第10話 沙矢と陰キャ少女
私が倒れて保健室で一日を過ごした数日後の週末。
私は
私の今日の服装は、白の長袖ワイシャツに淡いグレーのボレロ、山吹色のロングスカートという、色合いとしてはJKらしからないけど、地味な私としてはこれで充分よ。
それにしても智景ったら遅いわね。スマホでいつ来るのってメッセージ送っても、返信どころか既読すらつかない。
ま、智景の性格といったら、明朗快活でマイペースなところよ。どうせ忘れて布団でおねんねしていることでしょう。
そう思った私は、そのまま家路につこうとした、その時――
「さやッチー!おっ待たー!」
「いだい。いだいがらぁ……」
聞き慣れたあだ名で私を呼ぶ声。女の子が「おっ待たー!」って、変な方向へと想像しちゃうからちゃんと「せ」をつけなさい!はしたない……。
それよりも気になるのは、私の両目を力ずくで潰そうとしていることよ。そんなに力強く
「いいがらぞの
いつまで経っても離さない智景の手を力ずくで無理やり引き離す。そっちが力ずくなら、こっちも力ずくで反撃よ!
「智景!アンタ一体何をするのよ⁉背中タックルがダメなら目玉潰し攻撃で挨拶する気なの⁉これから!」
「だ、だって、私はこの前のさやッチを見て反省したの……」
「反省?」
聞いても無駄だと思うけど、とりあえず智景の言葉をオウム返しして事情を聞く。
「私のタックルのせいで、さやッチが倒れちゃったのを見て私ショックだったの。もしかしたら死んじゃったんじゃないかって。あれ以来、私はいけないことをしちゃったと思って、もっとさやッチがいい反応を示す方法ないかなぁと思って、ありとあらゆる漫画を読んだら、恋愛漫画で相手の目を隠してサプライズする方法を見つけて――」
「う、うん、そうか。出来れば今度から普通に挨拶してね?私の視覚がえらい目になりかねないから……」
やはり漫画から得た知識だと納得をしてから、二度とそんな挨拶をしないでくれと釘を刺す。
「ところで智景。確かもう一人と一緒に来るとか言ってたのにアンタしか来てないじゃないの」
「えっ?来てるよ?」
「んっ?」
私の質問に対して不思議そうに返答する智景。周囲を見回してもどこにいるのか分からない。
いくらマブだからって、またそうやって私をからかうつもりなのかと苛立ちを覚え始めると、智景の背後が次第におぞましいオーラを放っていることに気づく。
「ち、智景!う、後ろ!」
「も〜う。アンちゃんったら。後ろに隠れていないで顔を出しなよ」
「アンちゃん?」
私が負の感情むき出しのオーラに
「ゔぅ゙〜……。外とか出る気ないのにぃ〜……」
背後霊が実体となって現れたのかと勘違いした私は、思わず片足一歩後ろに下がった。
「だ、誰なのよ智景!後ろで
智景の背後に顔を出す女子の存在から一気に血の
黒髪の三つ編みで表情も死相を浮かべて目の下にクマができるほど覇気がない。それにもかかわらず、ローズピンクのラウンドネックニットにベージュのロングスカートという可愛さ溢れる服装が何とも衝撃的な。
こんなギャップという言葉が似合う女子は一体何者?
「この子は
「ゔぅ゙〜……。チカちゃ〜ん……。初対面の人に対してそんな個人情報を漏らすのは恥ずかしいよぉ〜……」
「あぁごめんごめん!体育の授業の着替えのとき驚いちゃったものだからつい――」
かなりオドオドしている暗藤さんの代わりに、智景が紹介している。色々と彼女のことは理解したけど胸のサイズに関しては――以下略。
しかもそれだけ個人情報を明け透けに喋っちゃ、暗藤さんも顔を真っ赤に染めるに決まっているわ。私がもし暗藤さんの立場だったら智景の頬を引っ張っていたわよ。
「あ、暗藤さん。私は――」
私が自己紹介しようとしたら、暗藤さんは再び智景の後ろに隠れてしまう。えっ?一体どうしたっていうの?私、彼女に何か嫌われるようなことした?
暗藤さんに怖がられていることに、私はどう接していけばいいのか困惑する。
「あぁ。ごめんねさやッチ。アンちゃんはドがつくほどの陰キャで、コミュニケーションもまともに取れない人見知りな性格なんだ」
智景の説明の通り、暗藤さんは私をまじまじと見ては視線を逸らしている。まともに会話をするのは、懐かしき知恵の輪以上の難しさのあるレベルかもしれない。
「ほらアンちゃん!目の前にいるのは私の友達だよ!ツッコミは凶暴だけど、根は優しい人だから!」
……何だか余計な一言が聞こえ、私はリアルに凶暴になりそうだけど、ここは聞こえないふりをして暗藤さんと会話しよう。
「は、初めまして暗藤さーん!私は
「私のことはこれからアンちゃんって呼んでも構わないわ!よろしく!」
「よ、よろしくね。私のこともさやッチって呼んでもいいから、よろし――」
「感じることできないわ!!」
「うわっ!」
お互い友達として仲良くしていこうと誓って握手を求めようとしたら、唐突に大声を出すものだから思わずよろめいてしまった。な、何なのこの人。いきなり大声を出すから絡みづらさが一層増大するわ。
「あなた……さ、さやッチ。あなた、恋愛要素が全く感じられないわぁ〜!?」
「はぁ?」
唐突に訳の分からないことを口にするアンちゃんに、私は首をかしげる。
「ま、まずはファッション!な、何なのその地味めな感じの服装はっ!?これじゃ相手にモテられるどころか、一瞬にして近寄りがたくなるわ」
まさかファッションから喝を入れられるとは思わなくて、私は何も言い返すことができない。そりゃそうよ。オシャレに無頓着な私に対して、アンちゃんはザ・ガーリーって表現しているもの……。
「その地味目な感じから、恋も愛も足りない!ここまで愛情の浅い服装を着た女の子を見たのは……見たのは!」
えっ!?そこまで酷評する服装なの!?しかも服装だけで恋愛を品定めするなんて――
その時、私はハッ!と数日前の智景と保健室で交わした会話を思い出す。
〜〜〜
「――漫画同好部に所属する別のクラスの子が恋愛マスターなる称号を持っているから、その子に色々とアドバイスしてもらうといいよ!」
〜〜〜
私は智景に向けて、怯え慄くアンちゃんを指さしながら、「この人がアンタ
マ、マジっ!?こんな陰キャコミュ障で死相を浮かべている同級生が、智景の言う恋愛マスター!?
「あとそのメイク!普通にファンデ塗っただけで終わりなのぉ〜?」
「え、えぇ……」
嘆きながら質問をぶつけるアンちゃんに、私は唸るように返答する。
「ダーメーだーよぉー!そんな地味なメイクじゃ!絶対に相手を振り向くような感じがしないわよ!」
くぅ……。服装だけでなく、遂にメイクまでダメ出しされるなんて……。自分の口で言うのもなんだけど、顔立ちはメイクなしでも整っているからファンデだけでもイケるけどなぁ……。
「さやッチ!ちょっと来て!」
「ちょ、ちょっと!一体どこに行くってのよ!?」
唐突に私の腕を引きながら向かった先は、眼前のショッピングモールだった。
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