第6話「イグニアとの出会い」
宿屋の一階にある食堂へやって来た。
夕方でご飯の時間なのだろう、けっこう賑わっていた。俺とスズリも空いているテーブルを見つけ、座ることにする。
「ふぅー、さっき聞いたんだけど、ここの食事代も宿泊代に含まれるらしいよ! じゃんじゃん食べてね!」
「お、おう、分かった……」
なにやらテンションの高いスズリ……はいいとして、俺は今後のことが気になっていた。
「この後はどこに行けばいいんだろう?」
「んー、この近くとなると、北にノースキャットという大きな街があるから、そっちに行くのもありじゃないかなぁ。ボクジュウのことも魔法屋かどこかで詳しく見てもらえそうだし!」
なるほど、魔法屋というところがあるのか。この墨汁がどんな効果があるのか、俺も知りたかった。
料理が運ばれてきた。鶏の丸焼きのような肉と、シチューのようなスープだ。
「これは……鶏か?」
「これはロックバードの丸焼きだねー、美味しいよー」
当たり前だが、聞いたことのない料理だ。とりあえず俺も一口食べてみる……おお、お肉がジューシーで美味しい。スープもクリームシチューに似た味がする。食べ物が口に合うというのは嬉しいものだ。
「どう、美味しい?」
「ああ、こっちの食べ物が口に合わなかったらどうしようと思っていたけど、大丈夫そうだ」
「そっかー、よかったー! あ、じゃあ明日さっそくノースキャットに向かってみる? そこで――」
「――お、カワイ子ちゃんはっけーん! ねえねえ、俺らと一杯やらねぇか?」
そのとき、スズリに声をかける人がいた。人……というよりは一人は見た目は熊のような……もう一人は頭に角が生えている。色々な種族がいるというのは本当のようだ。
「……え? い、いや……」
「そんな冷たいこと言わないでさー、こんなヒョロヒョロな奴と食事したってつまんねーだろ? 俺らと一緒にさ」
そう言って熊のような人がスズリの右腕を持った。これは……新手のナンパか? いやこっちにもナンパってあるのか知らないが。
「お、おい! やめろ!」
俺は思わず声を出した。椅子から立ち上がると、角が生えた人がこちらに来た。
「あん? お前には用はないんだよ」
そう言って角が生えた人が俺を突き飛ばした。俺はよろけてしまったが、倒れずに済んだ。しかし二人とも俺よりも大きい。身体つきもがっしりしているようだ。ケンカをして勝てそうな感じでもなかった。
「こんなしょぼい奴と一緒じゃなくてさー、俺らと――」
「――うるせぇな、黙ってくれないか」
そのとき、誰かの声が聞こえた。見ると犬? 狼? のような顔をした人が熊のような人の腕を持っていた。
「な、なんだお前……って、いてててて!」
「この子も兄ちゃんも困っているじゃねぇか。てめぇらチンピラがうるさくてメシがまずくなるんだよ。出て行ってくれねぇか」
「な、なんだと……うわっ!」
熊のような人を突き飛ばした後、犬のような人は角が生えた人の胸ぐらをつかみ足を払って抑えつけた。す、素早い……なんだろう、武道をやっている人なのだろうか。
「お、おい、あれ、イグニアじゃねぇか……?」
「あ、ああ、あのドラゴン討伐に参加した兵士の一人の……!」
周りの人がざわざわしている。イグニア……この犬のような人の名前だろうか。
「い、イグニア……!? ひ、ひいいいい~」
熊のような人と角の生えた人は、あっという間に食堂を出て行った。あっちはあっちで素早いな。
「ふぅ、二人とも大丈夫か? あいつらから酒のにおいがした。酔っ払いが絡んできたみてぇだな」
「あ、はい……ありがとうございます……」
「あはは、こっちの嬢ちゃんは可愛い顔してんな! そっちの兄ちゃんはなんか不思議な感じがするんだが……さっき聞こえてたと思うが、俺はイグニアっていうんだ」
犬のような人……イグニアが、スッと手を出してきた。お、俺も手を出して握手をする。イグニアは俺より大きく、190センチくらいあるだろうか。身体つきもなんだかがっしりしていて、腰に剣を持っていた。
「あ、ああ、俺はユウ……」
「わ、私はスズリ……です」
「ユウにスズリか、面白い二人だな。せっかく会ったんだ、ちょいと一緒にメシでも食わねぇか? あ、あいつらとは違って下心はないから、安心してくれ」
そう言ってイグニアがあっはっはと笑った。と、突然出会った不思議な人……悪い人ではないと思いたいが……。
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