3

「上手く逃げたね」

「……な、なんのことですか?」


 無視をしたかった。けれど、久しぶりの優しい匂いに包まれてどこか安心した気持ちがあったのも本当だ。

 優しいバラの香りにふんわりと包まれて心地いい気持ちになった。その香りに頭を擦り寄せたのだ。そして、その動作をしたことに対して我に返ってすぐに離れようとした。その時、もう1人とぶつかった。そこから、レモンの優しい香りがした。薔薇と檸檬の香りに包まれて少しボーっとしてしまう。


「ユウ帰っておいで。結構、外にいたでしょう?」

「俺たちの香りで蕩けた顔しているんだから、中の方が安全だし楽しかっただろう?」

「……」


 頷きそうになる。けれど、4人から自立したかったのだ。なにも出来ないままでいるのが嫌で、外に出たのだ。そしたら、何も出来ないことに打ちひしがれた。帰りたいとも思ったけれど、そしたら何も出来ないままだと思ったから頑張って居たのだ。


「で、でも、」

「イヤなの?」

「うん」

「ふーん、そっかあ」


 後ろから香っていたレモンの香りがこくなる。怒っている感じもして、少し強く感じるのだ。Glareグレアだろう。なんで、と思う。けれども、怒るようなことをしている自覚もある。今まで、ずっと一緒にいたのに何も言わずに外に出たのだ。こんなに大変な場所なんて知らなかった。安全で、何も知らないあの頃のように純粋無垢な瞳で彼らを見ることは難しくなったのだ。


「ハッ、ハッ」

「そこらへんにしとけ、燈雅とうが

「なんで、黎央れお!ユウが反抗てきなんだ。お仕置きをしようって話だったよな?」

「まだ、しないよ。ユウが好奇心旺盛なのは今に決まったことじゃないだろう?それに、自分から帰ってこないとまた同じことするだろう?そんなのは、いいことじゃない」

「ああ、確かにね」

「おや?話し合いは終わりましたか?私たちを蚊帳の外にするのは相変わらずですね」

「ほんとに」


 2人の会話の目処がたったのに気がついて、眺めているだけだった2人が口を開く。

 1人は、少し癖のある髪にたれ目な瞳。その瞳がどこか愉快そうに弧を描いている。俺にも優しいけれど、最愛の番の方を優先するからなにか俺が困っていても番が手助けを望まない限り口出しも手出しもしない。薄情のように感じるけれど、それが最適解である行動をとる男だ。


 もう一人は、緩い雰囲気だけれどもこちらに興味がない感じがあるのだ。こいつは、一番やばい人でもあるからこっちに来ないだけでもいいなと思ったのだ。

 ゆっくりと距離をとりながらドアに近づく。ふと、あの子の姿がないことに気が付いてつい口にだしてしまったのだ。


「あのさ、もう1人って叶汰?」


 無意識だった。それでも、出た言葉を聞いてみんなが喜んだ顔を見せる。ああ、失敗した。そう思ってももう遅い。


「なに?そんなにあと1人が気になるの?うんうん、そうだよね」

「やっぱり早めに連れてくるべきだったんだよ」

「でも無理させちゃったあとだし~」

「ヒート明けに無理させるのも可哀想でしょう。ああ、そうそう、あなたのヒート周期そろそろですよね?」

「……ッ、こ、来ないから、平気」

「なんで来ないのかな?」


 今まで、穏やかな雰囲気だった黎央が冷たい雰囲気をまといながらこちらを見てくる。言いたいことがあるけれども、何も言えずに口をパクパクするだけになった。


「もしかして、俺たちが使うなって言っていたのを使っているの?」

「……」

「ねえ、質問しているよね。答えられないの?」

「……ち、ちがうやつ」

「ふーん、俺たちが知らないやつがあるんだ。誰からもらったの?ここの人間?」

「ち、ちがう」

「はは、もしかして、お前を捨てたやつらに手を借りたの?あんなに傷ついて悲しんでいたのに」

「おい、それは本当かよ」


 今まで黙っていた燈雅も口をはさむ。実際に、僕が嫌っているのも傷ついたのも知っているしそこから立ち直るために二人には迷惑をたくさんかけたからこんなことを言われるのも仕方ないかもしれない。


「黎央、燈雅、少しだけだから、許して?」

「ッ、その顔!その顔したら俺が許すの知っていてやっているだろ」

「は~、怪我とかそれ以外の問題が起きたらすぐに手を出すからな」

「うん、ありがとう」


 2人が諦めたように許可を下したのを見て後ろの2人は何とも言えないような感じで僕のことを見送ったのだ。


 怪我とかのことがバレなければ問題ないと軽い気持ちで思っていたのだ。

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