第20話
男が居なくなって、キッチンの引き出しの中から鍋を取り出そうと屈む。
するとキッチンの床の隅から、女性用の華奢なピアスが一つ落ちていた。
それを拾い上げてテーブルの上にそっと置く。
意味するのは、やはりこの部屋に女の子が来る事は別に珍しくない事なんだという事。
私とは住んでいる世界がまるで違うと改めて思い知らされる。
気にしないようにして、野菜などを切ってお鍋にうどんを作ると15分程度で出来上がった。
ちょうどお風呂場から戻ってきた男の髪の毛は濡れていて、その濡れた前髪から覗く瞳に一瞬ドキリとしたが、目を逸らしてテーブルの上のピアスを手渡す。
「これ、落ちてたよ」
「え、誰の」
「私に聞かれても知らないよ」
「そうだよな」
そう呟いて手の平で受け取ったピアスを近くのチェストの引き出しの中へしまった男。
「うどんできたよ。口に合うかわからないけど、熱いから気を付けて食べてね」
キッチンに戻ってお鍋からうどんを器によそってテーブルへと運ぶと、男はまた頬を緩ませた。
「おいしそうじゃん」
「どうだろ。食べてみて」
「いただきます」
まるで少年のように瞳を柔らかくさせた男は、一口おつゆを飲んでうどんをすする。
「うま!やば!」
「ふふ、よかった!ちょっとドキドキした」
「めっちゃ体に沁みる」
お腹がすいていたのか、その細い体にうどんがどんどん吸い込まれていく。
その様子にほっとして、思わず見つめてしまう。
なんだ、こんな顔するんだ。
最初はただ冷たい人かと思ったけれど、それにさえも安心していると、食べながらこちらをじーっと見てくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます