第22話 聖女降臨

 部屋でくつろぎながら、昨日のメアリー様との会話を思い出しぼーっとしていた。


 メアリー様のおかげで、私は自分の気持ちに気づけた。

 いや、正確には『自分の気持ちを認めることができた』だ。


 気づいてしまったからにはもう後には引けない。

 大きく育ちすぎてしまったこの感情に、見て見ぬふりはこれ以上できそうにないのだ。



 伝えよう、エリック様へ。

 素直に正直に、この心を全部。


 そう決心すると、途端に会いたくなった。



「――……エリック様に会わなくちゃ」

 心で呟いたつもりが、思わず声に出てしまって焦る。


 や、やだ、ミラの前でこんなこと言って――。


 そんな私をミラは嬉しそうに見つめて言う。

「レイラお嬢様。エリック様は日中、エドワード殿下の執務室か会議の広間にいらっしゃることが多いですよ」

「え? よく知ってるのね」

「ええ、カエサル様に聞きました」


 カエサル様って、私の部屋の前に立って護衛をしてくれている騎士のカエサル・リーボ卿のことね。


 よくよく見るとミラの顔がうっすらと赤く上気している。


 ほほう、名前で呼ぶってことは……!

 ふむふむ、そっか、仲良くしてるみたいで嬉しいな。


 思えばここへきたばかりの時、任命式に行く途中でぶつかってしまったあの時からミラはリーボ卿に惹かれていたものね。


 私は明るい気持ちになってミラにお礼を言った。


 私もエリック様に会って、自分の気持ちを伝えるんだ!

 そう決心し意気揚々と部屋を出て、宮殿に向かった。


 とりあえず殿下の執務室の近くまで行こう。


 ミラの話だとエリック様は毎日宮殿に来ているらしいから、その辺りをうろうろしていればきっと会えるはず。


 ちょうど応接間が並ぶ廊下に差し掛かったところで数人の神官服を着た人たちとすれ違った。

 今日は神殿の人が来ているんだ。



 そんなことをぼんやり考えたところで、神官の一人が私を見てハッとした顔をして言う。


「あれっ? もしやあなたはレイラ様では?」

「はい?」

 名前を呼ばれたことに驚き、思わず声が上擦る。


 神殿の神官さんに知り合いはいないはずだけど……。

 やだ、私がこの世界に転移してくる前に何か関係があった人なのかな。


 焦る私をよそに、神官たちがわらわらと私を取り囲んだ。


「やっぱり、レイラ様ですね! ちょうど良かった!」

 神官は返事をした私を見てぱあっと顔を輝かせながら言った。


 ちょうどよかった?


「まあ、じゃあこの方が聖女様なのですね」

「初めまして、聖女様!」


 周囲にいた神官たちが顔を輝かせて口々に私に声を掛けてくる。


 せ、聖女様?!

 一体何の話?!


 私が状況を飲み込めずにいると、最初に私の名前を呼んできた神官が恭しくお辞儀をしながら言う。


「王宮の方からレイラ様が聖女である確認をしてほしいと仰せつかりました」


 は?!私が聖女?確認?


 驚きすぎて言葉にならない私に神官が近寄ってきて『失礼します』と言った後、何かを探るように手をかざし始めた。


 すると、私の体がぽうっと白い光に包まれたのが分かる。


 な、何、今の?!

 この神官さんが何かしたのかな?


 そう思った瞬間、神官は少し驚いた様子で言った。


「やはり……! 魔力の流れが感じられました。レイラ様には聖力が宿っているのかもしれません」


 その言葉に『わあ』と他の神官たちが顔を輝かせている。


 ちょ、ちょっと待ってよ。

 私が聖女なわけないじゃない!


 これまでも、そんなこと一度も感じたことはなかった。


 でも、今の感じって明らかに私の中から出たものじゃなくて、外側から受けたような感じがするんだけど……。


 この神官さんが何かしたわけじゃないなら、きっと何か他に原因があるはずだよね。


 そう思いながらあてもなく辺りをキョロキョロしてみると、少し離れた曲がり角に黒い髪が揺れるのが見えた気がした。


 黒くて長い髪?!

 あれは、まさかエリザ……?


 そんな疑問を吹き飛ばすかのように、神官たちは私を取り囲んだ。


「レイラ様の聖力が確認できたら、すぐに神殿へお迎えするよう神官長様から言われております」

「ささ、レイラ様こちらへ」


 口々にそう言って、神官たちは嬉しそうに私をエスコートすると、私はあっという間に神殿へと向かう馬車に乗せられていた。



 な、なんでこんなことになったの?!



 神殿に着くと、なぜか私は手厚い歓迎を受けて、質素ながらも綺麗に整えられた美しい部屋へと案内された。


 神殿にいる神官たちは皆、私を聖女だと崇め丁重に扱ってくれる。

 中には涙を流して喜んでいる人もいて、戸惑いをぶつけることは憚られた。


 この国ではここ近年の間、聖女の出現がなく大きな問題となっていたらしい。


 この世界では聖女は国に繁栄と幸運をもたらす大事な存在だ。

 神官とはまた違う、とても大切な役割を担っている。



 ――――そんな存在に私がなるなんて………………あるわけがないでしょ!!


 元は王女様のお話相手のはずが、なんで神殿に聖女として来ているんだろう。


 もうこんなの小説の原型すら留めてない……!

 人生って何が起こるかわからないものなのね……。



 ――――いやいや!違うよ!

 早くこの状況から抜け出さなくちゃ!


 それで、エリック様に会って本当の自分の気持ちをきちんと伝えるんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る