第7話 獣の力

(レオ視点)


村の裏道を駆け抜ける。


道場の中では、村長が戦っているはずだ。だが、今のレオには振り返る余裕はない。


「くそっ……俺はまだ、あの影のやつらと戦える力がない……!」


歯を食いしばり、森へと続く小道へと飛び込む。木々の間を縫うように走り続け、ようやく村の外れへとたどり着いた。


──その瞬間。


「ギャオォォ!!」


低く唸るような叫び声が、背後から響いた。


「な……!?」


振り向いた先、森の奥から飛び出してきたのは、巨大な魔獣だった。


黒い体毛に覆われた狼のような体躯、鋭い爪が夜の闇を切り裂く。


レオは息をのんだ。


「こんな時に……っ!」


村からの逃亡で体力を消耗している。しかし、逃げられる距離ではない。


「やるしかない……!」


レオは本を開き、登録済みの魔法を探す。


「火炎の槍!!」


燃え盛る炎の槍が、一直線に魔獣へと向かう。


──が。


「ギャウッ!」


魔獣は俊敏に身をひねり、槍を回避。さらに鋭い爪を振りかざし、レオの腹を狙う。


「チッ……!」


レオはギリギリで飛び退くが、爪がかすめ、服が裂ける。


「速い……!」


だが、焦っている暇はない。


本を握りしめ、次の魔法を唱えようとした、その時──


魔獣が地を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。


「っ……!!」


避けきれない──


咄嗟にレオは地面に転がり込み、魔獣の攻撃を回避。


そのまま地を蹴り、再び距離を取る。


「こいつ……強すぎる!」


一撃の威力が違う。今までの魔法では、まともにダメージを与えられそうにない。


なら──


「近距離で仕留めるしかねぇ!」


レオは思い切って前に出た。魔獣が再び襲いかかる。


その瞬間、レオは手のひらに炎を灯す。


「バーン・ナックル!!」


火炎を纏った拳が、魔獣の顎を打ち抜いた。


ゴッ!!


魔獣が苦痛の叫びを上げながらよろめく。


今だ!


レオはすかさず次の攻撃を叩き込んだ。


「フレイム・ラッシュ!!」


炎の拳が連続で魔獣の体を撃つ。


最後に渾身の一撃を込め、全力で拳を振るった。


「燃え尽きろッ!!!」


火炎が爆ぜ、魔獣は地面に叩きつけられた。


──しばらくの静寂。


レオは荒い息をつきながら、魔獣の動きを見守った。


完全に沈黙した。


「はぁ……はぁ……倒した……」


その時。


──ぽたっ。


魔獣の傷口から流れた血が、レオの持つ白紙の本に落ちた。


「……?」


すると、次の瞬間。


本のページに、黒い文字が浮かび上がる。


『獣化の魔法──《ワイルドハウル》、登録完了。』


「っ!? なんだ……これ……?」


レオは驚き、本を見つめた。


──魔法の登録。


今までは「呪文を唱えた」時に登録されていた。


だが、今回は──


魔物の血で、新たな魔法が登録された。


「これは……?」


レオの胸が高鳴る。


今までは気づかなかった本の「新たな力」。


魔法を見つけ、唱えるだけが登録方法ではない。


戦いの中で、新しい魔法が生まれることもある。


「……面白くなってきたじゃねぇか。」


レオは新たな力を手にし、改めて夜の森を見つめた。


彼の旅は、まだ始まったばかりだった。

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