第41話 変異種

 2つのマグナムを構え撃つがカキンカキンと鳴るだけで魔物の外殻には傷1つ付かない。ベールも剣で斬りかかるが刃がとまってしまう。


「っ硬い」


「ドウシタ?キズヒトツツイテナイゾ」


 攻撃された箇所を手で擦り余裕の表情を見せる。


「硬い外殻を魔力でより強固にしているの」


「じゃあ柔らかそうな顔を狙おう」


 顔に銃弾を打つ。外殻程硬くはないのか頬にスレ傷ができる。傷口から垂れた緑色の血を手で拭う。


「スレ傷が付いただけ」


「コノテイドノナラスグ二ナオル」


 頬のキズが小さくなり傷がなくなる。


「ツギハオレノバンダナ」


 手を出し魔力弾を放たれる。2人は障壁と岩石壁の2重壁を作り防ぐ。反撃しようとした時2つの壁が壊され腕がリンの首を絞める。


「ハンゲキマデガオソイ」


 ベールが剣で首を絞めている腕に剣を降ろすがもう片方の腕で剣を掴まれる。掴んでいる腕を斬ろうと力を入れるが微動だにせずそのまま剣を折り彼女の腹を蹴る。骨が折れる音がなる。

 ベールは地面に膝をつける。お腹を手で抑える。


「コレデオワリカ?ヨロイヨリハツヨカッタガソレダケカ」


「まだ終わってない…」


 リンは首を締めている腕を持ち手首を折る。手から離され右手に力を込め殴るが受け止められる。


「パンチトハオモエナイイリョクダ。タダノコドモカ?」


 受け止めていた手に力が入るのが分かり振り払い後退する。


「ウデヲオルツモリダッタノニキヅイタノカ」


 光の矢フォトンアローを撃つが手で払われる。矢を1つ取りそれを投げす。


「うわっ、あれ触れるの?!」


 魔物は数個の紫色の弾を出し飛ばす。


大地砕破ガイアクラッシュ


 地面から打ち上げられた岩石が弾を防ぐ。


「フン!」


 気合いの入った声と共に岩石を砕き着地、落ちてきた岩石の破片を紫色の弾と共に飛ばす。

 マグナムで破片を撃ち落とすが弾丸は紫色の弾に当たると消されしまう。


「弾が消えた?!」


 横から飛んできた氷槍アイスランスがリンの体を傷つけながら弾を消す。


「ベールちゃん、魔法使うのはいいけど当たってる!」


「ごめんなさい、魔法のこういう使い方に慣れてなくて」


「この魔物やっぱり何か違う」


「オマエタチノチカラハコノテイドデハナイハズ。チカラヲカクシテイルノカ?」


「隠してる訳じゃないよ。ただ皆を巻き込んじゃうからやらないだけ。それにすっごい疲れるんだよ」


 その言葉を聞いた魔物は魔力を放出する。


「ツカレルダト?フザケテイルノカ」


「ふざけてないよ」


「ユルサンユルサンゾ。タシカニオレモゼンリョクデタタカッテイナカッタ。ソレハゼンリョクヲダスヒツヨウガナイトオモッタカラダ。ナノニオマエハツカレルカラダト…。ユルサン、オマエハゼンリョクヲモッテコロシテヤル」


 周りの空気が重くなる。魔物から放出された魔力に圧倒されそうなる。


「なんか怒られせちゃったみたい」


「真面目に戦わなかったのに怒ってるようです。本気で戦うみたいです」


「全力で戦うの疲れる嫌なんだけど」


 嫌がるリンの頭掴み上空に投げ魔力弾で浴びせ地面に叩きつける。起き上がるリンに上空から魔力弾で浴びせ勢いをつけながら殴りつける。大きな音がなり埃が舞う。リンは動かず倒れている。

 オペラにリンの治療をお願いしようとしたが彼女はまだ治療を終えていない。

 魔物は狙いをベールに変え歩く。ベールは折れた剣を両手で握る。折れた剣で戦えるかという不安で胸がいっぱいになる。

 魔物が腕を前に出し手を広げると風圧が起こる。その攻撃は間違いなく魔法だった。


「これは魔法!?」


「オマエタチガマホウトヨブモノヲオレハツカエル」


 ベールは頭でわかったこの魔物が変異種であると。

 変異種、魔人と同じく知性を持つ魔物。人に近い外見をしているが全体的に魔物の要素がでている。人間の言葉や魔法を扱え、体の一部を操るといった特徴がある。


「ダマッテナイデコウゲキシタラドウダ?コワクナッタノカ?ソレトモアノコドモガキニナルノカ?」


 倒れているリンに視線を送る。怪我の様子が見えないため近寄りたいが魔物が正面にいて通れない。脇を通ろうとしても何かしらの攻撃を受けてしまう。


「タスケヨウトシテルノカ?コロスツモリデヤッタンダ。イキテイナイ」


「分からないですよ」


「イキテルワケナイダロ。ショックデオカシクナッタカ」


 手を掲げ魔力を集める。やがてそれは大きな玉-魔力砲になる。

 手が振り下ろされ地面を削りながら魔力砲が迫り来る。

 ベールは炎で折れた剣先を補う。


「炎で折れた部分をカバーしたけどこれじゃあ切れない。魔力砲を撃とうにも魔力が足りない。けど避けたら皆が。切れる方法はある…けど…危険すぎる」


 それは空間ごと対象を斬る技。下手をしたら対象と同じ線上に物も斬ってしまう。さらに剣の耐久力が低いと使用した後に剣が砕けてしまう。万が一そうなった場合魔法で戦うか、騎士の剣を借りるしかない。

 どちらを選んだとしても危険なのは間違いない。しかし魔力砲はすぐ目の前まできている。迷っている時間はない。


光刃フォトンエッジ


 炎が消え光の刃が伸びる。両手で剣を持ち頭上に掲げ目を瞑りスゥゥと深呼吸する。

 目を開けた時魔力砲と自身の間に誰かが入ってくる。


「ニーナさん?!どうしてここに」


「知らない強い気配がしたから気になって見に来たんだよ。門に穴空いてるし人は死んでるし大変だね」


「ダレカシラナイガシニタクナケレバドケ」


「危険です。避けてください」


 ニーナは焦ることはなく落ち着いた表情を見せ魔力砲を両手で受け止め投げ返す。

 投げ返された魔力砲を受け止めようと踏ん張るが押し負け潰される。


「立てる?」


 差し出された手のひらに傷があるが少しずつ治りかけていた。


「どうしたの?」


「その…火傷が」


「魔人になる前は変異種って呼ばれてて、魔人になってからもその能力が使えるの。治癒能力もその1つ」


「助けてくれてありがとうございます」


「どういたしまして。あの魔物変異種でしょ?何で逃げなかったの?」


「実は…」


 事の経緯を説明する。


「友達の治療が終わるまでの時間を稼いでたけどリンちゃんが怒らせちゃったんだね。」


「マジンガナゼニンゲン二テヲカス?」


 片腕を失った魔物は何事もなかったかのようにニーナに話しかける。


「片腕無くなったのに平然としてるんだね」


「コノグライスグニナオル。フン!」


 魔物が力を入れると腕が生える。


「再生した」


「なんで手を貸すって言われても困るよ」


「リユウナンテドウデモイイ。オレニハカンケイナイ。タダ、タタカイ二ワリコンダコトハユルサン」


「許さないならどうする?戦うの?変異種といってもあなたは魔物、魔人の私との力の差は想像してるよりあるけど…」


 話してるニーナに襲いかかるが防がれる。


「ね、言ったでしょ?」


「コレハホンキジャナイ」


「そうじゃあ本気でやってみなよ。それでも私に意味ないから」


 ニーナは挑発しながら手でベールに合図をする。意図に気づいたベールはリンをオペラの元に連れていく。


「リンちゃん」


「軽い怪我はしてるので回復魔法をお願いします」


「殺意むき出しの魔物のしかも変異種の攻撃を食らって軽傷って」


「魔物はどうしたの?」


「ニーナさんが相手をしてくれています」


 魔物は殴り続けるが交わされ受け流されてしまう。近距離ではなく魔力弾により攻撃をするも彼女の髪の触手で防がれる。


「ねぇいつまで続けるの?君じゃ勝てないよ」


「ダマレ。タタカイノジャマヲシタオマエヲカナラズコロス」


「辞める気はないのね。なら仕方ない。少し場所を変えようか」


 水の竜巻が2人を空中に打ち上げ屋台のある場所取りへ移動する。


「屋台の方に行っちゃった」


「私達も行こう」


「リンちゃんはどうする?。怪我は直したけどまだ起きなくて」


「僕が連れて行きます。ベールさんは戦って、オペラは魔法で僕達を回復してくれて疲れていると思うので」


 テオスはリンを背中に乗せる。


「軽い」


「女の子の体重について口にするのはよくないよ。確かにリンちゃん軽いけど」


「俺、まだ生きてる騎士に魔物の事伝えてくる。オーリーとカルーアも来てくれ」


「それぞれ別れていこう。ボクはパーティ会場の方へ行くので、カルーア君とトロワ君は屋台の方へお願いします」


 オーリー、カルーア、トロワの3人はそれぞれの場所にいる騎士に伝えにいく。ベールは途中で死んだ騎士の1人から剣をとる。

 4人が屋台に行くと辺りは水で濡れていて中央には猛攻を続ける魔物とそれを避けるニーナがいる。


「ねえまだ続けるの?」


「ダマレ!ゼッタイ二コロス」


「無理だしょ。1回も攻撃当たってないのに」


 ニーナは腹を抱えて笑う。


「ナニガオモシロインダ。ナニモオモシロクナイ!」


 怒りと共に魔力を放出し衝撃で屋台や人、破片が飛ばされる。


「きゃー」


 偶然近くにいた女性と子供が悲鳴をあげる。


「ダマレ!」


 怒声と共に彼女らを風圧で攻撃する。怪我をした子供は泣き声をあげるが魔物がそれに苛立ち魔力弾で撃つ。魔力弾は子供の顔に当たり首から血が吹き出す。

 女性はアヤと口にし悲鳴をあげるが直後彼女の視界の端から魔力弾が映る。


「そんな」


「ニーナツギハオマエガコウナル」


「流石に全く関係ない人が殺されるのを見たら怒るよ。それと私の方が年上だから敬語使え」


 魔物に対しニーナは強めの口調で返す。

 顔を見る事はできないが背中を見て彼女が怒ってる事がわかった。


「そんなに本気で戦って欲しいならやってあげる。関係ない人を殺した事を絶対に許さない」


 髪の触手がゆらゆらと揺れ、辺りを濡らしていた水が竜巻の形になる。


「待ってください」


 オペラはニーナを止める。


「ニーナさんが本気で戦うと戦ってる時の被害が大きくなってしまいます」


「そうかもしれないけどさ、誰が戦うの?」


「私が戦います。この国の王女としてこれ以上あの魔物による被害を増やすしたくないんです」


「オマエガタタカウノカ?ワルイガモウキョウミガナイ」


 オペラは両腕を広げると魔物を両横に右手と左手の巨人の手ギカントハンドが出てくる。手を合わせると手は魔物を押し潰す。

 魔物は腕を受け止め魔力砲で粉々にする。


「貴方がこれ以上誰かの命を奪う前に倒します」


「ムリダナ、ソコノフタリトヤリアッテワカッタ。オマエハアイツラヨリヨワイ」


「私は2人と比べると弱いです。でも逃げる訳にはいけないんです」


 最初魔物を見た時怖くて戦うという選択をできなかった。リンとベールが代わりに戦ってくれると分かった時心のどこかで安心していた。この2人なら魔物を倒してくれると。けれど2人は太刀打ちできずやられてそして関係ない人が殺されてしまった。

 恐怖と悲しみが心を埋めそうになるが、女性と子供の命を奪われた事に対する怒りが込み上がる。

 ニーナと魔物が戦った場合、彼女に激しい怒りを抱いている魔物は国民を巻き込む可能性がある。そうならないようにするにはニーナ以外の誰かが戦うしかない。そして戦えるのは自分しかいない。

 この国の王女として、国民を皆を守る為に、この魔物を倒さきゃいけない。


 震える体を深呼吸して落ち着かせる。


「オペラさん、その魔物は変異種です。全力で戦ってくたさい」


「変異種?!」


「モンノマエデミタトキハスコシビビッテイタノニイキュウ二カワッタ」


「覚悟してください」


「リユウハワカラナイガキョウミガワイテキタ。オレトタタカエ」


「言われなくても戦いますよ。全力で」


 まだ胸には恐怖と不安がある。けれど皆を守るために勇気を出す。

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