計画

 それはそうと肝心のツーリングだけど、ここまで話が盛り上がれば山陰道よね。それも遠坂峠越えだ。あそこもツーリング動画が上がってるところだもの。


「日帰りは可能や」


 それはそうだけど、けっこう遠いのよ。前に播州トンネルを抜けて生野銀山に行ってるから、あの辺の距離感覚はわかるのよ。同じルートで行くとして、


「空いてるで」


 それも実感してる。とくに多可を過ぎて杉原ぐらいからはまさに快走路。隠れたツーリングコースにしてる人が多いのも良く分かったもの。あの時はシニクで生野銀山に行ったけど、あそこを曲がらずに直進すれば青垣に行けるし、


「遠坂峠で但馬や」


 ここも今は遠阪トンネルが出来てると言いたいところだけど、小型は走れないじゃないの。豊岡道が出来る前は原付でも走れたらしいのにコンチクショウだ。それにしても使い分けが面倒なところだな。


 だってさ、流れているのは遠坂川で、そこに出来てる谷間は遠阪谷で、道は遠坂峠で、トンネルが遠阪トンネルってアホの地理の教師が出しそうな問題じゃないの。区別のためって理由はわからないでもないけど、音は同じだろうが。


 この遠坂峠だけど、これもなんか妙と言うか、面白味があると言えばある。もともとはこの道だけだったから国道四二七号になってるのは良しとする。この峠道が険しいし、雪が降ったら通行困難になるから遠阪トンネルをバイパスとして掘ったのもわかる。


 そういう場合って峠道の方が旧国道みたいな扱いになりそうなのに、遠阪トンネルは国道四八三号になってるんだよ。


「豊岡道に組み込まれた時にそうなったんちゃうか」


 それにさ、遠阪トンネルは有料なんだ。それはそれでまあ良いとして、じゃあ、どうして後から出来た豊岡道が無料なんだよ。


「トンネルの建設費用の償還が終わってないかららしいけど、妙なのはわかるで」


 建設予算の会計処理の問題じゃないかとコータローは言ってるけど、なんかスッキリしない。もっともどちらもモンキーには関係ない道だからどうでも良いけどね。ツーリングの現実的な問題としては、


「そないに険しない峠みたいやで」


 それは動画で見た。最後は実際に走って見ないとわからないけど、戸倉峠よりラクそうかな。それなりの急な登りとワインディングはありそうだけど、少なくとも酷道状態じゃなさそうだものね。


「ああ、青垣峠と比べたら全然マシそうや」


 シニク酷道と比べるな。そうなると問題は遠坂峠を下った後になる。だってだぞ、そこは但馬だし、和田山だ。


「但馬は生野の時に行ったやんか」


 シャラップ。生野と和田山じゃ全然違う。和田山まで行けば日本海の方が近くなってるんだぞ。


「モンキーで行くのは初めてやな」


 なにを能天気な御託を並べてるんだよ。ツーリングと言うものは行けば良いってものじゃない。そこから帰らないと行けないんだよ。それがツーリングの宿命だ。


「なるほどな。そやったら榎峠」


 殺す気か。榎峠はシニク酷道だぞ、それをエッチラ、エッチラ越えたって着くのは福知山じゃないか。福知山がどこにあるのか知らんのか、


「京都やけど。福知山からやったら塩津峠を越えて春日に出て、そやそや佐仲峠で篠山に抜けたら古代の丹後支道を堪能できるで」


 アホか。佐仲峠なんかオフロード車でも走れるか! コータローのはか弱い妻を労わる心がないのかよ。


「千草はタフやんか」


 うぐぐぐ。どう見たってか弱いタイプじゃないものね。ところでさ、遠坂峠越えてからの山陰道は具体的にはどうなってたの。


「遠坂峠を下りて来て豊岡道をクロスしたところへんに粟賀駅があったとされてるわ」


 峠を挟んで駅があったんだね。その次は郡部駅になるけど、円山川を渡り、大屋川のあたりって言うけど、


「ああ養父のあたりにあったらしいわ」


 養父市も広いのだけど、律令時代には郡衙があって駅家はそれに隣接するようにあったんじゃないかと考えられてるそう。


「もろ郡衙の中やったかもしれんで」


 さっきから聞いてて思ったのだけど、そこまで推測地がわかってるのなら発掘して確認したら良いじゃない。


「予算があらへんわい」


 そっちか。こういう発掘って偶然と言うか、都市再開発の時に見つかることが多いんだって。つまりは他力が目当てだ。そうやって見つかったら調査をするけど、そうじゃないと、


「たいていは私有地やから無理やろ」


 そっか家が建ってたら、その家をなんとかしないと出来ないし、そのための予算となると莫大か。そこまでの予算をかけるとなると、


「そやな卑弥呼の墓の発掘クラスになるんちゃうか」


 そんなものが見つかれば歴史公園みたいなのが出来たり、展示施設が作られたり、


「卑弥呼饅頭ぐらいは作られるで」


 要は学術的予算から観光のための予算に切り替わるってことか。


「そやけど観光名所になるには歴史的な話題がいるで。但馬に卑弥呼はおらんからな」


 まあね。学術的価値と観光的価値はイコールじゃないのぐらい知ってる。そうなると但馬の歴史的有名人になるけど・・・思い浮かばないな。


「地元の英雄みたいなんはおるんやろうけど、オレも思いつかんわ」


 これだって但馬だからとくにいないって話じゃないから誤解しないでね。歴史に名を残す人ってニア・イコールで中央の政権争奪に関わった人になるもの。そんなところで活躍してるからあれこれと記録されるし、それが語り継がれて名を残していくのも歴史だもの。


「そうやねんよな。平家があれだけ語り継がれたんも琵琶法師が活躍したからやもんな」


 その元になる平家物語が名作だったのもあるはず。義経だって義経記だし、秀吉だって太閤記だ。幸村だって、


「真田十勇士や」


 そんな物語が作られ、後世に広まるラッキーでもないと地元の英雄に留まってしまうのはどうしようもないぐらいかな。でも但馬だって但馬に行けば、


「冬やったらカニで、夏でもイカが美味いで」


 それも美味しいけど、どうして但馬牛が出ないよ。


「高いからや。カニも高いけど冬にツーリングに行かれへんから助かっとる。千草のカニ好きはよう知っとるからな」


 だったら愛する妻にカニを食わせる算段を考えやがれ。

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