シザーリング

由汰のらん

 


「総長、お疲れ様です。」



赤髪の男が、線の細いウルフカットの男に頭を下げた。細くとも筋肉質な男の腕には、べっとりと血がついている。

 


「で。アイツはどこ?」


「はい、奥の部屋に。」

 

「わかった。アイツと二人きりにして。」


「はい。」



赤髪の男が、総長と呼ばれた男の制服のジャケットを脱がせる。周りには頭を下げる男たち、総勢90名が道を作っていた。



 

―――地元には治安の悪い男子校が存在する。かつあげ、喧嘩賭博など、悪名高き不良チーム、『ハンニバル』が。


 

その『ハンニバル』に対抗するため、正義のために結成されたこのチーム、『GRAPKingグラップキング』だった。




 

『GRAPKing』の頂点に立つ男、ゆうが胸元のネクタイを外し、床に落とすと、奥の部屋に入っていった。



中から鍵をかけたそこは、小さな格子窓が一つある部屋。錆びれた工場内の倉庫だったのか、包材があちこちに飛び散っている。

 



「元気だった? ゐ弦いずる。」


「游……っ」


   

手錠をかけられ、パイプ管にくくりつけられた懐かない獣のような姿。身動きを封じられたゐ弦いずるが、游に向かって鋭い眼光で牙を剥く。



ゐ弦は『ハンニバル』の総長で、游とは因縁の関係。ゐ弦は己の力を過信するあまり、地元では権力を振りかざしていたのだが。正義感のある游に、幾度か打ちのめされていた。



そして今回、チームごと叩きのめされた挙げ句、こうして捕まってしまったのだ。




「ゐ弦さあ。俺に会いたいなら回りくどいやり方すんなよ。」


「はあ?! なにいってんだてめぇ!」  


「わざわざうちの学校の女子捕まえて路地裏連れ込んで? お前、そんなに溜まってた?」


「うるせーよ。あの女、俺に向かってスマホかざしてきたからムカついて連れ込んでやっただけだよ!」 


「女の扱いも知らない餓鬼が。スマホかざされたら指♡くらいしとけっての。」


「俺はお前みたいにサービス精神旺盛じゃないんで? 餓鬼で悪かったな。」


「だよなあ。女どころか、俺の扱いも知らねえもんな?」



游が、左手の中指にしていたリングにキスを落とし、血濡れた指を舐め取っていく。



それを見たゐ弦が不意にうつむき、ベリーショートの髪をガシガシと掻きむしる。

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