ドリームシマー

夢見夢

1

 箱庭。これは、僕がいた場所の通称だ。別に誰かがこう呼んでいるとかでは無いけれど、たぶんそういうのが適切な場所だと思った。


 この世界には、男女の性別以外にバース性がある。優秀で世の中を牽引していくαアルファ。1番人口が多いβベータ。そして、発情をして繁殖能力が強いΩオメガ。この3種類の性別が存在している。

 オメガは、男だろうと妊娠して子供を産める。発情期があるから社会的地位も低いのだ。


「愛斗は可愛いですね。それに比べて、このオメガは……」


 嘲笑されるのは、ここに来てから慣れた出来事の1つ。小さい頃から、5人に守られていたのだと思い知らされる。箱庭では、オメガの僕ともう1人はお姫様のようだった。

 過去形なのは、僕が箱庭から出ていったから。


「そんなこと言うなよ。悠馬ゆうまも友達だろ」


 僕のことを友達だと言い切るわりに、僕が怪我をしているのに気が付かない。気が付かないんじゃなくて、気が付いてないふりをしている。一回、殴られているところを目撃しているはずなのに無視をしたのだ。それで、わかったんだ。愛斗は、僕のことを友達だとなんて思っていないということを。


 あれから、僕は一人でいじめを耐えていた。理不尽な暴力や愛斗に連れまわされて親衛隊持ちたちの中に連れていかれるのも全部、全部、耐えていたのだ。


 僕の通っている学園は、前僕が通っていた場所の兄弟校でお金持ちが多い。僕の家がお金持ちというわけではないけれど、お世話になっている家の人の友人たちがここに通いなと言ってくれたのだ。箱庭から逃げるために、一番お願いしたくないけれどお願いするしかない人たちにお願いをしたのだ。そして、紹介されたのがこの学園だった。初めは、いいところだと思えたのに今では最悪の場所になり果てた。


 それでも、助けを求めることができない。もし、ここで起きていることを知ったら箱庭に連れ戻されることになる。


「悠馬、聞いているのか」

「え、ああ、ごめん。なにかな」


 考え事をしていて、なにも聞いていなかった。それに、目ざとく気が付いた愛斗から話しかけられる。そして、愛斗のことが好きなやつらからにらまれる。いつものお決まりのルーティーンだ。


「今度、兄弟校と交流するんだって。気になるよな、この学園よりも優秀な奴らが多いんだろ?もしかしたら、そこに俺の運命がいるかもだしな」

「愛斗、何を言ってるだ?お前の運命はこの俺だろ」

「違いますよね、愛斗。私ですもんね」

「え~違うよぉ~、俺だよね愛斗」

「ちがう、僕。ね、愛斗」

「みんな、何言っているの~?僕たちだよねー!愛斗!」


 生徒会の役員たちが愛斗に対してご機嫌取りをしている。ご機嫌とりと言うよりも、ほかのメンバーを牽制し合っているというのが正しいのかもしれない。それをまんざらでもない感じで受けているのが愛斗だ。


「なんで、みんなそんなこと言うんだよ!俺たちはみんな友達だろ?」


 白々しい。けれど、ああいう天真爛漫な感じがいいのかもしれない。僕には、そんなこと出来ないな。何も考えずにそんな発言したらいいのかな。でも、話すことに慣れていなかったから無理だろうな。


「兄弟校の一ツ星学園とアストリア学園との交流になる。星海学園とは何回か交流をしたことがあるが、アストリア学園とは初めてだ。なんなら、あそこが外部と交流するのは例外中の例外と思っていたほうがいいだろうな」

「そうですね。問題を起こしそうな学生には注意をしておかないといけませんね」


 アストリア学園との交流。あそこは、箱庭はどことも交流をしないことで有名じゃないか。アストリア学園は、優秀な人間を集めている。それは、どんな分野でも優秀と判断されたらそこに入ることができる。それは、どんなに幼い人間だろうと結構な年齢の人間だろうと優秀だと判断されたら招待されるのだ。そして、そこに入れば外に出ることは困難になるのだ。


 学園とは名ばかりで、実質1個の小さな国のようなものだ。政治の才能があるものや、アスリート、俳優、女優などの芸能関係の者を除いて入ったら出るのは難しい。そこには、アルファばかりがいると思われがちだが本当は違う。結局優秀なアルファたちは、命令されるのが嫌いだからベータの助手やアシスタントと呼ばれる人を雇っているのだ。

 だから、箱庭には普通の人からの嫉妬なんて知らないのだ。箱庭におけるオメガは、優しくされていたから。


「俺、九桐くどう家の人が気になっているんだ。そこにな!俺の運命がいたんだよ!」


 九桐は、箱庭アストリア学園でトップに君臨している家柄だ。

 そして、僕が逃げることを決心させた人の1人でもある。思い出したくもない。でも、九桐が来ることは無いだろう。あの家は、箱庭から出ることがないことで有名だ。


「九桐が来ることは無いだろう。あそこの奴らはお高くとまっていて、好きではない。まあ、話が着くやつだといいな」

「そうですね。わがままばかりの人ですと困りますしね。傲慢でも嫌ですからね」

「そうそう!かいちょーだけでも大変だもんねー」

「本当にそう!かいちょー以上に傲慢とか人かと疑いたくなっちゃっうね!」


 九桐が来ることはないと思っていたのだ、僕だって。

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