第19話 豹変

「あぁどうしましょう…本当にどうしましょう」


 レイスの研究室

 私は自分が保管していた魔物や実験体が脱走して軍内部に混乱をもたらしたことに焦っていた。


「今回もあの時も一体なぜ…いやそんなことはどうでもいい。今は一刻も早くここから離れなければ」


 カバンの中に次々と紙をいれ部屋をでるがそこで斑鳩と鉢合わせる。


「レイス無事か」


「私は無事です。斑鳩さんこそ無事だったんですね」


「飯食ってる途中だったのに最悪だよ。そのカバンはなんだ?」


 彼は私が持っているカバンに目線をむける。


「え?あぁこのカバンの中には大事な資料がはいってるんですよ」


 まさか斑鳩さんと遭遇するとは面倒です。早くここから離れて別の拠点に移動しなくては。


「ここにずっと居るのは危険です。ひとまず離れましょう」


「レイスお前は4階のオペレーター室に行け。あそこは他より比較的安全だ」


「貴方はどうするんですか?」


「俺はまだ無事な人がいないか確認する」


「そうですか、それでは私は先に」


 私は彼と別れオペレーター室に避難する。



 オペレーター室にはオペレーターの他に階級の低い人が数人避難していた。


「ひっ誰!?」


「私です。レイスです」


「レイスさんですか。てっきり魔物かと」


 目の前の女性が安堵すると別の人物が私に近寄り声をかける。


「あんた外の様子わかるなら教えて欲しい」


「焦ってきたので詳しいことは分かりませんが多数の種類の魔物が各階に溢れているとは思います」


「まじかよ…なんでこんな事に」


 私の研究室にいた魔物や実験体が脱走してしまったとは言えないですね。

 それにここに避難したはいいもののどうやってここから脱出しましょうか。


「お、おいみろ!ドアの隙間から何か入ってくる」


 私を含めた全員がドアに目線をむける。ドアの隙間から液状の物体が漏れていた。


「何あれ…スライム?」


「もしかして魔物だったりして」


「怖いこというなよ。仮にスライムだったとしても俺たちで十分に対処できる」



 スライムと思われる物体が部屋の中に入り人の形になる。


 それは部屋を見渡して私がいることに気づくと口を開ける。


「ようやく見つけた。みんなーここにいるよー」


「何を見つけたっていうの」


「そこのお姉さん知りたい?あたし達が何を見つけたか。あたし達が探してたのはそこにいる白衣の男だよ」


 彼女は私を指さす。部屋中の視線が私に集中する。


「私を探していただって?一体なんのために」


「あんたを殺すために決まってるだろ」


 角が生え全身が体毛で覆われた男がスライムの背後から現れる。


「おまえが俺たちぐらいの年齢の子供を誘拐して人体実験したせいでこんな体になったんだ」


 彼は私が子供を誘拐しそして人体実験をしていたことを話してしまった。

 その話を聞いた人たちは私に詰め寄る。


「今の話本当なのか」


「……」


 バレてしまったからには仕方ありません。ここにいる全員処分するしかないですね。


「黙ってないで答えろよ!」


 中年の男が胸ぐらを掴む。


「うるさいですね」


 ゴトッ

 私の胸ぐらを掴んでいた手が床に落ちる。


「うわぁ俺の手が」


 男はもう片方の手で激しく出血する手を抑える。


「手を欠損した程度でうるさいですね」


「あんた何してるの」


「何って見てわかるでしょう。この人の手を切断したんですよ」


「だからなんでそんなことをしたのかって聞いてるの」


「今から死ぬ人に何を言っても時間の無駄です」


 レイスの周囲にいくつもの魔法陣が浮かび上がりそれぞれの魔法陣から魔法が放たれる。

 部屋の中にいた魔物、人間、そして実験体全員が死んだことを確かめるとレイスはため息をつく。


「これで私の秘密は守られました。しかしこれだけ魔法を放ったので誰か来る前に逃げましょう」



 その場を去ろうとした時小さいが何かの音が鳴っていることに気づく。

 音は部屋の隅の女性の傍にある通信機から鳴っていた。


「通信機まさかさっきの話を誰かに。だとしたら急いでここからでなければ」


「おいおい何処に行くんだよレイス」


 聞き覚えのある声が聞こえ振り返るとユウリも2体の魔物が立っていた。


「これはこれはユウリ大佐私に何かご用ですか?」


「ここに用はあったから立ち寄っただけだ。まぁお前にも用はあるけどな」


 ユウリは魔物や人間の死体と血溜まりしかない光景をみて驚くが何事もないかのようにレイスに話しかける。

 ロゼリアは怯え、リアンは怒りの表情を顕にした。


 ロゼリアとリアンの様子から察するにこいつが関係してることは間違いない。

 そして今まで集めてきた情報も合わせるに行方不明事件や街での騒動もこいつが関わってる。


「おやスライムの貴方は街で騒動が起きた時に脱走した子ですね」


「お前この子達に何をしたんだ」


「その子は私が密かに行っていた人体実験の被験者の一人ですよ。ちなみにですがここ数ヶ月で起きている行方不明事件も全て私が関係しています」


「まさかその全員が」


「ええ全て実験の被検者ですよ。証拠に街やここにいた魔物の中に人間の子供ぐらいの大きさの個体がいたでしょう?」


 思い出してみるとロゼリアやリアン、リンを襲った魔物も全て子供くらいの大きさだった。


 俺はとある疑問が思浮かび聞いてみることにした。


「1つ聞きたい。なんで子供なんだ?」


 行方不明の子供たち全員が人体実験の被験者にされているとしたらなぜ子供だけなのか。俺はそれを疑問に思った。


「なぜ子供なのか。それは子供の方が魔物との融合しやすいんですよ」


「魔物との融合?そんなこと出来るわけないだろ」


「それが出来たのですんよ!彼女が持ち込んである物のおかげで」


「ある物?」


「レイスさんはマリーさんがリンちゃんを連れてきた時の事を覚えていますか?」


「もちろん覚えてるぞ。マリーが俺のバイクで魔物に突っ込んだ挙句にぶっ壊したあの日だろ?」


「あの日に彼女があれを私にくれたおかげで実験は大いにすすんだのです」


 マリーがリンを連れてきたあの日にレイスに渡しそうな物。

 確かマリーは人間の言葉を話すアルラウネに出会ったと言っていた。

 そんで死体はレイスが預かってたはず

 

「ある物ってアルラウネのことか?」


「そうです」



 2人が話をしていると階段を登る音が聞こえてくる。


「どうやら人が集まってきたみたいですね。私はこれで失礼します」


「待て!」


 ユウリが追いかけようとすると彼の後ろにいたリアンがレイスに攻撃した。

 レイスの体は全身穴だらけになりその場に倒れた。


「リアン可能なら足だけにして欲しかった」


「それはごめんなさいね。でも貴方が言ったのよ?『恨みがあるなら直接ぶつけてやれ』って」


「確かに言ったけどせめて捕まえた後にして欲しかった」


 ユウリがどうしようか考えていると致命傷をおったレイスが起き上がった。


「イテテ、恨みがあるとはいえ容赦ないですね」


「なんで生きてるの。全身に穴が空いてるのに」


「私の体をよく見てください。穴なんてどこにもないですよ」


 起き上がったレイスの体には先程開けられた穴が一つもなくなっていた。


「ここを去る前にその2人は回収させて貰いますね」


 ロゼリアとリアンに両腕を伸ばし拘束する。2人は腕のなかで必死に抵抗する。


「失敗作の貴方達では抵抗するだけ無駄です。大人しくついてきてください」


「レイスその2人を離せ」


 俺はレイスの腕に発砲する。


「ユウリ大佐も容赦ないですね」


「なんでお前みたいなやつに手加減しなきゃいけないんだ?」


「ハハそれもそうですね。これ以上ここに長居するのは良くないので逃げさせてもらいますね」


「逃がすと思うか?」


「思ってませんよ。ですが私なんかに構っていていいんですか?脱走した何体かは街の方に向かいましたよ」



 ユウリの通信機が鳴り街に数体の魔物が出現し人々を襲っていることを知らされる。


「マジか…」


「ではさようなら」


 レイスは部屋の窓から飛び降りた。ユウリは窓から顔をだし周囲を確認したがレイスの姿はなかった。


「クッソ逃がした」


「ユウリ大変だ。また街に魔物がってなんで魔物連れてんだ」


「それについて後で話す。今動けるやつ全員で出動するぞ。ロゼリアとリアンは俺の部屋で待っててくれ」


「待ってあたしたちも行く。お手伝いをしたいの」


「それにあんた達の近くにいた方が安心できるしね」


「えーとユウリこの子たちは信用していいのか?」


「信用していい。万が一問題を起こしたら俺が対処する。それでいいな?」


 3人は首を縦に振る。


「そんじゃあ出動」


「他の奴らには俺から言っておく」


「わかった。俺らは先に行く」


 俺とロゼリアとリアンの3人は街に向かい、斑鳩は今動ける人達に説明した後に出動した。

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