第37話 不正
祭りが開かれ王都の集まった人々はパーティやゲームをして楽しむ。
オペラはパーティに参加し、ベールとリンは屋台のゲームをしに行く。
「3人で屋台で遊びたかったー」
「他の貴族の方との交流会でもあるようなので仕方ないですよ」
屋台を見ていると射的をやってる屋台に人が集まっているのを見かける。気になり見に行くとマリーが射的の的を次々と打ち倒し景品をゲットしていて、彼女の足元にはぬいぐるみやお菓子が置かれていた。的を狙うその姿は標的を狙うスナイパーである。
彼女はそこから数個景品を手に入れると後ろにならんでいた他の人に譲る。
「マリー」
「リンちゃん、ベールちゃんも祭りに来てたんだね」
「ぬいぐるみ好きなんですか?結構取ってましたけど」
「これは軍で保護している子達に上げるんだよ。小さい子もいるからね」
レイスの被検体にされた子達は軍で保護され面倒を見てもらっている。本来学園で学ぶ予定だったものは代わりに少佐以上の軍人教えている。
「射的で遊んでていいの?仕事は?」
「数日間の休みを取ったから大丈夫よ。ちなみに向こうでユウリ大佐が金魚すくいやってるよ」
向かいの屋台では金魚を捕まえようと必死にポイを振るうユウリがいて彼の持っている器には水だけが溜まっている。
「大佐下手くそですね、私はこんなに取りました」
「お前は得意なものを選んでやったんだろ。ぬいぐるみ多いな」
「金魚は諦めて隣の水風船でも釣ったらどうです?」
水風船釣りは水に流される水風船を釣り上げるゲーム。釣り上げる時はWの形の針で釣るのだがカギに付いている紙が破けやすく、そこに水の流れが加わるので金魚すくいよりも難しい。
「こっちの方が難しいだろ」
文句を言いいながらも屋台の人からカギと器をもらう。金魚すくいをしてる時よりも集中していて後ろからちょっかいをかけるマリーに気づいていない。
周りのお客さんも彼に注目し手を止める。紙がきれないように慎重にカギを下ろす。上手くカギが引っかかっらず釣る事が出来ず紙が破れるか破れないかギリギリの状態である。
マリーが諦めるように促すがユウリはまだ行けると言いカギを下ろす。カギは水風船のカギ用の輪っかに引っかかりそのまま釣る。釣った水風船を器に入れるとカギの紙は切れてしまった。
周りのお客さんは苦労して1つの水風船を取った彼に拍手を送る。
「なんか恥ずかしいな」
「皆さん、大佐が釣ってる姿を見ていたんですよ。それにしても本当に下手くそですね」
マリーはユウリを見て笑う。それに怒ったユウリはお前もやってみろと言い、彼女は自信満々に挑み倍以上の数を取る。
「ほら取りましたよ」
「なんだろう。胸が少し痛む」
「射的なら大佐でも楽しめますよ。きっと」
「お前慰めになってないぞ」
マリーがいた屋台では大人が、隣の射的の屋台では子供が遊んでいる。
リンも銃と弾をもらい構える。狙う的は当たりと書いてある的。弾を的に当てるがビクともしない。ベールも同じ的を狙ってみるが動かない。屋台の人が魔力を使ってもいいよと言うのでベールは魔力を込めるがちょっと揺れるだけで落ちなかった。
「あの的落ちないよね?」
小さな男の子が声をかける。話を聞くとその子や友達がこの屋台で射的をやったが何度やってもこの的だけは落ちなかったらしい。
「失礼な事聞きますが小細工してます?」
「おいおいそんな卑怯な事する訳ないだろ?そもそもこの的は他のより大きいんだから落ちづらいのは当然だろ?」
「だとしてもこれだけの人がやっても倒れないのはおかしいです」
「そうだ!そうだ!」
ベールや子供達が抗議するが店主は無視をする。
「店主さん俺もやっていいか?」
「いやあんたはダメだよ」
「なんでだ?祭りは身分や年齢を問わず楽しむものだ。それなのに断るのは祭りの本来の目的に反するがいいのか?」
話を聞いていたユウリが店主に自分もやっていいか問う。店主は少し困った顔をし断るが渋々承諾し銃と弾を渡す。
「あれ弾少ないよ」
「本当だ、おじさん贔屓だよ」
「いやいや承諾して銃と弾を渡したんだ。数が少なくても文句言うな」
子供と男は言い合うがユウリは気にせず弾を込める。
「確認したいんだが的を落とせばいいんだよな?」
「あぁそうだ。落ちた景品はやる」
「弾は4つか」
弾の数を確認し当たりと書かれた的を撃つが動かない。次は下の小さな的を撃ち落としタワシをもらう。3発目は隣の的を落とし小さなぬいぐるみをもらう。4発目は魔力を込めて1発目と同じ的を撃つ。少しだけ動いたが落ちなかった。
「残念だった。他の人に譲りな」
「申し訳ないけどもう1回だけやらせてくれないか?」
「嫌に決まってるだろ」
「金は払うから、やらせてくれ」
「ちっ、仕方ねぇな」
店主は舌打ちをし弾を3つ渡す。1発、2発と撃つが弾は落ちない。子供が諦めよう言うがユウリは絶対に取るから見てて言い銃を構える。店主は早くしてくれと言い急かす。
ユウリは黙って弾を撃つ。撃たれた弾は的ではなく店主のおでこに当たり的が並んでいた棚ごと倒れ的は全部落ちる。
「おっま、何しやがる」
「弾を撃っただけだが?」
「そうじゃなくてなんで俺を撃ったんだよ。的を撃てよ」
「景品が欲しかったら的を落とせばいいんだろ?だから俺は
「言わなくても分かるだろそんな事」
「だったらよお前だって分かるよな。ズルをしたらいけないことぐらい」
「何言ってやがる。ズルなんてしてねぇよ」
「これを見てもそれが言えんのか?」
倒れた棚を持ち上げる。当たりと書かれた的が置いてあった場所には固定された本立てがあった。これは的が落ちないように細工されていた証拠である。
「あれって本立て?歯科も固定されてる」
「店主さん、これの説明お願いできるかな?」
「偶然置かれてただけだろ」
「こんなガッチリ固定されてるのが偶然なんてありえるかな?ありえないよな」
店主は客を退けて逃げ出すがリンが足を引っ掛けて転んでしまう。
「このガキ」
「ズルは良くないよ、おじさん」
「さて説明してもらおうか」
他の屋台にいた人も騒ぎを聞き集まってくる。その中には見張り中の騎士もいる。店主は口を閉じ顔を赤くしている。
見物している人の中から首にタオルを巻いた若い青年が出てくる。
「すみません、何かあったんですか?人がこんなに集まってますけど」
「この店主が射的で不正をしてたんだ」
「店主?この人が?この屋台は僕の屋台ですが。ほら申請証と許可証もあります」
青年が見せた2つの紙には彼の写真と王の印鑑が押されている。
「貴方僕の屋台を開いてたんですか?だいたい誰ですか?」
「まぁ落ち着いて、ここは俺とこいつに任せて欲しい。これでも帝国の軍で働いているんでね。さてと向こうで話を聞かせてもらおうか。騎士の方も来てくれ」
ユウリはマリーと騎士と一緒に男を連れて人気のない場所に移動し質問を始める。
10分位待っていると戻ってきてユウリは青年に説明する。男は屋台を開いて稼いでいる人を見て自分もやりたいと思い誰もいなかった屋台で勝手に営業を始めた事と1番の当たりを取られたくなかったから不正をした事を伝えた。
その後男は騎士に連れていかれ、ユウリとマリーは他の屋台を回りに行く。
後から騎士が隣で同じ射的の屋台を開いている女性に話を聞いたが忙しくて店主の男が違う人に気づかなかったらしい。
リンとベールは綿あめを食べながら屋台を巡る。ゲームの屋台には子供が集まり、大人は焼きそばやたこ焼きを食べている。
「お腹減ったしオペラちゃんのとこ行こうよ」
「お昼ですし丁度いいですね」
お腹が減ったついでオペラのいるパーティ会場へと行く。
屋台のある道から離れた所で元気よく走る少女とそれを追いかける少女がいる。グレースとエリスの2人だ。
「グレースーこっちー」
「逆、逆、屋台はこっちだから。遊びに行くから着いてきてって言われたから来たのに何で世話をしなきゃいけないの。そもそも何よこれ」
「何ってお祭りだよ。年に1度だけ開かれるんだって。1人でも来るのも良かったけど折角だから皆と行きたくて」
「リースとスピカ、ヘナがいないけど」
「声掛けたけど断られちゃった」
そうでしょうねと哀れみの視線を送るグレースだがそれを気にせず腕を引っ張り走る。
「前見て」
後ろを見て走っていて前を歩いたいた人に気づかずぶつかってしまう。
「痛って。どこ見てやがる」
酒を飲んでいるのか相手の口からは酒の匂いがし思わず鼻を閉じる。
ごめんなさいと謝るが頭に血が上っているのかグチグチと小言を続け、エリスの腹を蹴り持っていた水風船が割れる。
「さっき取った水風船割れちゃった」
「あーヤバいかも」
エリスが何をするのか分かっていたグレースは銀色の幕を出し人気のない場所に移動する。
「何処だここ」
突然別の場所に移動した酔っ払いはと惑うがすぐにそんな事を気にしなくなる。先程蹴った少女が鎌を持ちこちらに歩いてくる。
「はっ、何だよその鎌。ただ蹴っただけのに殺すのよ。やめてくれ。許してくれ」
恐怖で酔いが覚め顔を青くなる。少女は鎌を振い首をはね首がゴロりと転がる。
「スッキリしたー」
「ねぇ嫌な事があるとすぐに殺そうとするのやめてくれない?いい加減直した方がいいよ」
「ごめん。殺さないように我慢してるんだけど我慢できなくて」
「そもそもあんたが前をみてれば良かったの。そうすれば蹴られなかったし風船が割れなかったんだからさ」
「そんな事よりも遊ぼうよ。まだまだ気になるのが沢山あるんだよ」
「ちょっと話を聞きなさい。それと道はそっちじゃないから」
グレースは祭り会場と逆の方向へ走るエリスを追いかける。
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