返り咲かせろ!邪神ちゃん!

@masata1970

第1話

「ユダ、この村にはおめぇを食わせう余剰がねぇんじゃ、すまんが街で稼いできてくれ」


 穏やかな物言いだが、簡単に言ってしまえば天涯孤独なユダ自分は死んでもでも構わない、かといって殺すのはちょっと気が引けるから他所で死ねといったところだろう。

 死んだ親父の畑を耕しても税で持っていかれ、扶養だ助け合いだと村民が余計に持って行く。

 反論すればなにされるかわからないから収穫前から一部を隠したりしてやりくりをしていたが、この1年は確実に餓死させるために村民は動いていた。

 畑の手伝いも俺がやってもお礼もなく、俺の畑を手伝うと言って断ってもっても勝手に手伝いお礼をねだる。屑の集まりだ。

 ひとえに親父が嫌われていたことに原因があるのだが、俺はこいつらになにかしただろうか?


 街は遠い、手ぶらで向かっても野犬の餌になるか野垂れ死ぬか。

 この期に及んで自らの手を汚したくないから勝手に死ねと伝えてきた、餓死させるのも変わるまいに。

 この期に及んでも人を殺さず生きて天国にでもいきたいのか、信心深いとも思えない村人に呆れながら了承する。

 どうせ断ったら断ったで今度は冤罪でもでっち上げて殺さない程度に痛めつけるとかして自発的に追い出すのだろう。

 悪人を懲らしめたらでていっただけだから良心も傷まず子どもたちの教育にもよい、自分たちもスッキリするとでも思っているのだろう。


「仕送りは多めで頼むで」


 村に仕送りする理由なんてないだろう!?自分は舐められすぎたのだな。馬鹿らしい。


「街までの旅費ですが……」

「街まで泊まるところもないのだから必要なかろ」

「食料は……?」

「なくても行けるだろ、おめぇなら3日食わんでも平気じゃろ」


 殺すなら殺すでせめて気分良く死んでもらうようにしろ。なにが悲しくてこのような仕打ちを受けた後で自分で仕事を探してこんな村に仕送りをしなければならないんだ!


「わかりました、では時間も時間なので明日行きます」


 生きていても二度と戻らないし、死んだら祟り殺してやる!




 そう怒りを保てたのは1日をすぎるまで。

 野犬の遠吠えに震え、道の端っこでブルブル凍えながら朝を迎えた頃には空腹と寒さで頭の中がすっからかんになってしまった。

 神なんてものはあの村での仕打ちで信じていないが、もしもいるのなら助けてほしいと切に思うほど神にすがった。

 手持ちの荷物すら持たせない徹底ぶりに確実に殺してやるという決意が見える。

 馬鹿だとしてもこれで生き残っても絶対に街に仕送りしないだろ、今頃あの村の連中はなにを思っているのか。

 案外嫌われ役を買っていたやつらが恨んでくれていい……とかお涙頂戴のことを言いながら慰めあってるかも知れない。元から恨んでるから気にしなくていいぞ。

 そもそも普段の様子からして素でやってた可能性のほうが高いしな。


 せめて水がほしいと思いながらふらふらと歩き続ける。

 道はちゃんとあるくせに誰ともすれ違わない、村の評判が悪いのか、それともあんなとこに行く用事がないのか。なんでこんな道を作ったんだろうな。

 山に入って水場を探そうか、なんでもいいから食えるものを探そうか。

 そんな事を考えつつも野犬に勝てるとも思えず、水源もあるかもわからないのに入って遭難餓死するのは御免被る。

 一旦休もう……。


 道の端っこに腰掛けため息をつく。

 子供にする仕打ちではない、親がどれだけ嫌われてたかはなんとなくわかるが……。俺の前ではそのようなことはなかった。まぁ当たり前だ。

 子供にもひどい仕打ちをしてたらもう少し村人も同情しただろうしな。

 村の俺に対する仕打ちは生きていく上では我慢できるが死ねと言われたら我慢する必要のないものだった。


 だから1日猶予を貰って夜のうちに村の畑中に塩水を撒いておいた。我が家には塩はあるからな。

 なぜ我が家に岩塩があったのかはわからないが、あるいはこれも恨まれる原因の一つだったのかも知れない。

 親父が死んだときに村人が目に付く場所にあったものを分捕っていったことは覚えてるが、本体らしい岩塩はなぜか部屋の片隅にある枠を外した隠し場所にあった。

 塩は高いからな……。

 親父も塩をただでよこせと言われて逆恨みされた可能性もないわけでもないが……。

 そうだとしたら村人全員ろくでなしだからな、流石にもう少しまともな理由だと思いたい。


 あの村の今年の不作と来年の不作と全滅を願いながら、ちょうど持っていかれた岩塩はこのくらいだったなと石ころを見る。

 よく見れば石の台座があったので道祖神らしい。それは寂しげにひっそりと佇んでいた。

 目を凝らせば山への道の跡のようなものが見える、これを示すためのものだったのだろう。今や獣道以下だが。


 なんの神様だろう?と思い少しだけ移動する。

 そこにはただの石ころのような道祖神があった、少しばかりの彫りもなく、文字もなく、台座に石を乗せただけとしか思えなかった。

 こうして正面から見たうえでなおも道祖神と思うのは台座があることと、瓶と包がお供えされていたからに他ならなかった。


 どうせ神がいてもいなくてもこのままでは死ぬ。

 どうせバチが当たって死ぬなら飢えて死ぬより腹一杯で死んでやったほうがマシだ、この量で腹いっぱいにはならないがそれでもいい。

 瓶の蓋が取れないため道祖神の台座に叩きつけて無理やり剥がし、お供えされていたパンを食べる。

 うまい、喉の乾きが癒える。瓶の中身は水だったようで流石に酒はもったいないということかも知れない。あるいは商人でも通ったのか?自分は村に来た姿を見なかったが気が付かなかっただけかもしれない。

 包まれていたパンにはカビがないあたり2日もたってないとは思うのだが……。


『そこの子供よ、流石にそのパンは腹壊すから止めとけ……。神の供物を横取りする罰当たりなのはまぁ……こんな時代じゃぁしょうがないとは思うがの』

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