第22話

ユーグ・トズベルンという存在が、怖い。


彼の優秀な部分も、残酷な部分も、全ての源はティーナにあった。



どうしてここまでティーナのためにするのかと聞けば、また同じ答えが返って来るのはユーグの熱の含んだ青紫色の目に見つめられると分かってしまう。




異常と言ってもいいほどに重たい愛。


長い間ずっと隠してきた心の内を明らかにし、余すことなく自分を曝け出したユーグは心底楽しそうに笑っている。



「ねえ、ティー。喜んでくれた?五歳の時に君と婚約してから僕はティーを守るために頭を使い、身体を動かし、笑いたくもないのに笑ってきた。そんな僕にもちろん、ご褒美をくれるよね?」


「ご、ごほうび…?」


「なに、嫌なの?ティーナのために僕が何年も掛けて頑張ってきたのに、ティーナは僕のために何もしてくれないんだ?」



一方的に押しつけられて本当に喜ぶと思っているのだろうか。



いや、本気でそう思っているから見返りがあって当然という顔をしているのだ。


いつから自分が知っているユーグではなくなってしまったのだろうと考えていたけど、そうではなかった。



ティーナが彼をおかしくさせた。壊してしまった。




五歳より前のユーグは物静かで、笑わない子だったと王妃が教えてくれたことをふと思い出す。



そんな彼がよく喋り、感情豊かになったのはティーナと出会ってからだと随分と昔のお茶会で言われて、驚いた記憶がおぼろげにある。


ティーナが覚えている幼いユーグは、すでに誰よりも優しく思いやりのある人だったからすっかり忘れていた。



そんな彼の隣に並べるように、毎日のようにティーナが勉学に励んでいた裏でこんな恐ろしい計画を立てていたなんて考えることすらしていない。


時々弱音を吐いたティーナに自分が頑張るから無理しなくて良いと言ったのも、王妃になる目標をユーグ自身が砕くことを分かっていたからだろう。

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