瞳の中の真実〜ハヤブサが見つめる地上の真実〜
@kakukaku007
第1話 目覚めの空
その日、僕は空を駆けていた。
突き抜けるような青空を裂くように、鋭く、しなやかに羽ばたく。地上を見下ろせば、車が小さなブロックのように並び、蟻のように人々が動いている。その一つひとつが意味を持ち、誰かの人生の断片であることは理解している。だが、僕にとっては、ただの景色だ。
僕はハヤブサ。名を“スカイ”という。
生まれながらの狩人。時速300キロを超えるダイブで獲物を捕らえる、生粋の空の支配者。しかし、僕にはちょっとした秘密がある。
それは──地上の人間の思考が、なぜか聞こえてしまうことだ。
最初に気づいたのは、生まれて半年ほどの頃だった。獲物を狙いながら飛んでいると、下にいた少年の心の声が聞こえたのだ。
『ああ、あの子に告白しようかな……でもフラれたらどうしよう……やっぱりやめとこう』
僕は驚いて羽ばたきを止めそうになった。まさか人間の心の声が聞こえるなんて。以来、僕は無意識のうちに地上の人々の思考をキャッチしてしまうようになった。
時に、彼らの悩みは滑稽だった。
『今日のランチ、ラーメンにするかカレーにするか……いや待て、昨日カレーを食べたから……』
時に、彼らの悩みは深刻だった。
『このまま会社に行っても、怒られるだけだ……もう辞めちゃおうかな……』
地上には、数え切れないほどの悩みが渦巻いている。僕の目には、ただの動く点に見えても、一人ひとりが確かな感情を抱え、葛藤しながら生きているのだ。
そんなある日、僕はとんでもない思考を拾ってしまった。
『……バレてはいけない……この秘密が知られたら、すべて終わりだ……』
その思考は、普通の人間の悩みとは明らかに異なっていた。
僕は即座に、その思考の持ち主を視線で探した。そして──見つけた。
地上のカフェのテラス席に座る、一人の男。黒縁の眼鏡に、シンプルなグレーのスーツ。彼の目には、不安と焦りが滲んでいた。
僕は、その男の心の奥底を探ろうと、旋回しながらさらに意識を集中した。
──何か、とてつもなく大きな秘密を、この男は抱えている。
僕の好奇心が、静かに羽ばたきを始めた。
(つづく)
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