夢の世界とアガーレール! 最終章

Haika(ハイカ)

最終章 ―さよならファースト! 黒から白の旅路へ―

ep.1 きたる戦争に向けての“準備”

 異世界の、地球と似た環境をもった岩石惑星。

 その一角にある、オリエンタルな雰囲気を持った国。アガーレール王国。


 最初は緑豊かな自然と動物、そして小人達がのんびり暮らしているだけの土地だったが、今では急速に文明が発展し、まばらに和洋わよう折衷せっちゅうの近世的な建物や多用途の施設が建てられるまでに利便性が上がった。ライフラインも向上した。

 そんな異世界で暮らす僕・芹名アキラはふと、この国がかの常夏の小さな島国に雰囲気が似ている事を思い出す。


 その島国とは、赤道直下の海にある「荒樫アルクス」という国だ。


 時は大正時代。かの戦国将軍とめかけの隠し子にして、のちに薩摩藩に身を隠したその子孫である羽柴明治が、第一次世界大戦中にとある無人島へ漂流した事がはじまりとされている。

 彼はそこで飢えを凌ぐために、当時は荒れ果てていた樫の木からなけなしのドングリを拾い、それを食べてきたという。激戦の中、同時に島へ漂流した数人の兵士とともに生き残った明治たちは、のちにその無人島を開拓。「荒樫国」を建国するに至った。


 土に栄養が行き渡るよう耕し、木やフルーツの苗をたくさん植え、酪農に力を入れた。その結果、当時は不毛の地だった島が、100年以上かけて今では観光スポットが豊富なセレブ島に成長したというのだから驚きである。

 こうしてその建国者にして、初代荒樫国王に在位した明治の「ひ孫」にあたる人物が、僕と同じ異世界転移でこのアガーレールにきた銀髪赤目の男、羽柴礼治である。


 僕が気がかりなのは、このアガーレール王国がある惑星が同じ異世界転移仲間のキャミ曰く「まるで誰かの脳内で作られた世界」と言っていた件だが、国の特徴からして「まさか」…という嫌な予感である。

 この世界でアガーレールと敵対している近代空中都市、フェブシティ統括の特殊部隊フェデュートの総統・マーモの存在が、どうしても引っかかるのだ。


 黒い外套がいとうと白い仮面を被ったファントムであるやつの本名は、ドラデム・シュラーク。その本名のスペルを並び替えると「Edward Arkus」。エドワードは礼治のミドルネーム。

 そんなバカな… というのが、正直な気持ちであった。そこまで知ったら、きっと皆「主人公の仲間の一人が裏切り者で、そいつの思念体がいる脳内世界に閉じ込められた」と思うかもしれない。


 でも、僕はそうは思いたくなかった。

 理由はこの異世界で暮らす先住のニンゲン、サリイシュが見たという「夢」だ。彼らは自分達の力が覚醒したタイミングで、謎の男女2人の話し声が聞こえる夢を見たという。

 かなり断片的だけど、確か「皆を異世界に飛ばそう」とか「ファーストを眠りにつかせよう」とか、あとは「ウソがバレたら皆が死ぬから」とか、そんな内容らしい。


 僕の解釈に誤りがなければ、その男女2人がいう「異世界」とはここアガーレール、「ファースト」とは僕のことだ。

 その男女2人が誰なのか、実際に声を聞かないと分からないけど… 僕は、その2人が「仲間を裏切るような危険な男」の創造した世界に、わざわざ皆を送り込むような非情な真似はしない人達だと信じたいのである。



 今、王宮のバルコニーでは女王アゲハが、広場に集まった日除け用の葉っぱの傘を持ったドワーフやハーフリングたち先住民達の前で、きたる戦争に向けた口上を述べていた。

 口上の内容は少し難しくて、ここで文に書き起こすのは敢えて割愛するけど…


 アゲハの両脇には護衛としてマニーと、なぜか先住民達から「母神様」と称えられているヒナの2人が立ち、アゲハの口上を静かに聞き入れている。

 広場は先住民のほかに、コロニーからオークやエルフが数人、そして同じく異世界から転移してきた仲間も数人いた。僕もその見物人のうちの一人だ。



 「何をボーッとしているんだ? セリナ」


 突然、横からマイキに声をかけられた。

 クリスタルから解放した仲間の一人で、いまではアガーレールの国家警察を務めている獣人さん。普段は王都からコロニー前までを巡回しているのだが、今日は違う所へいっていたらしい。失礼ながら、少し新鮮な草花の香りが漂ってきた。


 「壇上にいるアゲハの口上を聞いているうちに、今日までの旅の事を思い出していてね。ところで、もしかしてどこか遠出へ?」

 「北の森だ。サンドラから頼まれて、フラワーアレンジメントの手伝いをしていた」

 「フラワーアレンジメント?」

 「サンドラによる、せめてものとむらいの儀だ。あとで暇な時に聖女の泉へ行ってみるといい」


 そういって、マイキは広場を去っていった。

 サンドラとは彼女の姉で、同じくクリスタルに封印されていた仲間の一人。話の内容からして、僕達がここへ来る前にあったという「襲撃」の死者に向けた追悼だろう。でもそれならサリイシュの自宅近くにある、あのボスコ―花畑内に建てられた慰霊碑とはまた別なのか? と思ったが、それについては実際に聖女の泉へ寄ってみるまで保留にしとくか。


 そうだ。やるべき順番はどれが最善なのか分からないけど、まずは僕が一番気になっている例の「夢」の件を探るため、サリイシュに会って話を聞いてみるか。

 もしかしたら今回の戦争における勝算だけでなく、自分達の元きた世界を見つけ出すための、重要なヒントが隠されているかもしれない。「ファースト」として、少しでも自分ができる事をしたいと思うんだ。

 多分その為に僕は上界で3年もの間、長い眠りにつかされたから。


 「えーまだそんな事いってんのソコ? もうここまで敵のヤバい所たくさん暴露されてんだからさ。いい加減アガーレールと仲直りすりゃいいのに、酋長しゅうちょう意地張りすぎじゃね?」

 「若葉…!」


 なんて、広場を出る前には同じ仲間のヘルと若葉が、口上を聞きにきたオーク族のコロニー住民ミハイルと会話をしていた。ヘルが頭を下げた。


 「すまない、ミハイルさん」

 「いや、いいんだ。若葉お嬢ちゃんのいう通り、今日までの出来事を告げても酋長は首を横に振るばかりで、聞く耳をもたない。きっと、それだけの信念をお持ちの方なのだろう。

 だが俺もこのまま、コロニーとアガーレールが不仲のままでいるわけにはいかないと危惧している。まもなく戦争がはじまるんだ。もう少し、説得に粘ってみるとするよ」

「恩に着る」

「もしダメそうなら、催眠代わりになりそうなポーション作っとくから依頼よろしく~」


 若葉がそうおちゃらけた事をいうと、ヘルは更に落胆した。フェアじゃないけど、流石に状況が状況だから怒る気も失せたのだろう。ミハイルは僅かに苦笑いを浮かべていた。

 という会話を耳にしつつ、僕はサリイシュの家へ向かった。




 僕達がやるべき最終目標は、クリスタルに封印された仲間達を、全員解放すること。


 自分と同じ魔法や特殊能力をもった仲間。全30人のうち、クリスタルに封印されていないアゲハとマニーを含めてこれまで発見・解放されてきたのは25人。

 僕が上界のひまわり組や礼治に託され、この異世界へ転移したばかりの最初はあんなに少なかったけど、今やこれだけ多くの仲間達と出会えるようになった。本当に賑やかになった。

 陽に当たれないドワーフ族が大多数を占めるこの国で、そこをうまくリカバリーできる仲間が増えてきたお陰で、ここまでライフラインが充実してきたといっても過言ではない。



 まだ発見されていない仲間は残すところ、あと5人だ。


 クリス、ジュリア、ディーン、バニラ、そして宗。

 あともう少しの辛抱だからな!


(つづく)

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