第4話 繋がり始める点(あと97日)

悠斗が去った後、美咲はしばらく席を立てずにいた。心の奥に引っかかる感覚が消えない。


「思い出すかもしれません」


悠斗の言葉が脳裏にこびりついていた。まるで、彼が美咲の中に眠る記憶の存在を知っているかのような口ぶりだった。


(でも、過去に出会ったことがあるなら、普通もっと鮮明に覚えているはず…)


考えれば考えるほど分からなくなる。


「お客様、追加のご注文はいかがですか?」


店員の声にハッとし、手元のコーヒーがすっかり冷めていることに気づいた。


「あ、いえ、大丈夫です。」


慌ててノートを閉じ、店を後にする。



---


家に帰る途中、スマホをいじりながら何気なく検索アプリを開いた。


(悠斗…フルネームは分からないけど、もしかして…)


"悠斗" という名前と、彼の雰囲気から想像したキーワードをいくつか入力してみる。


「…やっぱり、何も出てこないか。」


当然だ。名前と見た目だけで過去の知り合いを特定できるほど、世の中は単純じゃない。


(でも、彼の言い方には確信があった。)


スマホを置き、ベッドに倒れ込んだ。今日は疲れた。明日になれば、この違和感も少しは薄れるだろうか。



---


翌日、美咲は仕事中もどこか集中できなかった。


「美咲、どうしたの? なんかボーッとしてるけど。」


同僚の奈々が心配そうに声をかけてきた。


「えっ、そんなことないよ。」


「いや、明らかに上の空だったよ。もしかして恋?」


「こ、恋!? ち、違うよ!」


「図星っぽいな〜。誰よ誰よ?」


「だから違うってば!」


思わず語気を強めるが、奈々はニヤニヤしている。


「ま、いいけどね。でも、悩みがあるなら話してね?」


「うん、ありがとう。」


奈々に言われて気づいた。自分は悠斗のことを「悩み」として捉えているのか? それとも…。



---


その日の帰り、またあのカフェに足が向いていた。


(今日は会えないかもしれない。でも…)


扉を開け、店内を見渡す。


すると、奥の席に見覚えのある姿があった。


「……悠斗?」


彼は静かに本を読んでいた。美咲が近づくと、ふと顔を上げる。


「やっぱり、また会いましたね。」


その声が、まるで「これで三度目だね」と言っているように聞こえた。


(あと97日)

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