あの日の出来事

@kakukaku007

第1話 運命の出会い

美咲は、いつものように午後のカフェで本を読んでいた。心地よい音楽が流れる店内、温かいコーヒーの香り、そして外の静かな街並みが彼女にとっての安らぎだった。目の前には、自分の未来を描くために読み進めていた小説がある。あれこれ考える時間が、最近の忙しさで少なくなっていたから、このひとときだけは無駄にしたくないと思っていた。


その時、彼女のすぐ近くに座った男性の存在に気づいた。最初は気に留めることもなかったが、彼が取り出したノートパソコンに目を奪われた。仕事の話をしているのか、真剣な顔つきで何かを書き込んでいる。その姿は少し無愛想にも見えたが、どこか魅力的で、無意識のうちに視線を向けてしまった。


「すみません、お席空いてますか?」


声をかけられたのは、その男性だった。美咲は一瞬驚いたものの、席が空いていることに気づき、快く答えた。


「はい、どうぞ。」


その瞬間、彼が微笑んだことに美咲は思わずドキッとした。そんなに大きくもない笑顔だったが、何故か胸が高鳴った。どこか、見覚えのある顔だと思った。


彼は「ありがとうございます」とだけ言って、すぐにパソコンを開き直した。その後は静かな時間が流れ、二人の間に特別な会話もなかった。しかし、美咲はしばらく彼の存在が気になって仕方がなかった。


その日は結局、何も起こらなかった。ただの偶然の出会い。それでも、彼の顔が忘れられず、気がつけば何度も思い出していた。


数日後、仕事で急ぎの用事があった美咲は、再び同じカフェに立ち寄ることになった。そして、思い切って店内を見回すと、あの男性が再び座っているのが目に入った。


「またここで会うなんて、運命かもしれませんね。」


彼がそう言った瞬間、美咲は驚きと同時に心が弾んだ。まさか、このタイミングで再会するとは。すでに何度かこのカフェに来ていたが、彼と再び顔を合わせるのは初めてだった。


「本当に運命ですね。」


美咲はついに言葉を返し、その後、軽い会話が始まった。仕事の話、趣味の話、そしてお互いの人生観について。何だか妙に気が合う気がした。


「実は、僕もあなたをどこかで見かけたことがある気がするんです。」


彼の言葉に美咲は驚いた。彼もどこかで自分と会ったことがあるのだろうか?その時、美咲はその思いが真実であるかどうかを確かめるかのように、自分の記憶を掘り返した。


「ええ、私も感じたことがあります。もしかして、大学で…?」


その言葉が彼に届いた瞬間、彼は一瞬だけ固まり、そして静かに答えた。


「いいえ、大学ではありません。ただ、あなたのことを知っている気がするんです。」


その言葉に美咲の胸はドキッとした。この人は一体、何者なのか?そして、なぜ自分のことを知っていると感じているのだろう。


彼の言葉には謎があった。美咲はその謎を解くことができるのか、それとも、この出会いが何か大きな運命の始まりであることを、まだ知らなかった。



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