隣の彼女は正義の味方(仮)

井関和美

プロローグ「正義の味方(仮)、活躍中」


「……ったくぅ! 冗談じゃねえぞ!」


 それが、スマホの通話ボタンを荒々しく押した後、少年が最初に口にした言葉だった。


 季節は夏である。


 少年の部屋にある点けっぱなしのテレビ画面では、昼過ぎから始まった情報番組のリポーターが汗だくになって外ロケをしている。どうやらこの猛暑の中、本日日本で一番暑い町はどこか、というテーマであちこち回っているらしい。


 そんな汗だくでつらそうなリポーターの顔を見て、番組の司会者はおもしろそうに笑いながら「水分補給はちゃんとしなさいよ~」なんて言ってる。それを聞いて何人かのコメンテーターもつられて大笑いしていたが、少年は今、そんな彼らと一緒に笑える気分ではなかった。


 腰かけていたベッドからすくっと立ち上がり、それまでタンクトップに綿のハーフパンツだけというだらしない格好から、すぐに薄い青色の生地の開襟シャツとGパンに着替える。そして、机の上に置いていた財布を掴んでスマホと一緒にGパンのポケットに突っ込むと、慌てて部屋から飛び出した。テレビの電源を切るのも忘れて。


 階段をドンドンドンと踏み鳴らしながら駆け降り、すぐ正面に見えてくる玄関のドアを押し開ける。その時、玄関横にあるチェストの上の小さなかごから自転車の鍵も掴み取ったのだが、慌てていたせいで手首が引っかかり、かごがチェストからいとも簡単に落下してしまった。


 使い古しのキーホルダーやら、だいぶ前に届いていたお中元の案内のチラシやらが足元に散乱して、少年はうっと一瞬呻いて眉間にシワを寄せる。


 だが、こんなものは、今まさに起ころうとしている『面倒事』に比べれば、非常に些細な事だ。


 そう思い直すと、少年は片付けもせずに玄関を出た。


 玄関を出れば、すぐにガレージが見えた。その隅に立てかけてあった自分の自転車の鍵を素早く外すと、少年はすらりとそれに飛び乗ってペダルを踏み込む。そのまま、ぐんぐんとスピードを上げて進めば、なだらかな坂を下っていく中、地球の温暖化に負けまいと言わんばかりにセミの大合唱が聞こえてきた。





 

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