第8話 行動 ― 準主人公編(中編)
再びの試練
井上胡桃は部屋で身を乗り出すように言った。「ね、一花。心配することはなかったでしょ。前にあんたたちがいた世界と同じだったじゃない」
園田一花は苦笑いを浮かべた。「まあ、結果オーライだったけど、これからは無茶をしちゃダメだよ、胡桃。私たちは、この世界にいる限り軍人として生きていくんだから」
胡桃は手をひらひらと振って応じた。「わかったわかった。こんなむちゃは、今回だけにしておくよ。それにしてもさ、大体の事情は伊藤次長との話で分かったけど、私たちや岡本さんの素性や事情を知ってる人って、誰なの?」
秘密を共有する者たち
一花は少し考え、指を折りながら答えた。「軍令部では永野総長だけよ。そのうち伊藤次長にも話さなきゃいけないけどね。連合艦隊では、山本五十六司令長官、宇垣参謀長、黒島首席参謀が知ってる。その三人とは私もお会いしたことがあるよ」
胡桃は目を丸くする。「すごいじゃない! 永野修身総長に山本五十六司令長官って。そんな大物たちと会うだけでも緊張するのに、あんたたちその直属で働いて、しかも功績まで立てたんでしょ?」
一花は肩をすくめた。「それもこれも、晃司さんの手腕がすごかったからなのよ」
胡桃はからかうように笑った。「はいはい、のろけ話はもう何度も聞いたよ。こっちの世界に来てからね」
「本当のことだけど、まあそうなっちゃうかあ…」一花は少し照れたように言った後、真剣な表情になる。「でも胡桃、女性下士官や女性将校の育成、そして養成学校の設立なんて、私には思いつかなかった。軍人としての女性の可能性を本気で広げたいなんて、すごいよ」
新たな構想
「何言ってるの?」と胡桃が呆れたように言う。「私たち元々自衛官の幹部候補生よ。昔の軍隊で言う将校になる予定だったんだから、そのくらい考えなきゃ」
「そうだったね。でも、その提案をいきなり伊藤次長に持ちかけるなんて、私は聞いていてひやひやしたよ。次長が寛大な人でよかった」
胡桃は小さく笑い、「一花が女性でありながら中尉って立場を利用させてもらったわけだけどね」と付け加えた。
一花はため息をつきながらも笑った。「要するに、私はだしにされたってことだよね…本当もう胡桃ったら」
「だしって言わないでよ!」と胡桃は笑い飛ばす。「あんたが考えつかないことを、私が提案しただけ。ほら、これで特許申請みたいなもんでしょ?」
大きな賭け
一花は首を振りながら言った。「本当、胡桃は如才(じょさい)ないよね。後押しするって約束したんだから、貸し借り無しね。でも、進言して私を少尉待遇で扱ってって、そんなの簡単にできると思う?」
「できるわよ」と胡桃は自信たっぷりに言う。「永野総長がどんな人か、文献で知ってるもん。あの人ならきっと何とかしてくれるわ」
「確かに永野総長なら、そういう奇抜な発想を受け入れてくれるかもね。でも、女性下士官や女性将校の養成学校がどこまで受け入れられるか…それに総長は実質、軍令部の仕事を伊藤次長に任せっきりだし」
胡桃は軽く頷いた。「やっぱりそこも史実通りなんだね」
「そうなの。山本長官も独自の行動をとるけど、晃司さんと私がなんとか最小限に抑えたんだよ」
「そりゃすごいね」と胡桃は感心しながら言った。「あんたたち、大変なことをしてきたんだね」
永野総長の帰還
その時、部屋の扉がノックされ、下士官が顔を出した。「失礼します。園田中尉、伊藤次長からの連絡です。永野総長が帰国され、こちらへお越しになられたとのことです。永野総長が園田中尉にお会いしたいと仰せですので、伝言をお預かりしました」
「永野総長が? こんなにいいタイミングで?」と一花は驚きつつもすぐに立ち上がる。
下士官が続けた。「ただ今、総長はご自分の執務室にいらっしゃいます。お訪ねいただければとのことです」
「ありがとう。執務室は分かるので私たちだけで向かいます」と一花は丁寧に答えた。
胡桃がにっこりと笑う。「これ以上ないくらいグッドタイミングね。一花、案内してよ」
永野総長との再会
二人は永野修身総長の執務室を訪ねた。扉を軽く叩き、一花が声をかける。「園田一花中尉、入ります」
扉を開けると、そこには威厳と包容力を併せ持つ永野修身が立っていた。
「おお、園田君!」と永野が笑顔で迎え入れる。「半年ぶりか、いや、君からしたら短い時間だったのかな?」
「ええ」と一花は応じる。「元の世界では1か月も経っていません。でもまた転移してこちらに戻ってきました」
一花は横に立つ胡桃を紹介する。「こちらは、私の防衛大学での同期生、井上胡桃です」
胡桃は一歩前に出て深々と礼をする。「初めまして、永野総長閣下。園田一花の同期生の井上胡桃です。お目にかかれて光栄です」
永野は感慨深げに頷いた。「井上君か。君の提案も聞いているよ。女性下士官や将校の養成学校の設立とは、大胆な発想だな」
未来への提案
胡桃はその言葉を受け、力強く語った。「総長、私たちの世界の日本では、女性も社会的地位を得ています。自衛隊には女性幹部が多く存在し、様々な分野で女性が活躍しています。この世界でも、女性が軍属として貢献できる場を作るべきだと思います」
永野は深く考え込んだ後、頷いた。「未来の日本や世界の在り方を思えば、君の提案も時代の変革になるかもしれん。だが、この国でそれを進めるのは容易ではない」
胡桃は真摯に答えた。「分かっています。それでも挑戦する価値があると信じています」
一花が付け加えた。「総長、この件を進めるためには、伊藤次長に私たちの素性を明かす必要があります。岡本少佐の素性も含め、正直に話すべき時だと思います」
「分かった」と永野は頷いた。「君たちの話を伊藤次長に取り次ぎ、政府とも調整してみよう」
次なる展開へ
こうして一花と胡桃は永野総長の指示を受け、未来への第一歩を踏み出した。彼女たちの提案がこの時代にどのような波紋を広げるのか、そして次なる試練が何をもたらすのか。物語は新たな局面を迎える。
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