第7話 女神さまと想像

 部活巡りを終えた私は、そのまま家に帰ろうかと思ったのが、いつの間にかショッピングモールに足を運んでいた。


 このショッピングモールは、百合ヶ崎ゆりがさき高の最寄り駅から電車で一本およそ十五分、五つ先の駅の近くにある。その最寄り駅の前にもショッピングモールはあるけれど、今いる方がお店が私好みで大好きよ。


 それも影響してなのか、他校からの生徒が多く来ている。


 ま、それはそうだよね。今は放課後。友達とやら男女二人組とやらでごった返している。ぼっち気質な私にとって、こんな空間はとてもツラい。同じ空気を吸っているだけで寒けがする。


 私は、そんな陽キャキラキラゾーンから脱出するように別のエリアへ逃走する。


 私はとにかく自由気ままに歩くことにする。一人での散策は行き当たりばったりが付き物だから。


 それと、このショッピングモールに百合ヶ崎高生がいないことを切に願う。


「へぇ〜。ここがフードコートか……」


 まだ空腹でもないのに、足が自然とフードコートに向かっていた。


 ファストフードに牛丼チェーン店、ドーナツ屋やらアイスクリーム屋と、ジャンルは多種多様といったところね。まだピークの時間じゃないからか、所々に空席が目立っている。


 こういうフードコートって、基本的ファミリー層を意識した造りだから、いわゆるぼっち席ってなかなか見当たらないのよね〜。


 これだけぼっちが社会的に広まって、最近はファミレスにも一人席が作られたり、カラオケボックスだって一人カラオケ専門店ってのがあるのに……。ま、いずれにせよ私は足を運ばないタイプだからいいけどね。


「あっ!」


 心の中で、ぼっちに対する社会の生きづらさを嘆いていると、太い柱を取り囲むように一人席が円形に並んでいるのを発見する。幸い全ての席が空いている。


 安心感を覚えたことに加え、これだけ多種多様なお店が並び、そのお店の混合した香りが鼻腔に伝わると、小腹が空いてしまった。


 ちょうど甘い物が食べたくなった私は、近くのドーナツ屋に寄り、ドーナツを三個購入する。


「いただきます……」


 私は小声で食事開始の挨拶をし、一番左側のストロベリーチョコを手に取り、口の中へ運ぶ。


 声には出さないけど、とても美味しい。イチゴの酸っぱさとチョコの甘さがふわふわ生地のドーナツもマッチし、心とお腹を満たしてくれる。


 こうやって一人でフードコートで食事するのも悪くはないわね!リアル孤独のグルメも悪くはないわね!


「ねぇ。次はどこへ行く?」

「そうだねぇ……」


 私がドーナツの甘味を堪能していると、後ろから他校のJKグループ四人組が談笑をしているを発見する。


「そういえば上の階に新しいコスメショップがオープンしたみたいだよ!」

「あ!知ってる知ってる!SNSのタイムラインTLで流れていたから1度は行ってみたかったんだ!」

「あ、じゃこれからそこへ行く?」

「行こ行こーっ!」


 談笑しながらJKグループは、目的地へ向かって行く。


 ……何故だろう。あのグループを見ていたら、寂しい気持ちが強くなってくる。今まではそうでもなかったのに。


 先刻までJKグループのいた席を見つめながら、ふとこんなことを想像しちゃう。


 私とひじり先輩が対面して、お互い笑顔をこぼし合っている。


「へぇ!ここが飯原いはらさんがオススメしているスイーツ店ね!」

「そ、そうなんですよ。ここのいちごパフェはそのお店の一番人気でして、是非とも聖先輩にも食べさせたいなと思いまして」


 向かいで聖先輩に、リアルに足を運んだことのないフードコートのスイーツ店のパフェを勧めている私がいる。


「そう?ありがとう。それでは、お言葉に甘えて」


 そう言いながら聖先輩は、パフェのいちごクリームの部分をスプーンですくい、ゆっくりと口に運ぶ。


「ど、どうですか?お味は?」

「うん!とっても美味おいしいわ!こんな素敵なパフェをオススメしてくれてありがとう!」

「い、いえ!喜んでくれたので良かったです!」


 わたしの素朴で気がかりな問いに、聖先輩は喜んでくれた。それに対し、私は何故か頬を赤く染めながら言葉を返す。


「せっかくだから、飯原さんも一口どう?」


 私は聖先輩の問いがどういう意図を汲んでいたのか分からず、ただ目を丸くするだけだった。


 そんな私を差し置いて、聖先輩はクリームの上にいちごを乗っけて私に食べさせようとする。


 えっ?こ、これってアレじゃない?俗に言う……か、かんせ――


「ほら。いちご付きよ」

「ちょ、ちょっと待ってください!わ、私はここのお店のスイーツはよく食べていますので――」


 私が拒否をしても、聖先輩はスプーンを私の口に突っ込もうとしている。


 えっ⁉聖先輩、そんな大胆な行動をするお方でしたっけ?わ、私、まだ心の準備が――


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ‼」


 聖先輩にしてはかなり過激な行動だったから、私は思わず大絶叫した。


「……あっ」


 現実に戻った私は、周囲の視線がこちらに当てているのに気付き、恥ずかしさのあまり一気に身体からだが熱くなってきた。


「ご、ごめんなさい!」


 既に完食した私は、トレーをゴミ箱の上に置いて、一目散に別のお店に逃走した。


 まさか、このショッピングモールで妄想劇場を披露したせいでとんだ大恥をかいちゃったわ。


 火照った頬を両手で冷やしながら、ショッピングモールを歩き回る。


 でも先刻のフードコート以来、私はお店や通路を見ると、ついの私と聖先輩の二人きりで買い物を楽しんでいる姿を想像しちゃう。


 洋服を見てサイズ合わせをしている姿、ソフトクリームを食べながら歩いている姿、コスメショップに行ってお気に入りのコスメを楽しむ姿エトセトラ。


 な、何で⁉何気なく歩いているだけなのに、どうして聖先輩と一緒にショッピングしている姿を想像しちゃってるのよ⁉


 一旦頭を冷やすため、私は一旦トイレに避難する。


「はぁ~……」


 私は私を嘆くあまり、大きくため息をつく。


 どうしてなのか私にも分からない。今までこんな感情なんてしたことなかったのに……。


 そ、そうよ!聖先輩が女神さまと称しているからインパクトが強過ぎただけなのよ!これは私以外にも現れる症状みたいなものよ。


 そうと決まれば気が楽よ!というか、そもそもショッピングモールに足を運ぶこと事態間違っていたのよ!そもそも百合ヶ崎高を出てから真っ直ぐ家路につくべきだったのよ!

 

 私の行動を自戒してからトイレを出て、私はそのまま帰ることにする。


「はぁ〜……。今日の放課後は本当に散々だったなぁ……」


 大きなため息をつきながら、私は近所の狭い道を疲弊しながら歩く。


 今の時刻は夜の七時。辺りはすっかり暗くなり、あかりは街路灯か住宅の窓から照らす電気くらいだろう。


 それにしても、一体今日はどうしちゃったんだろう?何であんなにも聖先輩のことばかり考えちゃって――


「飯原さん」

「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ‼」


 背後からわたしの苗字で声をかけてきたから、私は勢いで身体ごと顧みる。


 一体誰だというのよ!?それにどうして私の苗字を知っているというのよ!?


 ストーカー?それとも連れ去り?いくらなんでも、こんな平々凡々な私を追ってくるなんて、なんて野蛮な輩よ!?


 ひょっとして私、バイトで何かやらかした?制服となっているエプロンには苗字が書かれた名札がついているから、それで判別して――?でも、色々と記憶を辿ってはみたけれど、ポカしたことなんてないしなぁ……。


 ここはとりあえずスマホを取り出して警察に電話した方が――


「い、飯原さん。私よ!聖よ!」

「えっ?聖……先輩?」


 私に近づく怪しい人影の正体は、まさかの聖先輩だった。


 確かに街灯に照らされる金髪の髪の美しい。


 でも、これも想像上たったら――


「キャッ!何するのよ!くすぐったいじゃないの〜!」


 私が聖先輩の身体の至るところを撫でるように触って、リアルか否かを確かめる。この反応からしてご本人なのは確定した。


 ……けど、私は一体何をして――


「ごごごごめんなさい!本当に聖先輩かどうか確認したくて――」


 私の言い訳に、聖先輩は首をかしげている。そりゃあ放課後ショッピングモールで聖先輩と一緒に買い物をしているとホントのこと言えるわけないじゃない……。


「飯原さんもこれからお帰り?」

「えっ?……あ、はい。気になったお店があったので、つい夢中になったらこの時間まで入り浸っていました……」

「……そう。それでこの時間まで外にいたってわけね」


 聖先輩はどうやら私の行動に気にも留めず、。私のセクハラ的行為に対して一ミリも怒らないからこそ、女神さまと呼称される所以ゆえんだと改めて感じた。


「そうだ飯原さん。良かったら自宅まで?」

「ほへっ!?」


 唐突な聖先輩の提案に、私は幼稚園児のような変ちくりんな返事を出してしまう。


「で、でも、私と先輩が一緒に家に帰ったら怪しまれるんじゃないですか!?きっとどこかで私たちを見ているかもしれませんよ?」


 私は辺りをキョロキョロ見回しながら先輩に提案のリスクを話す。


 だって、私との同居は秘密だって聖先輩が言ってたじゃない……。


「大丈夫よ。ここまで百合ヶ崎生が住んでいるわけじゃないし、それに――」


 えっ!?何!?話の途中で聖先輩が私の耳許みみもとまで近づけてきたんだけど……?


「こんなおっかない夜道に女の子一人歩かせるなんて、女神失格よ」


 う〜〜〜〜っ!?熱い吐息とささやき声が何とクセになることかぁ!


 私はそんな興奮を鎮めるように起伏の少し乏しい胸を押さえながら聖先輩の横を歩く。


 初めての二人きりでの帰宅。自宅まで歩くのにこんなにも緊張するものかと私の心臓の鼓動に訴えかけたくなった。


「ねぇ、本当に買い物して遅くなったの?」

「ほへっ!?」

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