第1話 異世界へ! って、あたしはべつにぃ?!

1-1 日本の夏! 田舎で夏!!

 日本の夏。


 山と田んぼと畑しかない。


 世界あちこち親父に連れまわされていたけど、農村って、あんがい世界どこも同じ。あたし的には、だけど。においがね、なんかおんなじって感じる。でも、懐かしい故郷といえるのはここしかない。


 おばあちゃんの田舎。


 なんもないけどね。


 ついこの前までトーキョーいたけど、あっちと比べちゃうとね。

 人もいないや。

 子どものころはもうちょっと人いた印象あるんだけどなあ。

 一緒に遊んでいた子たちはどこいったんだろう?


 夏休み明けたらこっちの学校。


 都会の学校も田舎の学校も、よくわかんないけどね。自称探検家の親父について回って、学校なんてほとんど行ってなかったから。なるようになるか。迷うくらいなら前へ進めってね。


 制服、似合ってるかな?


 あたし好みにアレンジして、ちょい小麦色の肌も健康的に見せているけど、こっちじゃ浮いちゃいますかねえ? さすがに学校にアクセつけて行かないつもりだけど、それも許されるならつけておきたいんですけど。いろいろ思い出あるもんだし。そのてん、トーキョーは自由だったな。


 ハハハ。知らんけど。


 学校の前に反応、見てみたかったんだけどねえ。誰もいませんねえ。

 外に出れば誰か、同年代の子でもいると思ったんだけど、いないもんなあ。


 笑える。


 仕方ない。夏休み明けを待ちますか。

 さあぁて、どんな顔されるかな。

 楽しみ、楽しみ。


 風が通り過ぎた。


 肩まで伸びた髪が乱れる。

 ここの所バタバタしてたからセットに行く暇もなくて、ガチぼさぼさ。

 それはちょいショボン。


『リーン……』


 手で乱れた髪を抑えたら、母さんの形見だって親父から渡されたブレスが左手首で音を立てた。

 静かな山んなかだとけっこう響くなあ。


「かなちゃん!」


 ん?

 音で気付かれたのかな?

 呼ばれて振り向いたら、夏草にうずもれた見知った顔。


「おばちゃん!」


 となりの、っていっても、田舎のことだからちょっと離れたところなんだけど。一人暮らしのあたしを気にして何かと世話を焼いてくれるおばさんだ。アガる。


「かっこいい格好だね」

「ありがと!」

「制服だろう? それ」

「うん! イケてる?」

「イケてる、イケてる」


 アハハ。


 なんか、おばちゃん、あたしに毒されたような気がするなあ。

 若返ってるし、いいじゃん?

 あたしは好きだなあ、そのほうが。

 おばあちゃんには見せられなかったこの制服も、おばちゃんに褒めてもらえるならやっぱ、ガチアガる。


 ニコニコしてたら、なんかでも、おばちゃんは暗い顔。

 もしかして、あたしが無理してると思ってる?

 んなわけ、ないじゃん!


「かなちゃんはぜんぜん、変わらないねえ」

「暗くなっても仕方ないじゃん。あたしは別に、大丈夫だよ」

「そう……。そうだといいんだけど」

「おばあちゃんもさ、あたしが落ち込んでたらそれこそ悲しむと思うんだ。あたしは元気! めっちゃね! そのほうがきっと笑ってくれる」

「きよちゃんはそうだったね。むかしからハイカラでねえ」

「ハイカラ?」

「ああ、まあ、昔のイケてる人はそういわれてたんだよ」

「ハイカラ! なんか、いいね!」


 ケタケタ笑ったら、やっとおばちゃんも、ちょい笑った。


「あの人はそう、かなちゃんとおんなじだった。さっぱりしてて何にも動じなくて、息子が放蕩で外国で子ども作っても、孫が出来たって喜んでいただけで……」

「おばちゃん、それはダメ」

「え? あ、ああ……」

「この褐色の肌も、瞳が緑なのも、あたしが自分で選んだわけじゃないしさ。そういうのをいうのはね、アウト。田舎でも、トーキョーでもさ」

「ごめんよ、そんなつもりじゃあ……」


 おばちゃんショボン。

 分かってくれればいいんだけど。

 ニカっと笑えば、おばちゃんもまた。


「ほんと、そんなさっぱりしているところがあんたのおばあちゃん、きよちゃんにそっくり。あたしもなんだかまた元気をもらった気がする」

「暑いからね、無理しないでね」

「あいよ。……そんなふうにね、自然と人のことを気にかけてくれるとこなんて、ねえ……」


 目頭を押さえるおばちゃん。

 死んだおばあちゃんの何かを思い出してしんみりしているみたい。

 それはそれでいいじゃん。


「あたし、おばあちゃんに似てるとか、おんなじとかいわれるの大好き。みたいな」

「おやおや、おばあちゃん子だねえ」

「だからね、おばちゃんも大好き」

「ありがとうよ」


 本心から思う。

 おばちゃんには長生きして欲しいな。おばあちゃんの分も。


「ハハハハ。そうだ、夏休み明けからだろう? こっちの高校に行くのは。一年生?」

「うん。楽しみ」

「制服着てるのからして待ちきれないってところかい? 東京と違って、こっちには何もないのに」

「ここにはここの良さがあるって」

「何かあったらいいなよ。一人きりになって、いろいろ不便だろうから」

「うん! ありがと」

「これからどこへ?」

「いつものとこ。お気に。そうだ! ここのいいとこじゃん、あっこって」


 そうそう。あそこは昔から、ここへ帰ってきたときには通ってたんだよね。


「神社?」

「うん」

「ほんと、好きだねえ、昔から」

「いいとこだよ、あそこは。静かで。騒がしいのがイヤってわけじゃないけど」

「神さんもビックリするよ、あんたを見たら」

「またあ……」

「いやいや、これは褒め言葉。うちの神さん、派手好きだからねえ。うちの祭り、かなちゃん知らないだろうけど、田舎に似つかわしくないくらい賑やかだから。それも神さんが望んでいたらしいんだ」


 ふーん……。


「そっか。ま、これからはさ、あたしもここにずっといるわけだし、秋? 祭りにも参加するし。なんか手伝えることあったらいってよね」

「ありがとう」

「畑とか田んぼとかも手伝うよ、いつでもいってね」

「ありがとう、いつも」


 気にしなくてもいいのにさ。


「腰の悪いじいちゃんに無理させられないし。当然じゃん」

「助かるよ。お礼にお野菜、いっぱいあげるからね」

「マ! ガチでおばちゃんの野菜おいしいから好き!」

「そういってもらえるとこっちこそうれしくなるよ」

「アハハハ」

「でも、野良仕事のときにそんなきれいな格好してきちゃダメだよ。アクセサリーもなくしちゃう。足も出してるとけがするし、蚊にも刺される」

了解りょ!


 あたしみたいなガキにも気遣い、ほんとうれしいよね。


「あ、そうそう。蚊で思い出した、これ、あげる」

「なに? スプレー?」

「アロマ。蚊除けにもなるんだよねえ。向こうでもらったんだ」

「ふーん。外国の?」

「うん。なんかいい感じ。じっさい、あたし、それでガチ蚊に刺されないし。向こうのジャングルんなかでもさ。おばちゃんにもあげるね」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 いつも何かと気にかけてくれるお礼。足しにもなんないけどね。


「じゃあ、神さんによろしくね」

「うん。じゃあ、またね」


 おばちゃんと楽しい会話。

 アガるよね。

 鼻歌なんて歌ったりして。

 あぜ道を進めばもう、すぐに御山おやまが見えてくる。

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