ep.10 歴史のウソは、実力主義のすぐそばに。
「セリナ。一度、ここで翼を生やしてみてくれ」
場所は戻って王宮。
その場にいたキャミから、僕の能力について指摘され、困惑した。自分にとってはごく普通の感覚というか、ただ素直に力を取り戻せて嬉しいという感想しかなかったからだ。
「なぜ?」
と、僕は質問する。それでもキャミは「姿を見せるんだ」の一点張り。
まぁ、今更隠すような事でもないし、いいか。一旦アゲハに目くばせで了承を頂いた後、僕は皆から少し離れた位置でその力を出す事にした。
ファサ!
背中から、鋼鉄製や羽毛、水、火、草など、様々な属性で構成された翼を生やした。
それはこれまで仲間達が生やした、どの翼よりも大きく、光輝いている。その姿を魅入るメンバーがいる中、果たして僕のこの姿のどこが気になるんだろう?
するとキャミ、こちらをまっすぐ見ながら歩いてきたではないか。
「え」
まってイケメン顔が近い近い近い! 僕どうしたらいいのこれ!?
なんて冷や汗で固まる前方、目の前まできたキャミが手を伸ばすと、その肩に乗っているマルコ… ではなく、僕の髪を触ってきたではないか。
「この髪―― 意図的に伸ばしているのか?」
その瞬間、僕は「へ?」といいそうになる。
予想外の質問であった。確かに僕はこの覚醒時のみ、腰の位置まで髪が伸びて、カラフルなメッシュが6本ついて、おまけにアホ毛も2本に分かれるけども。
「いや、全然?」
僕は首を横に振った。キャミが僕の髪をさらさら流し、イングリッドへと振り向く。
「セリナがプライムで覚醒したとき、ここまで急速に髪が伸びる事はなかった。イングリッドはその件について、引継ぎ時にベックス達から何も言われなかったのか?」
「ないって、そんなもん。それ以前に、クリスタル探しがまだ終わってないのだって本当だ。俺とミネルヴァの索敵能力がそれを感知している」
と肩をすくめるイングリッド。索敵については僕もなんとなくその感覚が残っているので、イングリッドが嘘をついているとは思えない。
するとキャミが少し考え、僕が反芻するくらい次にこんなトンデモ仮説を立てた。
「もしくは…
「は? 覚醒上限?」
「考えられるは、神々やサリイシュと同じ『魂の息吹』が使えるようになった点だ。現時点でそれが出来るという事は、全てのクリスタルを見つけ解放した時、恐らくもう一段階、覚醒する瞬間があるかもしれない。それがセリナやこの国にとって福と成すか、脅威と化すか、皆目見当がつかない。念のため、それらの可能性は頭に入れておいた方がいいだろう」
「…はぁ」
僕は愕然とした。今一現実味がない仮説だからだ。まぁ、この異世界でそんな事を言うのは野暮かもしれないが。
アゲハが、ここで僕を気遣う様にこういった。
「アキラは普段から、自分の事を後回しにする傾向があるからね。あえて言い方を変えれば、自己犠牲に走りがちなんだ。皆へ振りまけられるその優しさは長所でもあるけど、もう少し、自分の体の変化を気にしてもいいと思う」
「…うん」
「ところで… もう、いいんじゃないかな? その翼を仕舞っても。そろそろ兄さん達が帰ってくる」
そうだな。
僕はアゲハのその意見に賛成し、てんこ盛りの翼をフェードアウトした。
すると、僕の頭髪もいつものミディアム&ハートのアホ毛1本に戻る。すると1,2分後、
「ふぁ~。なんや、種鑑定してほしい頼まれてん」
カナルこと、カナリアイエローが
先代魔王3きょうだい「CMY」の末っ子で、植物を自在に操るハチミツ大好き令嬢。さらに、
「ただいまアゲハさん」
「うぃー♪ 姫様も連れて来たぜー」
「っ…!」
「またせた」
ヒナ、ジョン・カムリ、クリス、そして礼治も帰ってきたのだ。
ちなみにマイキは恐らく公務があるため、途中で道を別れたと思われる。こうして王宮は一気に大人数となった。
―――――――――――
「えらいこっちゃ… なん、そのオークは死に物狂いで箱を守ったんか?」
こうしてカナルによる「荒野下で拾った謎の種」の鑑定を行わせた結果、本人が信じられないとばかり目を大きくした。騒がず小声できく辺り、箱に入っている種が息で吹き飛ばないよう、慎重になっているのだろう。
クリスが静かに頷いた後の、カナルとヒナの会話が衝撃的だった。
「これ、マヌカの種やんけ。この黒い星の模様、間違いあらへん」
「マヌカ、ってあのマヌカの木よね? …まって!? 確かこの世界のマヌカって、若ちゃんから聞いたけど『絶滅した』って話じゃなかった!?」
「せや。あのミハイルはんが、コロニーん中や『マヌカは絶滅した』言い伝えられとるん言うてたで。せやけどこの種があるっちゅう事は、言い伝えは嘘やいう事になる」
それは、確かに妙だ。するとキャミがこう推測した。
「もしもその箱を守りながら死んだという例の死体が、あの少数民族コロニーの一員であるオークだとすれば… その者は、特定の疫病を治癒できる貴重なマヌカを何者かの手で絶やされるのを防ぐため、種を持って荒野へ逃げるよう託されたのかもしれない」
その推測をきき、アゲハが相槌代わりにこう続けた。
「それはつまり意図的に、疫病で人が全滅するよう仕向けているヤツがいるという前提だね? でも、その事を知っていそうな住民は見当たらない… いや? それともその事実を外部に漏洩されないよう、コロニー全体に規制がかけられていたりして」
「恐らく。だが、そうなると表向きはコロニー全体がグルとなり、その種を持った者をわざと『生贄』に捧げた事になってしまう。グリフォンが人族を敵視し、襲撃が発生し、国との
すると、その会話を静かに聞いていた礼治が前に出て、アゲハにこう問いかけた。
「アゲハ。その様子だと、本当は目星がついているんだろう? あのコロニーの中に、フェデュートの『内通者』がいると」
「「!!」」
仲間達の身に、緊張が走った。
実は、僕も何となくそんな気はしていた。
今日まで国がここまで善意を尽くし、文明を発展させ、そして来る戦争に向けて準備を進めているというのに、コロニーが一向に我関せず中立を貫いているのは、流石におかしいからだ。
アゲハは少し、歯痒そうにしていた。
「一応。でも、今日までその確たる証拠がない。こちらが不利な状態で、コロニーに内通者がいるという情報を与えては、敵に先手を取られるかもしれない」
「今はこれだけの数の仲間を解放できたんだ。昔よりも打開策は増えた。
あえて誰とはいわないが、例の
その提案に、クリスがアゲハを
「クリスには、相手の目を見て嘘を見抜く読心能力がある。今のコロニーは、昔よりもニンゲンの立ち入り条件が緩和されていると聞いた。女王相手に、今さら門前払いはしないと信じよう」
礼治にそう激励されると、アゲハは少し考えてから、静かにこう一案した。
「念のためマルコと、ノアのパッケージを借りて、仲間の意思疎通を図れる様にしたい。母神様のヒナと、アニリンの“お姉ちゃん”であるマリアも連れて、出来るだけ穏便に済ませるよ。その間、兄さんには王宮を任せていい?」
礼治は頷いた。「もちろん」という意志表示だった。
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます