第21話 未来の為に必要なんです

「寝てる時に騒がしくしちゃってごめんね。実は…」


 カリンが起きたリンに状況を説明する。話を聞いたリンは彼女たちに冷たい目を向けたことを謝る。


「てかなんでここにいるの?」


「それは私に説明させて」


 リンはメイと同じ質問をする。するとネルが経緯を説明してくれた。

 魔物と戦っていた時にオペラと佳奈が助けてくれてその後2人に安全な場所に避難してと言われてリンの部屋に入ったことを話した。


「経緯はわかったよ。だけどなんでここなの」


「避難する場所を探してる時に魔物がリンちゃんの部屋を避けているのがわかって、それでここにいたら安全だと思ってここにいたの」


「あれ?でもさっきリンちゃんが撃ったのは入ってきたよね」


 カリンの言葉に私たちは疑問を浮かべる。

 数分の沈黙の後にベールが口に開く。


「さっきの魔物何か変じゃなかったですか?」


「確かになんか扉を叩いて確認したり開けたりしてたよね。それに気配が人間ぽかった」


「そういえば街に出た奴もなんか少し人間みたいな動きしてたような気もする。これって偶然かな?」


「「「「うーん?」」」」


 皆、頭を傾ける。


「とりあえずグリス先生のところに行ってみる?これだけ騒ぎがあれば気づいてると思うし」


 ボクは皆に問いかける。


「他の先生はともかくグリス先生は正直頼りがいがないなー」


 ウンウンと全員が首を縦にふる。

『グリス先生、生徒からの信頼がなささすぎるよ』と思いながらも皆の意見に共感してしまう自分がいる。


「けどリンちゃん言う通りだね。それに私たちだけじゃどうでも出来ないし」


「まだ隠れてるかもしれない生徒は?」


聖域サンクチュアリでも張ってれば大丈夫でしょう」


 聖域サンクチュアリを張るとそのエリアに魔物が侵入することは出来なくなり、エリア内にいた魔物は生命活動を停止する。


「では皆さん行きましょう」


 リン、ベール、メイ、カリン、ネルの5人は寮全体に聖域サンクチュアリを張り、学校に向かう。



 夜遅くまで学園に残っていたグリスと結花は、異形の姿となったレイスに会う。その姿は人間とは程遠く体はスライムのような液状になっていて形を自由自在に変形させていた。

 彼の大きな手には数人の生徒が抱えられていた。


「レイス久しぶりだな。話したいことは色々あるけどとりあえずそれ置いてけ」


「生徒をそれ呼ばわりするのはやめなさい」


「お2人とも久しぶりですね。生徒を置いてけとのことですがお断りします。彼らは私の実験に必要なのです」


「実験だと?生徒を使ってたか?それってただの人体実験じゃねぇか」


「生徒をそんな事に使わせてないわ」


 結花の言葉を聞いた途端ケネスはピタッと体の動きを止める。


「''そんな事''だって?ふざけたことを言わないでください。これは必要なことなんです。人類の未来の為に!なので邪魔をしないでください!」


 レイスは怒り声を荒らげ背中から無数の棘を飛ばす。


 そうこれは人類の未来の為に必要なんです。彼女達の脅威から生き延びるために。


「結花俺の後ろに」


 グリスは右手を前に出し障壁バリアを張る。


「未来の為?人体実験やってる奴が言ったって説得力ないぜ?」


「話してないでさっさと生徒を助けるよ」


鉄針アイアンニードル


 グリスの周りに数個の球体が現れそこから鉄の針が伸びる。


「ぐ…体の中で針が広がって動けない」


「そのままじっとしていてください」


 結花は身体強化と風魔法を使って生徒を救出する。


「しまった」


「グリス生徒は助けたよ。後はよろしくね」


 生徒を大きな球に入れた結花は何処かにいってしまった。


「あっおい。ったくマジかよ。仕方ないやるか」


 グリスはその場で一呼吸しレイスをみる。


「生徒を取られてしまいましたが問題ないです。彼女を追いかければいいだけです」


「お前が何をしようとしてるのかは分からないが生徒を危険な目に合わせようとした以上教師と見過ごす訳にはいかない。覚悟しろよ」


 暗い空の下両者は互いの力をぶつけ合う。



「ねぇ見て誰かいるよ」


 学園近くの道を通るリンたち5人は自分たちの数m先に誰かいることに気づく。慎重に近づき見てみるとユウリが立っていた。

 リンたちに気づいたユウリは静かに彼女たちに近づき路地裏の細い道に連れていく。


「リン、こんな時に外に出て何してんだ。寮の中で静かにしてろ。後なんでお前パジャマなんだ?」


「寮にも魔物が出てきて先生に頼ろうってことになって皆で学園に向かってる途中。それとパジャマを着てるのはついさっきまで寝てたところを起こされたから」


「だからってなぁ。少し待ってもらうとか出来ただろ?」


「お話のところすみません。なぜこんな事態になってしまったのか教えていただけますか?」


 ベールはユウリに問いかける。ユウリはレイスという研究員が子供を誘拐して人体実験していたこと、彼の実験体や魔物が軍内部で暴れその内の何匹かが街に脱走、さらにレイスも逃げたことを話してくれた。

 その話を聞いた彼女たちは暗い顔をする。


「ここに来るまで会った魔物の中に、レイスの実験の犠牲者がいるかもしれないだけど今は落ち込んでいる場合じゃない。俺たちは今自分たちの責務を全うする。弔いはその後だ」


 ユウリの顔は怒りと悲しみが混ざったような表情を浮かべていた。



「ユウリさーん」


 スライムの少女と半人半鳥の少女が近づいてくる。ボクたちは咄嗟に武器を構える。


「待て待て、こいつらは俺たちに危害を加えないから大丈夫だ」


「本当に大丈夫なの?」


「本当に大丈夫だって、もし危害を加えた時は俺が対処するから」


「ならいっか」


「そろそろ話していい?」


「ごめん忘れてた」


 半人半鳥の少女はハァと大きなため息をつく。


「この辺り一帯を飛んでみたけど何もなかったよ」


「そうか。ありがとう」


「何か気になることがあったの?」


「いやどうも誰かに見られてる感じがするからこの子に見にいってもらったんだよ」


 ユウリの言葉を聞いた時に視線に気づく。多分グレースが見てるに違いないね。は気づいてるよ。


「リンどうした?」


「何でもない。それでどうする?」


「仕方ねぇからお前らを連れて行くしかないな。あーめんど」


 リン以外の全員がそう思っても口に出さないで欲しいと思いながら呆れた目でユウリを見つめる。


「一旦ここから離れませんか?こんな狭い所にこれだけの人数がいるのは危ないと思います」


「俺が学園まで連れて行ってやるよ。学園に着いて教師がいたらそいつに頼れ」


「もしいなかったら?」


「知らん」


 この人1回だけ殴っていいかしら?


 拳を握りしめるベールをなだめるネル達の横でロゼリアとメイは何かが飛んでくるのに気づく。



 その数秒後グリスがリン達のいる路地裏前に飛んできた。ユウリは路地裏を出て様子を見に行く。



「痛ってて思ったより強いな。あれ、ユウリこんな場所で何してんだ?」


「仕事だよ。お前いいタイミングで来てくれた。あいつらを頼む」


 路地裏の細い道のリン達を指さす。


「悪いが無理だ」


「何でだよ」


「すぐに分かる」


 2人の前にレイスが姿を見せる。


「きっもちわるい姿だな」


「ユウリさん貴方は少し言葉を選んだ方がいいですよ」


「いや余りにお前の見た目が気持ち悪すぎてつい口が滑った。それは置いといて俺の前に出てきたからにはわかってるな?」


「人間を超えた私に勝てるつもりですか?」


「''魔人''じゃないなら勝てる」


「日頃から寝てばっかの人が調子に乗るな!」


「最近は全然寝れてなぇよ!」


 謎にキレるユウリとレイスが戦いを始めたとき、グリスはリン達の元へ赴く。


「お前ら無事だったんだな。急いでここから離れろ」


「先生はどうするんですか?」


「とりあえずユウリと協力して戦う」


 ドゴーン

 ユウリが建物に吹き飛ばされ壁が大きく凹む。


「私に勝てると言ってた割には全然大したことないですねー」


「お前がさっきから色んな姿に変わるからやりづらいんだよ!」


 こいつの体どうなってるんだ?動物になったと思ったら次は植物、なんなら乗り物にまで変形しやがる。本当に人間を辞めたらしい。

 それに銃や魔法で攻撃しても効果がほぼない、どんな攻撃なら効くんだよ。


「ユウリしゃがめ!」


 風刃ウインドカッターを放つ。ユウリは飛んでくる刃をギリギリで避け、刃はレイスの体を横に真っ二つにする。


「あっぶねぇなおい」


「しゃがめって言ったろ?」


「俺がしゃがんでないのに放っただろ」


「死んでないしセーフ、セーフ」


「アウトに決まってんだろ」


 文句を言いながらレイスがいた場所を見ると彼の姿はなく、水溜まりのようなものがあった。


「どこにいった?」


 路地裏から叫び声が聞こえる。見に行くと透明の体のレイスがリン達7人が捕まっていた。


「では失礼しますね」


「待て!」


「逃がすか!」


 逃げようするレイスに対し魔法を放とうとするが彼女達を盾にし魔法を放つ。


閃光フラッシュ


「うわ眩し」


 眩い光で目を瞑る。目を開けるとレイス達の姿はなかった。


「クッソ逃げられた」


「急いで探そう」


 2人が通りを進むと地面に倒れている結花を見つける。

 グリスは彼女の元に駆け寄り生死確認する。多少の怪我はあったが生きてきた。


「結花大丈夫か?」


「何とかね」


「生徒達はどうした?」


「ついさっき、翼を生やしたレイスに突き落とされてね、その時に私が連れてた子達が」


「このままだとマズイな。最悪連れていかれた全員があいつの実験に利用される」


「それだけは絶対に許さん」


「けど探そうにも場所が分からないよね」


「やべぇそうだった、あっ」


 ユウリはリンに渡したマグナムにもしもの時のために発信機を付けていたことを思い出し、居場所を調べる。

 発信機の信号は、ダークフォレストから出ていた。


「居場所がわかったぞ。ここだ」


「ここってダークフォレスト?でもあそこには森と魔物以外ないよな」


「もしかして地下があるのかも」


「森の地下に実験室でも作ってるのか?いつ作ったんだよ」


「いつ作ったかはどうでもいい。今は連れていかれた子供を助けるのが重要だ」


「その通りだ」


 斑鳩が部下を引き連れて歩いてくる。後ろにはマリー、ケネスもいた。


「盗み聞きしてすまない。部下たちと歩いていたら話が聞こえたからそのまま聞いてしまった」


「でこれからどうするよ。あいつをボコすのと子供の救助は確実として今からはキツイぞ。昨晩の件で全員が疲れてるし、魔力や弾薬とかも足りないだろ」


「ユウリ大佐それなら大丈夫です。総帥が大量の武器と弾薬それと魔力回復薬を用意してくれました」


「マジか、総帥に感謝だな。欲を言えば総帥も来て欲しかっけど」


「総帥は自分の武器無くしたから無理とのことです」


 グリスと結花以外の全員はその場呆れてため息をつく。


「よし少し休息を取ってから行こう。任務に行くのは階級が少佐以上の4人とこちらの民間人2人の計6人。他の者は街の人の介護や建物の修復の作業についてくれ」



 斑鳩の指示を受けた後、各々が休息をし準備を終える。


「皆準備出来たか?」


「俺と結花両方とも準備できてる」


「自分もです」


「私もできてます。ユウリ大佐はどうですか?」


「さっき少しだけ寝たから問題ない。次は絶対に勝てる」


「よしいくぞ!」


 斑鳩、ユウリ、マリー、ケネス、結花、グリスの6人はケネスの捕獲と子供達を助けるためダークフォレストに向かう。

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