ツーリング日和26
Yosyan
マスツー派
十八年ぶりに開かれた中学の同窓会で幼馴染のコータローと出会い、結婚までしてしまった千草だよ。
「あのなぁ、なんか人生の大失敗をしてもたような言い方はやめてくれるか」
今のところは成功と思ってるから安心してね。同窓会で再会して焼けボックイに火が着いた理由の一つが共通の趣味だ。二人ともバイク乗りで、なおかつ愛車がモンキーだったんだ。
これはモンキーが共通しているというより、乗っているのが小型バイク同士である点は大きいんだよね。バイク乗りにもソロツー派とマスツー派がいるけど、千草はマスツー派になるかな。
もっともマスツー派も幅が大きくて、ツーリングでも出会うことがあるけど、十台かそれ以上の大集団のマスツーをするのは割といる。
「ハーレー軍団は迫力あるよな」
駐車場で出くわしたりしたら、どこか圧倒される気分になってしまう。なんだかんだで見た目の迫力もあるし、
「ハーレー乗りって独自のファッションしとる気もする」
もちろん全員がそうじゃないけど、革ジャン、ロングブーツってイメージはあるのはある。ぶっちゃけ、イージーライダーの世界。
「見たことあるんか」
あるはずないでしょうが。千草を幾つだと思ってるんだ。
「同い年やから便利でエエわ」
マッドマックスのスーパーソフトバージョンならどうだ。
「余計にわからんようになるで」
ハーレー乗りは置いといて、千草はあそこまでの大集団のマスツーはパスだ。というかさ、マスツー派の終着駅がツーリングクラブだと思ってる。
「終着駅って言い方にトゲあるけど、まあ、そうなるわな。そやなかったら、あれだけの大集団が出来上がらへん」
二十台以上はいそうな大集団もいるのよね。それもハーレー軍団と違って色んなバイクが混じってる。リッターから二五〇CC、スポーツタイプからアメリカン、オフローダーまで混じってる感じ。
大昔なら学生なら集められたかもしれないけど、今のバイク人口じゃ無理だろ。社会人ならなおさらだから、あんなに集まるのはツーリングクラブしかないと思う。道の駅で出会ったりしたら壮観だもの。
終着駅かどうかは置いといても、あれが大規模マスツー派の一つのゴールに見えなくもない。そういうマスツーの楽しみを追求するのは悪いと思わないよ。でもさぁ、でもさぁ、ああなるとある種の組織じゃない。
組織となれば統制があるし、ルールだって出来る。なければあれだけの大集団のマスツーなんて出来るはずがない。
「あそこまでの大集団になったら団体旅行みたいなもんや。ツアコンがおってガイドさんが旗振らんとツーリングにならへんと思うわ」
大集団になると一番遅いのにペースを合わせないとバラバラになるじゃない。それだけじゃなく、団体旅行並みのツーリング計画だって必要になるはず。
「そうなるわな。休憩ポイントとか、給油ポイント、昼食をどこで取るかとか」
故障とかのトラブル対策だって考えておく必要はあるじゃない。今は走行中にインカムで連絡も取れると言うけど、大集団になるとそれだって大変なはずだもの。そういうツーリングになるのが大規模マスツーだろうし、それが好きだからやってるのも良いのだけど、
「何が言いたいねん」
だから組織だって言ってるでしょうが。人の組織ってね、数が増えれば必ず変なのが混じるのが宿命みたいなものじゃない。会社だってそうだよ。どうしたって、気が合わないのとか、嫌いなのだとか、ぶっちゃけ、役立たずだっているでしょ。
「そ、それはそうや。ほんでも、そんな連中と付き合っていくのが社会人やんか」
良く言うよ。そういう付き合いを鬱陶しがってフリーターになってるのがコータローじゃないの。
「フリーターやのうてフリーランスや」
似たようなものだ。変なのがいても付き合っていくのが社会人なのはコータローの言う通りだけど、会社とツーリングクラブではだいぶ色合いが違うじゃない。会社の場合は統制を乱し過ぎるとこれを制裁するメカニズムがあるでしょ。
「まあ、そうや。会社の利益を損なうやつには左遷とか、降格とか、減給とか、クビまであるわ」
けどさぁ、ツーリングクラブってしょせんは同好会程度の統制なのよね。マスツーの和を乱すのがいても、せいぜい注意するぐらい。注意して聞かなくても、それを咎める権限がないじゃない。
「よほど酷かったら除名とかもあるやろうけど・・・」
その『よほど』が相当なレベルになると思う。
「まあ、そうなるわな。そやけど、それはどこの組織でも・・・」
そうなんだけど、そうなだ、会社員と比べたらわかるじゃない。会社にも変なのがいるけど折り合って我慢して付き合う目的がある。表向きは会社のためだけど、ぶっちゃけで言うとお給料のためだ。
人はおカネのために生きてるのよ。会社とはおカネを稼ぐ機関みたいなものだから、機関を動かすために嫌な奴と思っても我慢するのじゃない。
「パワハラ上司とか、セクハラ野郎とか、モラハラ爺とかやな」
嫌味女とか、サボり女とかもね。けどさ、ツーリングクラブで我慢して得られるメリットってマスツーの楽しみだけじゃない。さらに言えば、肝心要のマスツーの楽しみを邪魔するのが出て来るじゃない。
「なるほどな。オレ様ルールを振り回すのは必ず出て来るもんな」
ウンザリさせられるオレ様ルールも幾つもあるけど、遅刻野郎は絶対に混じってくる。会社なら遅刻はペナルティが下るけど、プライベートならヘラヘラ笑って済ませやがる。遅刻野郎のとにかくタチが悪いのは、遅刻が悪いなんてまったく思っていない点なんだよ。
「遅刻野郎は他の連中が迷惑しているのなんか死ぬまで理解できへん人種やもんな。オレもその手の人種を知っとるけど、ほんまにタチ悪いわ。そやから何とかタイムが暗黙のルールとしてあったりするぐらいや」
あるあるだ。なんとかタイムだって、それで許している訳じゃないんだよ。あれは呆れてあきらめた代物だ。それだけでもエエ加減ウンザリも良いところなんだけど、遅刻野郎は自分が悪いなんて1ミリグラムも思ってないのに腹が立つ。
遅刻野郎の存在はその日のスケジュールを狂わすじゃない。狂えばその日の計画が思っていた通りにいかなくなる。原因は遅刻野郎が初っ端から時間を浪費しやがったせいなんだけど、
「おるんよな。それだったらもっと早く出発すべきだってな」
アホか。全部てめえが遅刻しやがったせいなんだけど、
「どうしてもっと早く来れるようにしなかったんだってな」
てめえが遅刻したせいだろうと言っても、
「ちゃんと起こさなかったお前らが悪いって平然と言いだすんだよな」
自分を絶対免責にしてやがるからひたすら他人の責任にしやがりまくるんだ。お前を中心に世界が回ってるじゃないと言い返したところで馬耳東風、カエルの面にションベン。
「その時に不承不承で黙らせても次もいつものように遅刻しやがり、不満を並べまくるもんな」
遅刻野郎もウンザリなんてものじゃないけど、グチグチ野郎もヘドが出る。それなりの人数で食事をすれば全員の最大公約数的なとこに行くじゃない。だって好き嫌いはあるし、懐具合も様々だもの。
けどさ、最大公約数的なところって、逆に言えばどこか不満は残るともいえる。それを我慢するのがマナーなのに、まあ、これでもかと言い立てるのがいる。やれ不味いだの、量が少ないだの、高いだの、サービス悪いだのってね。
それもだよ、店に入ってから出るまでだけじゃなく、お出かけ中もずっとグチグチ、グチグチ言いやがるんだよ。あんなものずっと言われ続けたら気分が悪くてしょうがない。
「おるおる、だったら来るなと言いたいけど、なんだかんだと潜り込んで来やがるんだよな」
そうなのよ。あれってさ、グチグチ野郎は、グチグチ言う事で自分のストレスを吐き出してるのかもしれないけど、聞かされる方は堪ったもんじゃないもの。そんなにグチグチやりたいなら自分の部屋で一人でやれと言いたいよ。
「それわかるで。お前のグチグチを聞きに来てるんちゃうからな」
オレ様ルール野郎は問答無用で唯我独尊なんだけど、
「オレに言わせたら、てめえ以外が我慢してやってるから存在出来てるだけやから死ぬほど感謝して欲しいわ」
まさにそれ。マスツーが好きな連中は一人がどこか寂しいのはあるはず。これ自体はツーリングに限らずあってもなんの問題もないけど、一緒に走ってくれた人への感謝は必要のはず。
「そりゃそうや。ツーリングは遊びやねん。なんでオレ様ルール野郎の接待をやらんとあかんねん」
あれは接待と言うより躾のなっていないガキの世話だ。千草もソロツーは寂しいからマスツー派だけど、本当に気の合った人としかやりたくない。そこに現れたのがコータローだ。マスツーはね、二人でもマスツーなんだよ。それにお互いの愛車がモンキーだったのはまさに勿怪の幸いだ。
「ツーリングクラブは大型が中心のとこが多そうやもんな」
ツーリングクラブと言っても色々だろうから一概に言えないにしても、そういうところは多そうなイメージがある。
「どうしてもあるやろ」
多かれ少なかれね。なにがあるって、そりゃ排気量マウントだよ。クラブの中でも大きなバイクを乗っているほど大きな顔をするって感じ。そんな気はないって言うだろうけど、
「つうか現実的にツーリングやってもそうなるやろ」
どうしてもね。どうしたって排気量で走行性能に差が出るもの。だから言葉の端々に小さいバイクに気を遣ってやってる、合わせてやってるのが出て来るのよ。
「それもやで、小さいとか遅いとされるんは二五〇CCとかアメリカンやもんな」
二五〇CCでもそう見られるのだから、モンキーなんてまさにノロマなカメ扱いにしかならないのよね。はっきり言うとツーリングのお荷物扱いにされるよ。それぐらい走行性能に差があるぐらいは、こっちだって知ってるもの。だったら小型バイクが集まるツーリングクラブに入れば良いようなものだけど、
「どこに入っても人間関係はロシアンルーレットや」
千草は最高のツーリングパートナーを得られたし、最高過ぎて人生のパートナーにもしてしまったぐらい。
「だから、そのウッカリとか、物の弾みみたいにオレと結婚したみたいな言い方はやめてくれ。オレは千草がこの世で最高の女やと思うたから結婚したんやぞ」
そうじゃなかったら結婚なんかするものか。
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