悪食の使徒PORTAL1 防衛都市フォレスト
宇賀光
第1話 強者と弱者
広場での喧騒の最中、人々の悲鳴と重火器の怒号が響く。
防御壁を越えて侵入して来た奴等。
ここは地獄だ。
数時間前までこの防衛都市フォレストのアルファ地区は平穏であったのに、奴等が来た瞬間に地獄絵図と化した。
機械の身体をした生命体は人々を無慈悲に蹂躙し、捕食し始める。
それを見て戦意を喪失する者、嘔吐する者、逃げ出すもの。
皆一様に戦うことを放棄していた。
普通の一般人にはどだい無理な話だ。
羊のように狼に捕食される、そう僕は目を閉じ、耳を塞いだ。
しばらくして鼻にこびりつく錆びた臭いで現実逃避から現実に戻された時には辺りには誰も居らず、僕だけが孤立しているのが分かった。
奴等が僕を攻撃しなかったのは何故なのか?
そんな思考と共に足は震え、下腹部から液体が染み出してくる。
餌ですら見てくれなかったのだと悟ると後ろ向きに倒れてしまう。
ぁぁ、終わった。そう思った時、横から飛び出してくる黒い何かが僕の前に居た奴に噛み付いた。
獣同士の戦い、それを見てそう思った。
「君、大丈夫?」
獣の後ろを駆けてきた黒髪の少年は、僕に気が付いて声を掛けてくれたことに気が付くのが遅れて、不審な顔をされたことで気が付く。
「は、はい、大丈夫て、す!!」
盛大に語尾を噛んでしまった羞恥心に俯いてしまう僕に少年は笑顔で笑う。
「そっか!じゃあ後ろのあのデカい建物まで走れるかい?」
「な、何とか!」
呆けている間に無理矢理担ぎ起こされるなり、背中を叩かれ冷静になった。
初めてこの人は、誰なのか疑問が浮かぶ。
「あの!貴方は誰ですか!!」
重火器と倒壊の轟音で叫ぶ僕に少年は同じく声高に叫ぶ。
「俺か、んー正義?いや違うな。ん……あ!俺は、悪者だ!そんじゃね、君!」
そう言って黒い何かの後を追い掛け始めた。
僕はそれを見えなくなるまで見送った。
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