六章 8
「おーい、ルミエル様。昼食持ってきたぞ」
俺は日課になってしまったルミエル様のお世話のためにルミエル様の部屋に入った。俺はルミエル様と年も近いからルーナと一緒にルミエル様のお世話を回しているんだ。
「ありがとうございます、メイ」
「なんて言ったらいいかわかんないけど、早く元気になってくれよ」
俺はあんまり学がないし、人とのこういう関わりがあったわけではないから反応に困っちまうんだよな。うまい言葉が出てこないっていうか。
「マクロン様もサマラン様もランもルーナもみんなルミエル様が元気になることを願ってるからな」
「……ありがとうございます」
ゆっくり戻ってもらおう。それにしても、あいつ、勝手に抜けていきやがってよ! それでこっちにどれだけ仕事が回ってきたと思っているんだよ。俺はそんな長い期間あいつといたわけじゃないけど、ずっと一緒にいたルミエル様も悲しんでるんだぞ。それに母さんと約束したんじゃないのかよ、俺のこと。
* * * * *
「ルミエル様、お昼の回収に来ました。メイは粗相をしていませんか?」
「大丈夫ですよ」
彼がいなくなってからルミエル様の元気はみるみるうちになくなっていました。正直に見るに耐えません。状況を打開するために彼の痕跡を探したりはしています。それでも私たちにできることが少ないなんているのはわかりきっているんです。
「あの子もランさんの教育に耐える猛者ではあるんですけどね。口だけは本っ当に直らなくて」
「あの子らしいですね」
いつも雑談をしてしまう。こうしたままじゃ一生変わらないというのに何も進展させることができない。
「そういえば、そろそろ雪が降る季節ですね」
「そうですね。もう寒いですね」
ぼんやりとお話を進めていく。私から見てもターゲットと暗殺者という普通とは言い難い関係の二人だったけど、月並みな言い方をしてしまえばそんなもの関係ないくらい仲はよかったです。暗殺というつながりあってこそのものでしたけど。
「雪まつりももうすぐ始まりますね」
「雪まつりなのに熱気で暑すぎるって言われるあの雪まつりですか」
一切関係ない話でも続けるしかない。正直あの不届きものをさっさと見つけ出してルミエル様の前に叩き出したいんですが、なにせ裏社会どころか表社会にも名前が知れているのに一切に痕跡がない化け物じみた相手ですからね。簡単に尻尾は掴ませてくれません。
「彼は?」
ついにルミエル様から話し始めてくれましたが、それは望んでいない言葉でした。いえ、ルミエル様から話してくれるようになってくれただけで儲け物です。
「こちらでも懸命に捜索していますが、誰を殺したのかくらいならわかりますがどこにいるとかは全然出てきません」
「そう。彼は一流の暗殺者でしたもんね」
やはり、もう一度会いたいのでしょうか。
「ルミエル様」
「ルーナ、どうしました?」
「もう諦めたらどうでしょうか」
ひどいことを言っている自覚はある。それでも、彼のことを諦めて忘れたとしても、私はルミエル様に前に進んでほしい。身勝手で愚かな願いなんていうのはわかりきっている。
「本当ならそうした方が良いんですよね。それはわかっているんです」
「なら!」
「それでも!」
ルミエル様らしくないその剣幕につい肩を震わせてしまった。ここまで感情的になることなんて滅多にありません。
「あんな終わり方なんてないよぉ」
「……!」
本来なら恥じるべきことがまたできてしまった。私はルミエル様が六歳の頃からルミエル様についていました。その時には年不相応に丁寧な人だと思いました。その時から誰に対してもずっと敬語で何度も敬語じゃなくていいとは言ったのですが本人が折れなかったからそれでもいいと思っていたのですが。
「ルミエル様」
どうか許してください。でも、それがあなたの本心でもう一度を望むなら、私の意思なんてどうでもいいです。自分の言ったことを簡単に曲げて、軽蔑されてもあなたのことを優先します。それがあなたの従者としての役割だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます