第30話 ニーナ

 池の中から現れた魔人はボク達に気づく。体に緊張が走る。


「お前は誰だ」


 リカールは魔人に問いかける。


「私はニーナ、魔人です。この洞窟で暮らしています。貴方達こそ誰ですか?ここで何をしていたの?」


「俺はリカール。この洞窟には魔石集めとここにいる魔物の討伐と魔石を集めにきた。」


「魔石?」


「この洞窟のあちこちに落ちてる石の事だ」


「へぇこれ魔石って言うんだ。討伐した魔物はどこ?」


「池の近くに倒れているそれだ」


 リカールは魔物の死体を指さす。魔人は魔物の死体を見て頭に手を置きながらハァと深いため息をつく。


「こいつ本当に馬鹿だなー、どうせ自分より弱い奴ばっか襲ってて今日もそこの子供を襲ってたら殺されたんだろ」


「怒らないのか?」


「怒る?いやいやむしろ感謝だよ。こいつ私がいない時にここに誰かくるとそいつにちょっかいをだすんだ。たまにやり過ぎる時もあるからいつか罰が当たると前から思ってたから」


 彼女は笑いながら語る。


「もしよければ少しだけ話さない?普段誰も来ないから退屈で」


 ボク達は互いに顔を見合わせ話し合う。話し合った結果リカールが彼女と少し話すことになった。


「俺でいいなら少し話そう。だけどお願いがあるこの子達を家に送ってもいいか?見ての通り体がベタついているからお風呂に入らせたい」


「それもこいつのせいね。本当にごめんなさい」


「なら私も帰っていい?依頼された物を作らないと行けないから。ニーナだっけ、お互い時間がある時にゆっくり話しましょう」


「嬉しいです。お仕事頑張ってね」


 シェリーは微笑み洞窟を出る。リカールもリン達を連れて一度戻る。


「お父様、あの魔人と話すんですか?心配です」


「大丈夫、直感だけど彼女は悪い人じゃない。もしもの時はシェリーに助けてもらう」


「シェリーさんは強いんですか?そんな風には見えませんでしたが」


「少なくとも騎士よりも強いぞ。帝国でいうなら少将以上の実力はあるかな」


 ユウリや斑鳩の階級が大佐、少将はその1つ上の階級である。つまり少なくとも彼ら以上の実力を持っている事になる。


「お風呂に入ってゆっくりしてなさい。帰ったら皆で夜ご飯を食べよう」


「夜ご飯はオムライスがいい」


「オムライスか、伝えておくよ」


 リカールは転移魔法で洞窟へと戻る。ニーナはテーブルと椅子を用意してくれていた。


「見た目は悪いですがテーブルと椅子を用意しました」


「両方とも石でできてる。この短時間で作ったのか」


「えぇ、実はそこの池は海に繋がってていい感じの大きさの石を持ってきて削りました」


「結構器用なんだな」


「そんなことないですよー」


 彼女の頭の触手はうねうねと動く。多分照れているだろう。


「聞きたいんだがどうして俺達を襲わなかった?」


「私も前は人間を襲ってた。でもある時、それはもう意味がないと気づいたの。それと飽きたからかな」


「人間を襲うのは意味がない?」


「いつか分かるよ。用事を思い出したのでお話しはここまでにしましょう。少しの間だったけど話せて良かったです」


 彼女は池の中へと入っていき、リカールも転移魔法で家に帰った。



 リカールの家ではリン、オペラ、ベールの3人が楽しくお風呂に入っていた。


「お風呂大きーい。寮のお風呂の数倍の大きさはあるよね」


「この屋敷の使用人の方もここを使うので大きく作ったらしいです」


「リンさんはなんで目を瞑りながら体を洗っているのですか?」


「え、いやお風呂入る時は1人だから誰かと入るのはちょっと恥ずかしくて」


「女の子同士なんだから恥ずかしがらなくてもいいじゃん」


 オペラは後ろからリンに抱きつく。彼女の胸の柔らかい物が背中に当たる。


「オペラちゃん当たってる。当たってる」


「リンちゃんの体綺麗だねぇ」


「あ、ありがとう。じゃなくて離れて」


「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」


 オペラはボクが怪物と戦ったあの日以降時々だけど周りに人がいるいないに関わらず今のようなスキンシップをする様になった。彼女がどうしてボクにするのか分からないけど照れるし恥ずかしいからやめてほしい。


「ふざけてると怪我しますよ。体を洗ったなら水で流して湯船に浸かりましょう」


 シャワーで体を洗い流し大きな浴槽に張った湯船に入る。湯船は温かく体中の疲れが取れるのを感じる。


「はぁー疲れが取れるー」


「魔石を集めに行ったのに服を破かれるとは思いませんでした。助けが来なかったら色々と危なかったですよ」


「その時はまあ何とかしてくれるよ、誰かが」


「魔道具早く出来ないかな」


「マグナム持ってるなら魔道具の銃要らないと思うのですが」


「2丁の銃で戦った時にそれが意外とよかったから。ついでに万が一のための予備かな」


「そろそろ上がろう。のぼせちゃう」


 浴槽から出て髪と体を乾かし使用人が用意してくれた服に着替えオペラの部屋に移動する。


「お父様はまだ帰ってきてないですね。3人でトランプを遊んで帰りを待ちましょう」


「ババ抜きやりたい」


「私もババ抜きがいいです」


「シャッフルして配るね」


 ジョーカーを1枚抜きシャッフルし配る。ベール、オペラ、リンの順番で回す。

 少し経つとそれぞれオペラ2枚、ベール2枚、リン1枚まで減った。


「これかな」


 リンの引いたカードはクローバーの5、持っていたハートの5と合わせてペアができて上がった。ベール1枚、オペラ2枚


「最後の一騎打ち。負けません」


「私だって負けないよー」


 お互いに睨み合い沈黙が続く。ベールはゆっくりと手をだしカードを引く。彼女が引いたカードはスペードの4、クラブの4を持っていたのでペアができ彼女も上がった。


「あー、負ちゃった」


「思ったより集中してたね」


「下に降りてお父さんが帰ってきてるか確認しに行こうよ」


 下に降りて玄関に向かうと彼も丁度家に帰ってきた。


「お父様おかえりなさい」


「ただいま。帰るのが遅くなってごめん、急いでご飯を食べよう」


 リカールは使用人の人に申し訳なさそうにしながら食事を用意するように頼む。


「食事がくるまで時間がかかるから食堂で待ってて。俺は急いで風呂に入ってくる」


 駆け足で風呂場へ向かっていくリカール。ボク達は食堂に行き座って食事を待った。

 使用人が食事を持ってくるとお風呂から戻ったリカールも食堂に入り席に座る。いただきますの挨拶をして食事を口に運ぶ。


「洞窟では災難だったな」


「奇妙な魔物じゃなくて変態の魔物の間違いですよ。本当に。助けてくれてありがとうございました」


「心配になったから追いかけたけど間に合ってよかった」


「魔道具はいつできる?」


「帰りに聞いてみたけど明日明後日にはできるとは言ってた」


「思ったより早かった」


「多い時は1日で20個は作るからな。早ければ明日の昼頃には連絡がくる」


「じゃあ今の内にユウリに連絡しとこ」


 ボクはユウリに明日のお昼にアストラ王国にくる様に連絡した。


 いきなりお金を持って隣国に来てと連絡を受けたユウリが驚いたのは想像がつくだろう。


「よしこれで来てくれるはず。夜ご飯ご馳走様眠いからもう寝る」


「ゆっくり休めよ、おやすみ」


「リンさんおやすみなさい」


「私も一緒のベットで寝るー」


「別々のでいいでしょ!」


 リンとオペラは食堂を出て2階に行く。


「仲いいな」


「リンさんは少し困ってましたけどね。私もそろそろ寝ます。おやすみなさい」


「おやすみ」


 ベールが食堂を出て自分一人になった空間でリカールは魔人の言葉の意味を考える。


 人間を襲うのにもう意味がない。


 「もう」と言う事は前は意味があったという事になる。しかしどんな意味があったのか。


「誰かに相談してみるか?」


 片手を頭に起き考える。


「いや辞めよう。今思ったけど魔物はいつからいるんだ?明日から時間がある時に調べよう。今日はもう休もう」


 食堂を出て自室に行き、風呂に入りそのまま眠った。

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