動を行いながら、寒さに震えていた。


「…………見つけた」


 それを十六程の歳の少女が抱き上げた。廃屋となってしまったその場所で、暖かい布に包まれ、彼は生き延びた。


 自分を撫でる温かい指を小さな手で掴んで、きゃっきゃっと喜んでいる。少女はその様子に安堵して、ほっと胸を撫でおろした。だがすぐに何かに気付いて顔色を変えた。


「二人が死んじゃったら、意味無いだろ……っ」


 少女は地に臥したかつてヒトだったモノに声を掛けた。まだ魂は残っているが、いずれ星に還ってしまうだろう。


 二人は命を懸けて、この赤ん坊の命を救ったのだ。自分たちのたった一人の息子の為に。親として立派だった。立派過ぎた。


「……責任は果たすよ」


 彼女は消えかけの二つの魂にそっと手を伸ばし、まるで握手するかのように空を握った。言い聞かせるように、大丈夫、と何度も口にしながら。


 ────屋根の隙間から見える兄月が綺麗だった。十五の夜の空に浮かぶ真ん丸な兄月は、今年一番大きく見える。


 少女は空を見上げ、その美しい兄月を睨んでいた。

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