第一章 作戦会議ニャ! ②

🐾2 そもそもネコって大きい音苦手ですよね?  爆音だらけの

武力作戦はムリなのでは



 最新兵器を使ったシミュレーションをピケ隊員から披露されてタンデュは少し希望を持ったものの、プリエの言葉に不安を抱いたのも事実だった。

(よし、リアル・シミュレーションだ)


 タンデュは隊員たちをシミュレーション・ルームに集めた。ピケ隊員の作戦をバーチャル戦場で試してみることにしたのだ。タンデュたちが乗って来た宇宙船には作戦を実際の戦闘のように体験できる装置を備えたシミュレーション・ルームがある。今回の地球侵攻は失敗が許されない。作戦は完璧に遂行されなければならないのだ。

「よっしゃー。やるぞー」

「バーチャルとは言え遊びじゃないんだぞ」

 最新兵器をこの銀河系で試せるのが楽しくて仕方ないのかウキウキが止まらない様子のピケとは対照的に、眉間にシワを寄せ悲壮感さえ漂うタンデュだった。

「タンデュ隊長、始めていいっすか?」

「うむ。ここからは実戦スタイルで行くぞ。油断するな」

「オッケーっす。第一連隊、そろっているか!」

 おおーっ! ピケが率いる第一連隊は昨年のM51銀河侵略戦争での防衛戦で目覚ましい戦果を挙げたばかりで勢いづいている。

「タンデュ隊長。第一連隊だけで片付けますから」

 任せてください、と一言放つと元気よく飛び出していく。第一連隊のメンバーはあっという間に隊列を組み、仮想の敵に向かって光線銃を放った。

「この惑星に防衛軍なんてありますの?」

シェネがルルヴェに話しかける。

「どうかしらねぇ。私の調査では、国というか何というか政治信条も文化も言葉も違う民族同士、話し合ったり協力したりはしてるみたいだけど惑星全体の連合軍はないわ。当然強力な防衛軍はないはず。ピケ隊員の一人舞台かもね」

「ピケ先輩の言うとおり第一連隊だけで簡単に終わっちゃうかもってことですか?」

 部隊では最年少のパンシェが会話に混ざる。シェネとルルヴェが顔を見合わせた。

「それはそれで、ピケ隊員が鼻高々になってしまってめんどうな気がしますわ」

 とシェネ。そうね、とルルヴェが笑いながら応じた。

「あ、最新兵器出した。あれ、サイレンサーつきで静かなのに一撃で街一つ消しちゃうくらいすごい威力なんですよね?」

 パンシェがそう言った瞬間、巨大爆弾のようなものすごい爆音が轟いて全員がフリーズした。何が起こったのか? 実際は5秒くらいだっただろうが、何分にも感じるくらいストップモーションがかかったように誰も動けずお互いの顔を見るだけだった。第一連隊のメンバーの何人かは部屋の端っこでうずくまっている。

「おい、ピケ!何をやった!?」

 タンデュが叫ぶ。

「ピケ!ピケ!応答しろ」

 ピケは呆然と立ち尽くしていたが、我にかえると

「何もしてないっす! いつものように銃を撃っただけで・・ いやぁ〜何なんすかね? 音はしないはずなんで・・・調子悪いのかなァ?」

 平静を装っているが、声が上擦っている。それでも隅っこに逃げた部下たちに声をかけた。

「おい!戻ってこい。今のは何かの間違いだ。作戦を続けるぞ」

(音はしないはずなんだ。この兵器のサイレンサーは、開発したデヴロペ隊員の自慢の装置なんだ。テストもクリアして実戦でも使って威力は実証済みだ。オレも何度も使ってる)

「今のは間違いだ。音はしない」

 ピケは自分に言い聞かせるようにもう一度 つぶいた。


 地球の猫は大きい音が苦手だ。この侵略者たちは〝ネコ〟になりすましたために〝大きい音が苦手〟な習性も身についてしまったのだろうか。そもそも侵略者たちは地球の猫とどこか似ていた。だからなりすましも苦労しなかったと言える。苦手な習性も似ているのか。実は似ているのは聴力の凄さだった。ニンゲンの数倍もある聴力を持つ猫と同じくらい彼らの聴覚も凄いのだ。しかしそれがあだとなり、大きな音・高周波数の音に過剰に反応してしまう。もともと〝大きい音が苦手〟な上に、〝ネコ〟になりすましたために聴覚がさらに敏感になったということは十分考えられる。だから音がしないはずのサイレンサーが効かないのは大問題なのだ。



 ピケと第一連隊のメンバーは隊列を組み直し、再び光線銃を放つ。音はしない。

(大丈夫だ。やっぱりさっきのは何かの間違い・・・ちょっとしたバグかもしれない)

 電子小型爆弾、超電磁砲(レールガン)と続けてみる。軍が現在使用している兵器は全てサイレンサー付きなので音がしないのは当然である。通常サイレンサーは兵器を撃つ時の音を消すものだが、彼らが使う兵器は光線や弾丸が命中した先の破壊音まで消し去ってしまう画期的なものだった。敵はやられたことにすら気づかない。

「きさまはすでに死んでいる」的な?恐ろしい兵器なのだった。


 ひと通り兵器を試し打ちするとピケは再び最新兵器を取り出した。これは開発部自慢の最新兵器で、発射の際の反動・音はもちろん熱や波動すら発しない。その静かさが恐ろしすぎて〝恐怖〟を意味する「DREAD(地球語訳)」という異名を持つほどの、まさに〝静かなる兵器〟なのである。

(これで決める。シミュレーションは終了だ)

ピケは銃を構え、ふぅっと息を吐くと引き金を引いた。



「いい加減、集中してくれないか」

 会議室の重苦しい空気を払うように、タンデュが口火を切った。会議室では、先ほどのシミュレーションのあの想定外の爆音について意見を交わしていた。というより交わすはずだった。だが、少し話すと誰かがお茶を飲みに行ったりトイレに立ったり居眠りをしたり、果てはシャワー浴びて来ますだの先に帰りますだの、みんな勝手すぎるのだ。〝ネコ〟はマイペースというが、そんな性質も似ているのか? 会議というとまとまりがないのが毎度のことなのだが・・・。

 タンデュは怒鳴りたくなるのを抑えて、いつも割と協力的なプリエに助けを求めた。

「君はどう思うかね?」

 うながされプリエは口を開いた。

「分かりません。でも、他の兵器は大丈夫だったのに最新兵器だけがサイレンサーが効かないというのは欠陥があったのではありませんか?」

「ちょ、待てよ!」ピケが怒鳴った。

「あの兵器だって何度も使ってる。今まで一度だってサイレンサーが効かなかったことはないからな!」

「でも今回はダメだったじゃない!だから緻密に計画しましょうって」

シミュレーションの最後にピケが撃った最新兵器の爆音がよほど恐ろしかったのか、プリエが涙目で反論する。

「あんな音、耐えられません!どうにかできないんですか?」

 プリエは両手の肉球をほっぺたにあてたまま体をぶるっと震わせた。

シェネがプリエの肩を抱きながら、ため息をつく。

「現時点ではどうにもできませんわね」


「うむ。原因が判明してこの惑星に合わせた改良がされるまで最新兵器は使えない」

 タンデュの言葉にはっとした表情でピケが振り向く。だが声は出なかった。壁を拳でどんとたたく。

「武力作戦は中断する。別の方法を考えよう」

 タンデュは静かに、しかしきっぱりと言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る