とても暑い夏

「お邪魔しま〜す」


藍は部屋に上がると丁寧に靴を並べて俺の家の中に足を踏み入れた。


「すごい片付いてるね」


「物が何も無いだけだよ」


たしかに言い方を変えれば片付いているとも言えるが、俺はアパート部屋にひとりで住んでいるので、スペースには余裕があり、物欲もないので生活できる最低限の物しか買っていない。


「俊はいつもどこで寝てるの?」


「この廊下奥に俺の部屋があるからそこで寝てるんだ」

「俺は汗だくだからシャワー浴びてくる」

「俺の部屋でゆっくりしといていいよ」


「おっけー」


さっきは藍の所まで猛ダッシュをしたので服は汗でずぶ濡れだった。


早くシャワーを浴びたい。


俺は何も考えず藍を自室に入れてしまった。


その判断に後々後悔するのであった。



その頃、藍は.......


「廊下の奥の部屋ってここだよね...」


扉を開くとクーラーのよく効いた冷気が流れてくる。


俊はクーラーも消さずに私のところに駆けつけてくれたんだ。


本当に俊は優しいな。


部屋で休むって言っても何をしとけばいいんだろう。


私は俊のデスクチェアに腰を下ろす。


机を見ると、勉強をしていたようで、まだ勉強道具が散乱していた。


しかし、机の隅になにか勉強には関係の無さそうなものが置かれていた。


私は無意識にそれを手に取った。


「え.....これって.....」






俺はシャワーを浴び終わると、足早に藍が待つ自室へと向かった。


「悪い、遅くなった」


俺が扉を開くと、そこには俺のいつも使っている椅子に座っている藍の姿があった。


「全然大丈夫」


「今何か出すから少し待っててくれ」


俺は再び部屋を出る。


それにしても、今日は仕事終わりだからか、藍の容姿が一段と整っているように見える。


元々整った全てのパーツにメイクをしたら、そんなの誰にも達することの出来ない領域だ。


俺はキッチンでお菓子を皿に並べながら心を落ち着かせる。


茜といい藍といい、どうしてこんなに美人なんだろうか。


俺は普段からあの二人と一緒に生活していると、感覚がバグりそうで怖かった。


藍を待たせる訳にも行かないので、俺はすぐに準備を終え、部屋に戻る。


「ちょっとしたお菓子とお茶だ」

「ゆっくりしていってね」


「ありがとー」

「ところでなんだけど.....」

「私の載ってる雑誌買ってくれたの?」


え?なんで急に?


俺がそう思った次の瞬間にはもう答えが出た。


机の上に置いてたんだった........


何も気にせずに藍を部屋に入れてしまったばかりに、なんという失態。


「あ、あぁ」

「お仕事お疲れ様」


と言って、表面ではクールな感じを装っていたが、内心焦りまくりだ。


キモイって思われてないかな.....


「ありがとう!」

「俊にもモデル姿見て貰えて嬉しい!」


そうだ、藍と茜はそんなこと思うやつじゃない。


何を考えていたんだ。


数秒前の自分を殴りたい。


「とても綺麗だよ」


ふと口にしてしまった。


藍の様子を見ようと俺が顔を上げると、そこには頬を紅に染めた藍がいた。


「ごめん!嫌だったか?」

「でも本当に思ってて....」


「いや、嬉しい、すっごく嬉しい!」


藍とは2人きりで話したことが今までには無かったが、その喜ぶ姿はとても愛らしく、引き込まれるようだ。


最初に会った時は寝起きでボサボサの髪で第一印象は藍にとって最悪だっただろう。


寝起きでも十分完成していたが、今はもう何も言うことがないほどに美しかった。


笑った時に目を瞑り、長いまつ毛が際立つ。


「俊はいつも家で何を食べてるの?」


「急にどうした」


「いや、一人暮らしって聞いて、ちゃんと栄養取れてるか心配で...」


俺は別に大したものは食べていない。


何より金が無いし.....


「時々自分で作ったりしてるよ...」


「何を?」


「お米とか......」


実際、朝はトーストを焼いてマーガリンを塗って、眠気覚ましの緑茶を飲んで、昼の弁当のおかずは惣菜の詰め替えだ。


「はぁぁぁ!!」

「そんなの作ったに入らないでしょ!」


「でもちゃんと1日3食食べてるよ」


「そういう問題じゃないの!」


少し呆れながら藍は怒っていた。


「なら私が作る!」


え?え?えええええぇぇ!!!

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