第15話

「……誘っているのか、エリス」


「…気付くのが遅いです、ナイト様」



力を緩めたエリスに合わせ、豊かな胸から顔を上げると少し怒った様に顔を赤くさせた彼女がナイトを見つめる。


そんな可愛らしいエリスにナイトの身体もまた熱を上げた。


戦で体力を消耗したとはいえ、ナイトは人一倍努力してきた男。まだまだ元気は残っている。



「私だけの、エリス」


「はい、ナイト様」


「誰にも絶対に渡さない」



青い瞳に狂気を孕ませたナイトが触れる度にエリスは淫らな歓喜の声を上げた。それは戦に勝ち、国中が喜んだ時の歓喜よりも遥かにナイトに悦びを与えた。




ああ、そうだ。


己が求めていたのはこれだったのだとはっきりと自覚した。



ナイトはエリスが欲しかった。エリスの全てが、欲しかった。


もう彼女以外は何もいらない。


みんなの英雄騎士は騎士としての最良の日々を捨て、たった一人の女のモノへと成り果てた。






ナイトが敵の兵士にかけられた液体の正体は「欲情を呼び起こす薬」。


コルチカムの花の毒を含むそれは、その液に触れたものが秘めている危険な激情を呼び起こす。それが人なのか、物なのかは当人次第。



呼び起こされる激情は、たった一つ。


ナイトが秘めていたのはエリスを自分のモノにしたいという本当の愛だった。

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