第23話 VS魔人ラシェテ

 リンは銃を寝巻きのポッケにしまいゴミを払って軽くストレッチする。


「よし!」


 勢いよく跳び魔人の顔面に蹴りを入れる。魔人は植物の葉を何重にも重ねて盾を作り顔を守る。


「これ結構固い」


「リンさんの蹴りを受けてビクともしないなんて」


「いきなり顔を狙うなんて少しだけびっくりした。ただそれだけだけど」


 ラシェテの足元から食人植物が生え自我を持っているかのように動きる。食人植物の口がリンを喰らおうとした時穴から出てきたベールが炎魔法で植物を焼き払う。


「リンさん、相手はあの魔人なんですからよく考えて行動してください」


「ごめんね、気をつける」


「あの魔人はどうやら植物を操ることが出来るみたいです。それにここは森の中なのでこちらが不利です。どう戦えばいいのでしょうか」


「植物系の魔物なら炎魔法が有効なんだろうけどそもそも使えないし、ベールちゃんが使っても周りの木とか草に火が移っちゃうしどうしよう」


 戦い方を考えるリンとベール、しかしラシェテはそんな事お構いなく攻撃を続ける。

 一切容赦のない攻撃を避ける2人だが、その状況に苛立ちを覚えたラシェテは穴の中にいるオペラ達にターゲットを変える。


「ちょっと何で穴の人達を狙うの。今戦ってるのは私達でしょ」


「戦ってるのは貴女達だけど穴の中の人達を攻撃しないと言ったかしら?」


「卑怯よ、正々堂々戦いなさい」


「正々堂々戦おうと思ってけど貴女達攻撃を避けてばっかで戦ってくれないんだもの」


 笑みを浮かべながら自身の右腕を大きな口に変え髪を伸ばし毒の治療をするオペラを狙う。治療に集中していたオペラはラシェテの髪に捕まってしまう。

 ベールはオペラを助けるために駆け寄ろうとするがラシェテが左腕をベールの方に伸ばし制止させる。


「それ以上近づくとこの子をあたしの腕の口で噛み殺す。嫌なら持ってる剣を捨てて、白髪の貴女もさっきしまった銃を捨てなさい」


「そんな事するわけないでしょ」


「別に捨てなくてもいいけどその時はこの子が死ぬわよ?」


 ラシェテはオペラを拘束する髪に力を入れる。オペラは苦しそうな表情を浮かべもがいている。

 ベールとリンは仕方なく持っていた剣と銃を地面に置く。


「言われた通り武器を手放した。だから彼女を離しなさい」


「今の言い方もの凄く腹が立つんだけど。あたし自分より弱い奴に上から目線で物言われるの凄いやなの。気が変わったこの子やっぱり殺すね」


 オペラの体を強く縛りつける。彼女の体からは骨が砕ける鈍い音が聞こえくる。


 穴の中にいたロゼリアやリアンがオペラを助けようとラシェテに攻撃するが効果はなく逆に反撃されてしまった。


「つ、強い」


「あたし達の攻撃が全然効いてない」


「魔物もどきが邪魔しないで。もう少し痛めつけてから殺そうと思ったけどもういい殺そ」


 右腕の大きな口がオペラを喰らおうとしたその時自身の右腕がないことに気づく。


「あたしの腕がない?!」


「戦うって言ったのに人質を取って、解放して欲しかったら武器を捨てろと命令して挙句の果てには自分が言った事すら守らないなんて何がしたいの?」


 ラシェテの目の前には自身の腕とベールの剣を持つリンが立っていた。

 リンは人質を取り約束を守らないラシェテに対して怒りが湧いていた。


「いつの間に目の前に、いやそもそも武器がないのにどうやってあたしの腕を」


「簡単だよ。気づかれないように物凄く早く接近してベールちゃんの剣で斬った」


「あたしの腕を返しなさい」


「じゃあオペラちゃんを離して。そしたらこれを返す」


 ラシェテは自身の腕を返してもらう為に仕方なくオペラの拘束を解く。


「彼女は解放したわ。だからあたしの腕を返して」


「嫌だ、ベールちゃん」


 リンは否定の言葉を口にすると魔人の腕と剣をベールに投げる。ベールは剣をキャッチし魔人の腕を炎刃斬バーニングスラッシュで数回斬る。斬られた魔人の腕は燃え尽きてなくなってしまった。


 ラシェテは約束と違うと言わんばかりにリンの顔を睨む。


「何その顔、もしかして本当に返してもらえると思ったの?馬鹿じゃないの?そっちが約束守らなかったんだからこっちも守る訳ないでしょ?」


「このガキ、お前だけは絶対に殺してやる」


 魔人はギリギリと唇を噛む。


「人質がいなくなったしこれで思う存分戦える」


 リンは地面に落ちていた自分の銃も拾う。


「さぁやろう」



 銃を持ちラシェテの前に立つ。

 ラシェテも髪の毛を逆立たせ、周辺の植物は意志を持ってるかよの様に動き回る。


 ラシェテが左腕を前方に突き出すと木の枝や食人植物がリンに迫る。

 リンは風刃ウインドカッターで枝や植物を切りそのままラシェテの懐に入り拳を腹に入れる。


 ラシェテは空中を舞うが髪を木に引っ掛けて戻り逆にリンを空に飛ばす。


「空中なら思うよう武器を扱えないでしょ」


 1本の木が大きな花に変化し花弁を開く。花弁の中心が光り輝きながら魔力を溜めていた。


「リンさん避けて!」


「いや、無理でしょ?!空中だから武器上手く扱えないし」


「魔法を使えばいいじゃん」


「あっそうか」


「これで終わりよ」


 花弁から収束された魔力がリンに向けて放たれる。


聖光の一閃ホーリーレイン


 放たれた光と魔力がぶつかり合う。

 互角に思えたが光が徐々に押し返していった。


「押し返されてる。私の全力の攻撃が?!ありえない」


 そして光はラシェテを貫き灰になった。彼女が立っていた場所にはおおきなクレーターが出来た。



「ふう、何とかなった」


 ベールやオペラが駆け寄ってくる。


「オペラちゃん無理しないで」


「私は大丈夫です。回復ヒールを使ったから痛くないよ。リンちゃん凄いね、あの魔人を倒しちゃうなんて」


「先生方が手も足も出なかった魔人を倒すなんて本当に凄いですね。私は何も出来ませんでした」


「そんなことないよ、魔人の攻撃から助けてくれたじゃん」


「そうでしたね」


「2人とも先に穴の中にいる皆を助けないと」


 3人は穴の中にいる人達を外に出したオペラが全員の毒の治療を行った。治療してる間はロゼリアやリアン、他の実験体の子が見張りをしてくれた。



 しばらくすると倒れたいた生徒や先生が目を覚ました。


「お前ら無事だったのか、良かった」


 グリスはボク達が無事な様子を見て安心したようだ。


「あの魔人はどうしたの」


 結花は魔人がどうなったのかを問いかける。


「リンちゃんとベールちゃんが戦って倒しました」


「魔人を倒したの?!2人とも凄いね」


「正確に言えば倒したのはリンさんです」


「倒したのがリンだとしてもお前も戦ったのは事実なんだろ。それだけでも十分凄いんだから胸を張れ」


「はい」


「安全な今の内に帝国へ戻りましょう。まだ体が動かせない人は動ける人に手伝ってもらって貴女達も手伝って」


 結花はロゼリア達に手伝うようにお願いする。

 ロゼリア達はお願いを聞き入れ動けない生徒達の手伝いをし、生徒達は一切嫌がることはなく彼女達に感謝していた。



 帝国へ戻るとグリスと結花は生徒や行方不明になっていた子供を軍の回復術士ヒーラーに預け、付き添いとして2人も術士についていった。

 リンやベールを含む何人かは他の子と比べると問題ないと判断されて術士に預けられなかった。



「ユウリ大丈夫かな」


 回復術士ヒーラーのいるテントで結花はユウリの心配をする。


「多分大丈夫だろ。あいつ普段寝てるイメージがあるけど結構強いし」


「だといいけど」


 ユウリの言葉を聞いても結花の胸の内では彼の安否が気になって仕方なかった。


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 回復術士ヒーラーとは回復魔法の扱いに長けた人物。学園や軍などの人が沢山集まる場所では必ず1人いる。

 回復術士ヒーラーの役割は、怪我や病気の治療、毒を持つ魔物や植物の調査が主な仕事である。

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