第6話 お屋敷にて
お屋敷での葵は、よそ行きの雰囲気がして私の方でもいつにもまして他人行儀に接してしまう。
屋敷にいる時の方が、学校にいる時よりも葵と目が合うことが無い。葵の意識はおじい様やおばあ様、他に向いているのは明らかで、私の方では葵に視線を送りやすい。
お屋敷に帰って気を抜いている私とは相反して、葵は気を張っているような気がする。私がそう思うだけなのかもしれないけれど。
ダイニングでの食事が終わって、おじい様が席を立って一番にその場から去る。そうすると、葵は夕食の後も居間に残っておばあ様達と会話に混じっている。
葵がいない日なら早々に部屋に引き上げてしまう私とは大違いだ。
おばあ様やお母様の話を聞いている。そんな葵も、時間になれば自宅に戻ってしまう。結局葵が帰るまでに、私とは二言三言それだけしか話さないそんな事さえあった。
帰る葵をお屋敷の誰かが送っていく。もしくはお屋敷の運転手か山野さんが迎えに来るか、山野さんもこちらに来ていて一緒に葵と帰っていくか、帰る時のパターンは決まっていなかった。
今日は運転手が表で待っているパターン。
これといってあまり会話をしなかったくせに、帰りの時だけ表戸口まで付き添って行く。そこくらいしか2人になる時間が無かったから。
だからといって、葵に話そうと思うことがあるわけでもない。
「夜になると少し寒いね、暖かくしてね麗華」
言われてみれば気温は下がっていて少し肌寒い。もう車の所まで着いて、別れ際にお母様が言いそうなこと葵は言う。でも、その言葉はお母様とは全然違って私には聞こえる。言葉だけで温かくなる。
私なんかより今から家に帰る葵の方が暖かくするべきなのにと思う。
「葵、何か羽織るもの持ってくるよ」
「ううん、すぐだし平気だから。じゃあ、また明日」
「…また明日」
そう言って見送ると、門のところで待っていた車に葵は乗り込む。
歩いて帰っても5分とかからないからと初めのうち葵は一人で帰ろうとしていた。けれど、いくら近いからと言っても夜だ。
「送ってもらいなさい」
というおじい様一言があってから葵も送ってもらうことを素直に受け入れた。
葵の乗った車を見送ると静かになった。そこで初めて「ああ少し肌寒いな」って実感した。
なんで私は葵のことばかり考えてしまうんだろう。気になってしまうんだろう。
私には、まだその感情の答えなんて知らなかった。
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