六章 13
まさかルミエル様が引き留めにくるとは思わなかった。
「ルーナ、行かないで」
「大丈夫です、離れませんよ」
「本当に?」
「ええ、あなたが望むまでここにいますよ」
弱々しい、今まで一番。それが今のルミエル様に抱いた感情。
「彼みたいに置いていかないで」
「寂しいんですね」
「……うん」
本当に彼のせいでもおかげでもあると言うのが非常に憎たらしい。多分彼が来なかったらこの問題は一生顕在化しなかったに違いない。
「もう一人にはなりたくない……!」
「……ルミエル様」
「みんな大好き。だから、嫌だった。こんな力」
「その力でルミエル様は誰かの役に立っていました」
私にはわからない。その力でどれだけ苦しんだか。
「少しでも良くしたかった。奇異の視線を向けられたくなかった。だから、見かけだけでも良くなって、そんな卑しい考えで私は……」
でも、わかる。ルミエル様はずっと孤独だったんだ。特別な力があったから。ルミエル様は気丈に振舞っていたけど、その心は普通の女の子だった。
「そんな時に彼に会った。すぐに分かった。自分と同じだって。だから……」
「孤独が紛らわすことができると思った」
彼に執着していた理由、ある種の仲間意識からくるものだったのですか。まあ、多彩な才能を持っている彼がどう魅力的に映ったかなんていうのは私にはわかりかねますが、ルミエル様にはとても大事に見えたのでしょう。
「仲間が見つかるととても嬉しいですよね」
「うん」
「ルミエル様は一人が嫌だったんですね」
これは核心であって確信である。ルミエル様にあったのは孤独感。とてつもない才能を持ったいわゆる「天才」に近しいルミエル様。特別な自分が嫌だった。自分以外を非人間にするのではなく、自分自身を非人間として捉えてしまう。
「私たちじゃなにもできないわけです。とんだ役立たずです」
「そんなことない! ……そんなこと」
普通ならそれは子供の時だけだったり、一集団の中で優れているくらいだった。でも、ルミエル様のそれは普通とは程遠い。国一の元騎士団長さんを純粋な腕力で叩いていたりして腰痛悪化の原因になったりもはや一個人だけで収まるようなものでもない。
「あなたの力になることなんて烏滸がましいかもしれない」
「……」
「でも、そんな私たちでもあなたの力になることはできる」
ルミエル様はゆっくりと顔をあげる。
「そんなの……言ってることが違う」
「確かにそうですね。でも、何もなくこんなことを言っているわけではないんです」
「……」
「私たちでは彼みたいにあなたの隣に立つのはほぼ不可能と言っても差し支えありません」
これはもう絶対に無理だ。どんな綺麗事並べようとルミエル様が望んでいる場所に私たちは決して立てない。ルミエル様を横で支えることは決してできない。でも……
「力になるのは何も横からだけではありません」
「後ろからってこと?」
「まあ、そうなんですけど」
横がダメなら後ろから。それもダメなら下から。そして……
「寄り添いたいと思った時に休める場所に」
「……!」
別にルミエル様のどこに立つとかそんなことは特段大切なことじゃない。あなたがどんなところにいたとしても、私たちがどこにいたって、いつでもあなたの支えとなるために動く。それがあればいい。
「あなたが何かを望んだ時にそれをできるお膳立てをしたり」
特に私なんてあなたのお付きのメイドなんだから。
「だから、なんでも一人で背負わないで」
あなたが望めばなんでもする覚悟はある。
「あなたの気が済むまでこき使っても構いません」
私はそっとルミエル様を抱きしめた。
「無理難題かもしれないよ」
「それは大変嬉しいですね」
「もしできなかったら酷いこと言うかもしれないよ」
「その時は甘んじて受け入れましょう」
だって、私は……
「ルミエルに頼ってもらえるだけで嬉しいもん」
あなたが大好きだから。
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