第25話 同姓の友達

「『消滅(クリア)』」


 私は魔法陣を展開し、アンデッド系にも効果がある女神系魔法を放ち、大量のアンデッドを一瞬で相殺した。


「あ、ああん、あぁ、あぁぁんあ、あぁあ、も、もぅ、しんじゃぅ~、しぬぅ~」


 部屋の中に入ると、盛大に漏らしまくっているザウエルが瀕死の状態で固まっていた。羽根ペンは今もなお震え続けており、敏感な部分を容赦なく弄っている。


「ザウエルちゃんがアンデッドを呼んだの?」

「し、しるかぁ。か、勝手に寄って来ただけだろぉ。おおぉ~、な、何度死にかけたらぁ、き、気が済むんだぁぁ。あぁぁ、し、死ぬぅぅ……」


 ザウエルはよだれだらだらの状態で気持ちよさそうに悶えていた。


「えっと、ザウエルちゃんのせいで面倒なことになっててさ、倒してもいい?」

「う、うちを倒せるのなら倒してみろ。この拷問に耐えたうちに怖いものなどない!」


 私は右手に魔力を溜め、ぷりぷりのお尻を叩く。生物の体から生み出された音とは思えないほど良い音が鳴った。

 感度が上昇していたザウエルはお尻を叩かれただけで限界を超え、気絶した。

 私は気絶しているザウエルの体を二〇センチメートルほどの羽根ペンに変えた。そのまま外套の内側にしまい、隠す。


「盛大に漏らしてくれちゃって。なんで私が掃除しないといけないんだ」


 私はベッドの汚れを魔法で綺麗にした。その後、何食わぬ顔で一階に戻り、残ったアンデッドたちを生徒会の者達と共に討伐していく。


「ふぅー。何とか片付いたね。これで学園の平和は保たれた皆、お疲れ様」


 パッシュさんの服はなぜか破れ、すべすべの肌が露出した状態になっていた。


「まったく、学園の中でアンデッドを呼ぶなんて、いったいどういう神経を、おろろろろろ……」


 ハンスさんはゲロ袋に胃の内容物を吐き戻していた。どうやら、呪われたらしい。


「もう、ハンス。また呪われちゃったの。仕方ないなぁ~。寮に戻ったらぼくがハンスの呪いを全部吸い出してあげる~。それまで我慢してね」


 パッシュさんはハンスさんに抱き着きながら微笑んでいた。


「思っていた以上に、大変だった……」


 コルトは息を荒げ、床に座り込んでいた。

 私は癒してあげたくなるが、以前の出来事がある手前、話し掛けづらくなっていて最近は顔もまともに見られない。嫌いになったわけではないのに、どうしてだろうか。


 ザウエルが呼び寄せたアンデッドは全て討伐し、Dランククラスの寮に悍ましい声は聞こえなくなった。だが……。


「あ、あぁ~ん、そこそこ~、そこが好きなのぉ~。もっともっとカリカリしてぇ~」

「…………」


 私は生徒会の仕事を終え、部屋に戻ってザウエルの姿を魔法で変えた羽根ペンを使っていた。ペン先が尻尾の先らしく、文字を書かれると大変心地いいようだ。

 黒い翼の羽根ペンで見かけは悪くないが、いかんせん卑猥な喘ぎ声が聞こえてくるので基本使いは出来ない。魔力を流せば元に戻せるので、彼女から話を聞くことにする。


「あ、あのぉ……。あ、あんたの名前は?」


 ザウエルはベッドの上で正座をしながら指先を突き、申し訳程度に訊いてきた。


「キアス・リーブン」

「キアス・リーブン。って、うちの標的の名前じゃん! じゃあ、やっぱりあんたが『黒羽の悪魔』な……んんんんんんんんんんんんんんんんっ!」


 ザウエルは私の姿を見回しながら大声を出そうとした。口を閉じさせ、弱点を抓る。


「静かに。で、ザウエルちゃんは何でまた私のもとに来たの?」

「な、なんでと言われても。あの感覚をもう一度味わいたかったし、魔王様に滅茶苦茶怒られて城から追い出されちゃったし……、行く当てもないから来ちゃった」


 ザウエルは舌を出し、きゃぴーんという効果音が鳴りそうなほど輝いた笑顔を浮かべる。


「私のところに来たら羽根ペンとしてこき使うけどいいの?」

「は、羽根ペンとして生活するのは何とも屈辱的だが、あのカリカリを覚えてしまってはもう、抜け出せない……」


 ザウエルは尻尾をカマキリの尻から出てきたハリガネムシのようにクネクネさせ、息を荒らげていた。こりゃあ、簡単に引き下がってくれそうもない。


「私、一応冒険者だから魔物や魔族が攻めてきても戦うし、同族と戦うことになるかもしれないけどいいの?」

「うちはキアスに操られて抗えない中、攻撃するだけだ。何ら問題ない」

「へぇ……、情が薄いんだね」

「人間だって他人は情が薄いだろ。魔王様と戦うことになったらさすがに気が引けるが、あの魔王様の体を羽根ペンでまさぐれると思えば……。えへ、エヘヘへ……」


 ザウエルは寒気がする笑い声を漏らし、頬の褐色をよくしていた。


「まあ、同性の友達が出来たのは結構嬉しいかな。気を使わなくていいから楽だ」

「う、うちが友達だと。ふ、ふざけるな。人間に友達呼ばわりされるなんて一生の不覚っ。今すぐ下僕に訂正しろ!」


 ザウエルは両手を持ち上げ、子どものようにブンブンと振っている。


「私にそんな趣味は無いよ。私の趣味は『禁断の書』を書くことなの」


 私は自分で書いている『禁断の書』をザウエルに見せる。師匠からは誰にも見せてはならないと言っていたが、私は気にしない。


「き、禁断の書だと。キアスほどの魔法使いが禁断にするほどの魔法。ど、どんな魔法なんだ」


 ザウエルは生唾を飲みながら、私から『禁断の書』を受け取る。


「丁度、私が書いた『禁断の書』を呼んでくれそうな相手が欲しかったんだよ。ぜひ、率直な意見を聞かせてほしい」


 私は一人で師匠の高みに行くことは不可能だと悟った。そのため、力を貸してもらえる者がいないか考えた。丁度、使えそうな魔人の少女が暗殺に来てくれたので自分がどれほど成長したか調べる良い機会だと思ったのだ。


「な、なんだこれは。な、なにが書いてあるのか全然読めん」


 ザウエルは『禁断の書』を見た。だが、人族と魔族で使っている文字が違うのか、はたまた私の文字が汚すぎるのか、どちらにせよ『禁断の書』を読んでもらえなかった。

 私はザウエルに魔法を付与し、文字が読めるようにした。


「おお、読める読める。ライト、俺、もう我慢できねえ。フレイくん、ぼくも、もう我慢できないよ。鍛え抜かれた鋼の肉体を持つフレイと女のように華奢な体を持つライトは互いに熱い眼を見合わせ、ほどよく潤った唇を重ね……、って~、なにこれ!」


 ザウエルの顔が真っ赤になりながら叫ぶ。翼が広がり、体温調節でもしようとしているのか、バサバサと動かしまくっていた。


「私が書いた『禁断の書』だよ。どうかな、上手く書けてる?」

「う、上手く書けてるかどうか、うちにわかるわけないだろっ!」

「じゃあ、私の師匠の『禁断の書』を読んで勉強して」

「……勉強って」


 ザウエルは案外素直な子で、師匠が書いた『禁断の書』を読み漁った。師匠の作品を互いに語り合える者が欲しかった。彼女は、私の言うことを聞く下僕らしいので誰かに言いふらす心配がない。なら見せても問題ないだろう。


「ちょ、えぇ、そ、そうなっちゃうの。にゃぁぁ~っ!」


 ザウエルは『禁断の書』を読みながらベッドの上を転がり回っていた。


「駄目駄目そんなことしちゃ、えぇ~っ! し、しちゃうの。にゃぁあ~っ!」


 ザウエルはベッドの上で体をバタバタと動かしながら叫ぶ。やはり師匠の『禁断の書』は力が全然違った。


「も、もう読み終わっちゃった……」

「どうだった? やっぱり師匠の『禁断の書』は凄いでしょ」

「まさか、こんな書物があるとは。男同士があんなことやそんなことを。ま、まあ、よかった」


 ザウエルは視線を合わせず、小さな声で呟いた。だが、尻尾がうねうねと蠢いている。


「じゃあ、私が書いた『禁断の書』も読んで」

「まったく、魔族使いが荒いな……」


 ザウエルは律儀に私の言うことを聞き『禁断の書』を再度手に取った。そのまま、読み進めて行く。


 ――なんか、自分が書いた品が読まれているって新鮮だ。


「うーん、さっきのと比べたら面白くない」


 ザウエルは率直な意見を私に伝えてくる。バッサリ切り捨てられた気分。真面な攻撃を受けたのは、師匠以来だ。


「どこら辺が面白くない?」

「ライトとフレイって人の感情が良くわからない。全体的に流れが悪いから面白くないかな」

「なるほど。やっぱり読んでもらえると自分の欠点が良くわかる」

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