第43話 魔人

 祭りと花火が終わり街は静かになったが街の灯りは消えず人々も友達や恋人、家族と一緒に残り時間を過ごしていた。

 

 オペラから変異種の事を聞いた騎士は近くの仲間に伝え彼女から教えてもらった場所に向かう。そこには確かに大勢の騎士の死体があった。


「話を聞いた時は少し疑ってたけどこれは酷いな」


「見ろよこいつなんて子供が生まれたばっかりなのに」


 死んだ仲間を確認しながら1箇所に集め横に並べる。


「騎士はこれで全員だな。次は魔物の確認だな。どこだ?あの子の言う通りなら近くにあるはずだけど」


 周りを見渡すが魔物の死体は見当たらない。転がっている破片や物に遮られている場所も確認するが見つからなかった。

 血痕はいたる所にあるがこれは彼女の血だろう。まだ子供なのに危険な魔物と戦って倒したのは凄い才能の持ち主なのだろう。流石は国王様の娘だ。


 魔物の死体を探してみたが見つからなかったので一度戻る。仲間も探してみたが見つからなかったようだ。


「どうする?報告するにしても魔物の死体がないと納得してもらえないよな」


「だが報告しない訳にもいかないからな。班長はどこだ?」


「班長なら呼びに行ったんだけど隣にいた女の子が手を離してくれなくて来れなかった」


「班長って子供いなかったよな?知り合いの子供なのか?」


「ちげーよ、班長が連れてきた子供いただろ?年齢的に牢に入れることが出来ないから預かってる子。その子だよ。せっかくの祭りなのに遊べないのは可哀想だからって外に出してたんだってさ」


「アリッサちゃん大人しいよな。部屋の中で寝たり読者したり本当に犯罪なんか犯したのか?」


「さぁな。まっ俺らじゃわかんないし班長に任せようぜ」


 雑談を終わらせた彼らは彼女から聞いた話が本当だった事が分かったのでそれを班長に伝えるために戻ろうとする。

 背を向けると背中に寒気を感じる。寒気というより悪寒の方が正しい。


 足を止めて剣を構え皆で背中を向けて固まり円を作り警戒する。

 緊張か恐怖か冷や汗が流れる。深呼吸をして落ち着かせる。

 風がスゥっと流れる。


「ここ風通りよかったっけ?」


「いやあまりよくないはず」


「お前ら上だ!」


 1人が大声を上げながら上を見る。他の騎士も上を見ると魔人が落ちてきながら彼らに攻撃しようとしていた。

 彼らは円を崩して離れ攻撃を避ける。


「魔人?!ここにいたのは変異種の魔人じゃなかったのか?!」


「鎧…また雑魚か」


「雑魚?」


「ここから少し先にあるひらけた場所に鎧の死体があっただろ?あれは全部俺が殺した」


 理由を聞こうとしたがその前に仲間の1人が魔人に攻撃を仕掛けた。


「無闇に突っ込むな」


 魔人が腕を振ると騎士は細切れにされる。


「今の攻撃見えたか?」


「全く見えなかった」


「俺はもうお前らに用はない。死にたくないならどっかに行け」


 そっちが俺らに攻撃仕掛けてきたのになんで偉そうなんだ?なんで攻撃してきたんだ?


 ムカついたが剣を構えながら魔人を見つめて距離をとる。隣にいた仲間はビビってしまったのか剣を落として逃げてましった。


「お前は逃げないのか?」


「そうしたいけどできないんだよ。お前のような奴をここから先に行かせる訳には行けないんだ」


「お前のその目似てる」


 俺の返答を聞いた魔人の周りに風がふき始める。俺も全神経を集中させる。


 腕を伸ばすと強風が襲った。何かが頬をつたうのが分かった。汗かと思ったそれは血だった。

 何故血が出ているのか分からなかった。俺はただ強風を受けただけなのに。

 また腕を伸ばすと風が吹く。そしてまた顔に傷ができる。


「攻撃方法が分からない…けどやるしかない」


 魔人が腕を伸ばした時、しゃがみながら突進する。風が頭の上を通ると当たってしまわないか不安になった。

 顔を狙い剣を振るう。


「遅いな」


 体を後ろに倒し剣を避け鎧を蹴る。


「うぐっ」


 蹴りの衝撃と潰れた鎧が圧迫し苦しくなる。同時に1人ではこいつを倒すどころか長く足止めすらできないのが分かった。


「まだやるのか?もしやめるならもうお前とは戦わない」


 その提案を呑もうとしたがやめた。


「悪いけどできない。ここで逃げたら職務放棄になって後から怒られる」


「理由はよく分からないが戦うなら相手をする」


「明後日デートだったけど無理そう…」


 できるのは逃げた仲間が班長に伝える時間と祭りにきてくれた人が逃げる時間を稼ぐ為に1秒でも長く魔人を留める事。

 力の差は言われずとも分かる程ある。どれだけ稼げるかも分からない。けどやらなきゃやらない。

 


 逃げた騎士は自分の班の班長の元へ走ってきた。班長はまだ子供に引き止められていた。


「早く行かせてくれ」


「いーかーなーいーでー」


「一緒に遊びたいのは分かる。そのつもりで連れてきたんだから」


「そうじゃないの。あっちはダメ」


 同じ班の騎士が走っていった方向を指をさす。早く行きたいのに行かせてくれないのでどうしようかと考える。子供なので強く言い過ぎると傷つけてしまうし無理やり離すのもよくない。

 周りからの目線も集まって少し恥ずかしい。


 自分を呼ぶ声がしたので見ると班の1人が戻ってきた。

 剣を持たず逃げるように走っているのを見て話を聞きこうとしたがそいつが口を開いた。


「班長大変です。魔人です。魔人が出ました」


「それは本当なのか?」


「間違いありません」


「他の2人はどうした?」


「1人は死にました。もう1人は自分が逃げる時に置いてきてしまったので分かりません」


 顔には大量の汗をかいていて全力で走ってきたのが分かる。


「班長…仲間を見捨てて逃げてしまい申し訳ありません」


「魔人が相手なら仕方ない。伝えてくれてありがとう。お前は魔人の事を街にいる騎士にいいから伝えろ」


「私も離れた方がいい?」


「そうだな。近くにパーティ会場に騎士がいるからそこに行って」


「うん。気をつけてね」


「ありがとう」


 しゃんがんで怖がる彼女と目を合わせて話す。彼女は手を振り走っていく。

 伝えにきた騎士は話を続ける。


「班長、貴方も逃げてください」


「アホかそんなことできるか。今更だけど剣どうした?」


「逃げる時に落としてきちゃいました」


「「落としてきちゃいました」じゃねぇよ。拾ってこい」


「嫌です。戻りたくないです。戻ったら死にます」


 戻る事を頑なに嫌がるそいつの顔は怯えていた。そもそも3人で行ったのにこいつ1人しか戻ってきてない。1人は置いてきたと言ったが、もう1人はどうなったんだ?とにかく何を見たのかを聞かないと。


「ビビってるとこ悪いが3人で行った時に何を見たのか教えてくれ」


「は、はい。聞いた場所に行くとそこには複数人の騎士の死体とがありました。ですが魔物の死体は見つかりませんでした。報告しようと戻ってる最中に魔人に襲われその時に1人死に自分は残ったもう1人を置いて逃げてしまいました」


「魔物の死体は見つからずに魔人が現れた…」


 嫌な考えが浮かぶ。


「とりあえず分かった。お前は他の班の騎士に伝えろ」


「班長はどうするのですか?」


「俺は近くに誰かいないか確認した後国王に報告しにいく。もし出会ったら戦う。できるならそうならない事を祈る」


 ズンっと体が重くなるのを感じた。とてつもなく大きな魔力が高重圧のように体を踏みつける。

 俺、いや俺達の目の前に魔人は現れた。片腕には俺の仲間が掴まれていた。鎧は傷だらけで所々凹みがある。顔は下を向いていて見えないが血が流れていた。


「さっき逃げた奴か。隣のは誰だ?少なくともお前よりは強そうだな」


 避けろ!と口にしようとした時、強風が俺達を襲う。その風は強風とも呼べないほど強く気を抜くと大人の男でも簡単に飛ばずどこらか風圧で体が潰されかねい。

 風が徐々に強くなり飛ばされる。鎧は凹みもう使い物にならなくなっていた。


 魔人は起き上がってない仲間の元に歩くと腕を振り下ろす。地面に伏せているそいつの体は風圧に耐えきれず潰され血が飛び散る。


 仲間を殺された俺は頭に血が上り魔法を放つ。


「やっぱりそうか」


 魔人は魔法を振り払い目の前まで接近する。


「お前らは誰かが殺されるのを見ると強くなる」


「それが何だって言うんだよ」


「もし元々強い奴が誰かが死ぬのを見たら更に強くなると思わないか?」


 こいつ頭おかしいじゃねぇか?その言葉が口から出かけたが堪える。下手に怒らせて殺させないために。


「お前はそこそこ強いが満足できない。俺が強い奴と戦うために死んでくれ」


 騎士は抵抗しようと体を動かすが風圧に潰される。


「人間を殺したらそれを見た人間は強くなる。なら人間を殺してそれを俺と戦う奴に見せてやろう。そうすればもっと楽しめるはずだ」


 魔人は人の気配がする方へ足を運ぶ。強い奴を誘い出しそいつと戦うために。

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